今週末は第2回KSIアドバンスコースが始まります。
このコースはベーシックコースを出られた方しか受けることができません。
奥森先生が研究、進化されたインプラント支持による新しいパーシャルデンチャーを含めた欠損補綴のバリエーションを広げるために素晴らしいコースだと思います。
私もオブザーバーとして伺います。今から楽しみです。
そこで今回のコースが始まる前に去年のアドバンスコースを受講された愛知県の会員 米津浩二氏が書かれたアドバンスコースのレポートを掲載します。
このレポートは歯科技工に掲載されるはずでしたが手違いで掲載されませんでした。もったいないのでブログに掲載します。
画像はこちらで編集させていただきました。
どんなことしていたか参考にしていただければ幸いです。
もちろん去年より新しい内容が含まれると思いますが・・・・・
KSI Advanced Education に参加して
平成23年3月23日
ユニバーサルデンタル(愛知県)
米津 浩二
2010年6月26日から翌年(2011年)1月27日まで合計7ケ月、KSIアドバンスコース研修会が(有)インターグローブ社の協賛で白水貿易株式会社本社(大阪市淀川区)にて行われた。
この研修会は講師である奥森健史氏が主催するKSI BASICコースを修了した者限定で行われ、“デンチャーワーク、メタルプレートはもちろんインプラントをどうアンカーとしてオーバーデンチャーに組み込むか”奥森氏がこれまで臨床の中で試行錯誤して培ってきた技術を応用し進化した術式を余すことなくご教授頂き、盛り沢山の内容の実習研修となった。
ケース1
審美性を考慮した自家製アタッチメントメタルパーシャルデンチャー
デンチャーワークをしている我々にとって、“メタルパーシャルデンチャーの審美性をどう向上するか”は悩ましい問題である。インプラントを応用しないとなるとなおさらである。
その一つの方策としての自家製アタッチメントを用いたケースである。
既製のアタッチメントを使うという方法もあるのだが、奥森氏がいつも意識している「次の一手」。つまりデンチャーワークにおいて口腔内の変化にどう対応しどう備えていくかのオプションを持つことが重要となり、既製のアタッチメントの弱点である修理、修復が難しいことやコストがかかることをクリアするために、「次の一手」の一つのオプションとしてPAアタッチメントを利用して自家製のアタッチメントの製作を行った。
まず右上3に自家製アタッチメントを設定しメタルプレートをホースシュータイプのメタルパーシャルデンチャーを製作。はじめに、鉤歯になる歯冠を製作しPAアタッチメントを取り付け、通方通り鋳造を行いアタッチメント部にすこしテーパーをつける形でミリングを施してそれに合わせて矯正ワイヤーの屈曲を行い、自家製アタッチメントを製作した。そしてアタッチメント部のリリーフを行い後は通方通りメタルプレートを設計、模型処理、サベーイング、復模型製作、ワックスアップ、埋没、鋳造、研磨とベーシックコースで学んだことを生かし注意深く作業を行いホースシュータイプ(適合では難易度が高い)のメタルプレートを製作した。ベーシックコースと同じように研修生が皆、ナイスフィットでメタルプレートを製作できた。後はメタルプレートと矯正ワイヤーを即重レジンで連結して完成し実際に模型上で取り外しを行い、適当な維持力になるまで調整を行った。
奥森先生はメタルプレートの製作を通じ基本設計やアタッチメントの選択はもちろん重要であるがその前の段階のマウスプレパレーションからサベイドクラウンの製作の要点などメタルプレートを作る前の口腔内をどう整備をし、これにより技工士の構造設計が決定され、「次の一手」を予知できることが重要であると説かれ様々なトラブルに対応した隠し技もレクチャーしてもらった。
また、奥森先生は昨今のノンクラスプデンチャーの安易な使用に対して警鐘を鳴らされこれが真のノンクラスプデンチャーであると、語られた。
ケース2
2つのタイプのインプラントアンカーを利用したオーバーデンチャー
上顎両側44 66相当部にインプラントフィクスチャー埋入のケースで左右46のコーヌス内冠ブリッジにそれぞれ2つのタイプの維持機構を取り入れたオーバーデンチャーの製作である。
2つのタイプに共通しているコーヌスミリングは歯冠長の長さによってテーパーを調整し、咬合力にどう対応して設計していくか選択基準の咬合高径から軸壁をどれくらい確保できるかでショートコーピングもしくはロングコーピングのどちらかの選択となる。
実習であった為、右側は旋回式スイングロックを利用した維持装置、左側はフリクションピンを利用した維持装置の形となった、臨床ならば左右同型の維持装置となるが、実習と言う事もあって左右非対称の製作実習となった。
まず、本邦初公開!スイングロックを利用した維持装置製作である。インプラント内冠ブリッジ支台にスリーブが装着され支持と把持が確保されそこに、スイングロックアームの内側に設定した突起が、連結したインプラント内冠ブリッジのポンティック部の粘膜側に挿入されこれにより維持が確保される。
正直今までスイングロックを臨床で使ったことがないのでイメージがわかなくデモ前までは得体のしれない装置を製作するようで、ドキドキしたが設定のポイントやアームの入る経路を詳細に説明して頂き非常に理解しやすく作製することができた。
スイングロックは昔の技工というイメージであったが、奥森先生のアイデアで最新のインプラント技工と融合し新しく生まれ変わって蘇ったスイングロックがまったく新しい技工に見え感動を覚えた。
2つ目のフリクションピンを利用した維持装置はコーヌスクローネの欠点であるセット時の調整の難しさ、経年変化による維持力低下を克服するために奥森先生独自に改良されたものである。連結されミリングされた内冠と外冠スリーブの間にフリクションピンを内側に入れ込むことにより維持力調整が可能となり、より臨床に即応することが出来るようになりますますオーバーデンチャーのバリエーションが広がるように感じた。
2つのタイプのインプラントアンカーが出来上がると通方通りメタルプレートを設計し製作した。インプラントオーバーデンチャーを製作する時、咬合力に耐えうる構造にするためにはメタルプレートを用い補強しなければならない、その時唇側面にどうしても金属の維持を遮蔽しながらカバーしなければならない、そのためにガム用のハイブリットレジンを用いてよりリアルに審美性を回復した。研磨操作も、ダイアモンド含有の研磨剤を用いる事で非常にきれいな仕上がりとなった。完成時にはあまりにもリアルな出来上がりにうれしさのあまり研修生一同歓喜にわいた。
ケース3 スクリューアタッチメントを利用したボーンアンカードブリッジ
上顎112欠損の顎堤に2本のインプラントを埋入したケースで、まず連結されたインプラント支台をドルダーバータイプの形にし、その軸壁にミリングを施して(軸壁の数、長さによって角度を変える)そこに、ショルダーを付与してスクリューアタッチメント(ポンティロック ヘラウス社)をセッティングして上部構造体と鋳接を行い、スクリュー固定の術者可撤式上部構造体にしメンテナンスし易い設計を目指した。その上で奥森先生はこれからのインプラントの上部構造体の必要条件は審美性の追求はもちろんのことであるが、
“力のコントロール”
“クレンザビリティー(清掃性)”
“メンテナンス(修理、改変、調整)”
をあげ、そのすべての条件を満たす構造体を目指さなければならないと強調され、このドルダーバータイプの上部構造体はクレンザビリティーの観点から非常に不潔になり易いと言われ、この問題を解決するために “次の一手”として上部構造体の内面にスペーサーを設けフリクションレジン(ブレーデント社)を張り水分の侵入を防ぎスクリューで止め、この問題を解決した。このように出来上がった構造体はあらゆる問題点をクリアーした考えつくされた補綴物である。今回は研修なので短いケースであったが、フルマウスから歯肉部をボリュームアップするケースなどいろいろな臨床形態に応用できる。また、上部構造体はメタルボンドやプレスセラミック 及びカスタムの人工歯まで幅広いバリエーションを持っていると感じた。奥森先生も実際の臨床ケースをスライドでレクチャーされ、その実用性を強調された。臨床でのオーバーデンチャーの設計に一つのバリエーションが加わったのは間違い無いことである。
KSI アドバンスコースを終えて
この研修を終えて、最初は6ヶ月コースの予定であったが実習研修が追いつかず 1ヶ月延長する事になり、充実の7ヶ月であった。
適合とか追求して苦労していたことが一昔前のことのように感じる。適合の問題点が解決した今、デンチャーワークに一番重要な 力のコントロール 審美性 予知性 “次の一手”を考慮しながら構造設計することがより重要であると悟った。それを実現するために
マウスプレパレーションをし、基本設計を歯科医師と情報を連携しながら進めていかなければならないと思った。
また、研修を通してつくづく思ったことは奥森先生の技工に対する真摯な取り組みと飽く無き探究心である。どこから生まれてくるのかアイデアの宝庫である。氏がこれまで試行錯誤で研究されどれだけの失敗を積み重ねられたか想像に余りあるくらいである。その貴重な情報を惜しげなく与えてもらい我々研修生一同が臨床で生かしていくことが重要であり KSIのスローガンでもある、Thinking Dental Mechanic (考える歯科技工)を胸に、プライドを持って泥臭く頑張っていきたいと思う。
最後に、この研修会を受けるにあたって、多くの取引先の先生方にご迷惑をおかけした事を深謝いたします。また我々のために深夜まで付き合って下さった㈲インターグローブのスタッフの皆様方や、研修会場を提供してくださった㈱白水貿易様に感謝いたします。