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「星の王子さまの世界 (中公文庫):塚崎幹夫」
内容(「BOOK」データベースより)
『星の王子さま』は、読み手によって幾重もの意味を受け取ることができる優れた文学作品である。この物語が書かれた第二次大戦下に、著者は「ウワバミ」や「バオバブ」などの記号に何を託したのか。フランス本国での豊富な文献などを参考資料として附した、『星の王子さま』研究の必携書。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
塚崎幹夫
1930年(昭和5年)、神戸市で生まれる。1953年、京都大学文学部卒(フランス文学専攻)。富山大学名誉教授
とね日記は「にほんブログ村」のフランス語のカテゴリーにも右足の小指ぶんだけ、つまり応援クリックの10%ぶんだけ参加しているので、ときどきフランス語系の記事を書くことにしている。記事を投稿するたびに、フランス語ランキングのほうにも新着記事として表示されるのだ。
今日紹介するのはサン=テグジュペリの「星の王子さま」の解釈本のうちのひとつ。
「(NHK)100分de名著 サン=テグジュペリ『星の王子さま』<全4回>」も第3回まで放送され、残すところ来週の水曜日の1回となった。本書を紹介するにはよいタイミングだと思う。また、フランス語の学習教材の紹介として昨年「Le Petit Prince (星の王子さま)」という記事も書いている。
僕が『星の王子さま』を読んだのは小学生のとき内藤濯訳が最初で、その後高校生のときに英語版、大学に入ってからフランス語版を語学学習のために読んだ。また2005年に原作の日本での著作権保護期間が満了してから出版された倉橋由美子訳も読んでいる。
この本はメルヘン小説ではなく、とても切ない話だということが子供の頃、最初に読んだときにわかり、いろいろ意味不明な箇所を見つけ、大人になるまでずっと「謎を秘めた本」という印象のまま何度も読んできたのだ。
今回放送されたNHKの番組で謎が解決されたかというと、まったくそのようなことはない。良くも悪くもNHKらしい「模範的な」内容で、本書にこめられたメッセージは「人が生きていく中で見失いがちなこと、陥りやすいことを気づかせてくれる本」という解釈だ。「手入れを怠ってしまったために、小さな星を埋め尽くしてしまった3本のバオバブの木は、それぞれ人間の醜い感情をあらわしているのでしょう。」と解説を担当している先生はおっしゃっていた。
そのような解釈が一般的で、自然なのだと思うが、全体を通してどうも釈然としない。本の記述で随所に見られる不自然さや王子さまの「こだわり」には、さらに隠された何かがあるのだと僕は思っていた。
たとえば『星の王子さま』でいちばん大切な冒頭部分の「レオン・ウェルト」に宛てた献辞の部分。これはいったい何だろう?この人物は誰なのだろう?このようなことを含めて次のような謎がある。
1) 献辞の部分の意味は?レオン・ウェルトとは誰?なぜ彼は不幸なのか?
2) ゾウを飲み込んだウワバミの話が意味することは?
3) 3本のバオバブの木の話の本当の意味は?
4) 旅をしている最中に会った6人の大人たちは、それぞれ誰なのか?そして彼らに対してそれぞれどのような思いをサン=テグジュペリは持っていたのか?
5) 王子さまは誰のことを象徴しているのか?
6) 王子さまの星に残してきた1本の赤いバラの木は誰かを象徴しているのか?
7) そのバラの性格はそこまで書く必要がないと思われるほど気が強く、わがままに描かれているが、その意図は何だったのか?
8) そのバラのトゲが4本あることが、何度か書かれて強調されている。その意味は?
9) 飛行機の修理をしながら生きるか死ぬかの瀬戸際の僕に、何度もしつこく星に残してきたバラの話をする王子さまは不自然だ。生死よりこだわる必要のある大切なものとは、いったい何を象徴しているのだろう?
10) そしてサン=テグジュペリが空軍のパイロットとして第二次世界大戦に参加していたことはよく知られていているが、彼のようにあたたかく誠実な心を持った人物が、どうして戦争に参加しているのか?嫌々そうしていたのか、それとも自ら志願してそうしたのか?彼は祖国のためなら死んでもいいという国粋主義者のような人物だったのか?
11) 狐と王子さまの話で、作者は何を表現したかったのか?
12) 本の最後で王子さまは、死んだのか、星に帰ったのかわからないように書かれているが、サン=テグジュペリどうしてそのように書いたのか?
などなど、書き出すときりがない。
今日紹介した「星の王子さまの世界 (中公文庫):塚崎幹夫」では、これらの謎に対して説得力のある根拠をそえて、見事に答えてくれていた。第二次大戦中をフランスとアメリカで生きたサン=テグジュペリが生きた現実と対比させることで、彼が本当に言いたかったことが浮かび上がってくるのだ。
そしてそれは「(NHK)100分de名著 サン=テグジュペリ『星の王子さま』<全4回>」の説明と異なる部分は多いが対立するものではない。ただ、NHKの番組では「そこまで踏み込まれていない。」のだと僕は思う。
そして、何より『星の王子さま』という本が、最後に死ぬことを覚悟した上で戦地に復帰する直前に書き残した「遺言書」であるということが、もっとも重要な点で、本書は冒頭でそのことを述べた上で、『星の王子さま』に込められた数々の謎を解き明かしてくれる。ネタばれしたくないので、これ以上は書かないことにしておこう。
全体の構成のうち前半の「『星の王子さま』に会う」という部分が謎解きのためのページとして割かれ、後半の「『星の王子さま』を楽しむ」以降は、通常の解説書なので、後半部分の説明は省略させていただく。
残念ががら、本書は絶版なので中古のものしか買うことができない。今日現在12冊販売されているので、お読みになりたい方はお早めにどうぞ。
同じ内容の本は新書としても出版されている。こちらも現在買えるのは中古のみ。
「星の王子さまの世界(中公新書 (638)):塚崎幹夫」(こちらのリンクからも買える)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/82/19963bf6f97a214b1464a52e54605a65.png)
『星の王子さま』ファンの方には、ぜひ本書をお読みいただきサン=テグジュペリが本当に伝えたかった想いを知っていただきたい。彼の心の中で動いていた「目に見えない大切なもの」を示してくれるのが本書である。
今日紹介した文庫版の復刊にご協力いただける方は、こちらから投票をお願いします。
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「星の王子さまの世界 (中公文庫):塚崎幹夫」
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プロローグ
『星の王子さま』に会う
はじめに テキストについて 模索のあと 三本のバオバブについて 六つの星めぐり 献辞について ウワバミとゾウ 「年取ったのがいけなかった」 王子と飛行士 模範を見る 死の決意で結ばれる かぐや姫との違い ウェルトへのひそかな別れ 祈りの書としての 『星の王子さま』 「愛することを知らなかった」の一解釈 サン=テグジュペリのはしゃぎ バラの花の四つのトゲ あとにはひかない王子 サン=テグジュペリの死 サン=テグジュペリと愛国心
『星の王子さま』を楽しむ
夢か現実か 孤独 へんな大人たち 大切なもの 責任 心 別れ
読み比べへの招待
エピローグ
読書でばかになる危険 問いかける読書 考え方くらべ 作者の意図は作品にまさる 読みくらべ-作品を鏡にして自分を見る
参考資料
他の作品による『星の王子さま』注解 サン=テグジュペリ年譜
あとがき
内容(「BOOK」データベースより)
『星の王子さま』は、読み手によって幾重もの意味を受け取ることができる優れた文学作品である。この物語が書かれた第二次大戦下に、著者は「ウワバミ」や「バオバブ」などの記号に何を託したのか。フランス本国での豊富な文献などを参考資料として附した、『星の王子さま』研究の必携書。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
塚崎幹夫
1930年(昭和5年)、神戸市で生まれる。1953年、京都大学文学部卒(フランス文学専攻)。富山大学名誉教授
とね日記は「にほんブログ村」のフランス語のカテゴリーにも右足の小指ぶんだけ、つまり応援クリックの10%ぶんだけ参加しているので、ときどきフランス語系の記事を書くことにしている。記事を投稿するたびに、フランス語ランキングのほうにも新着記事として表示されるのだ。
今日紹介するのはサン=テグジュペリの「星の王子さま」の解釈本のうちのひとつ。
「(NHK)100分de名著 サン=テグジュペリ『星の王子さま』<全4回>」も第3回まで放送され、残すところ来週の水曜日の1回となった。本書を紹介するにはよいタイミングだと思う。また、フランス語の学習教材の紹介として昨年「Le Petit Prince (星の王子さま)」という記事も書いている。
僕が『星の王子さま』を読んだのは小学生のとき内藤濯訳が最初で、その後高校生のときに英語版、大学に入ってからフランス語版を語学学習のために読んだ。また2005年に原作の日本での著作権保護期間が満了してから出版された倉橋由美子訳も読んでいる。
この本はメルヘン小説ではなく、とても切ない話だということが子供の頃、最初に読んだときにわかり、いろいろ意味不明な箇所を見つけ、大人になるまでずっと「謎を秘めた本」という印象のまま何度も読んできたのだ。
今回放送されたNHKの番組で謎が解決されたかというと、まったくそのようなことはない。良くも悪くもNHKらしい「模範的な」内容で、本書にこめられたメッセージは「人が生きていく中で見失いがちなこと、陥りやすいことを気づかせてくれる本」という解釈だ。「手入れを怠ってしまったために、小さな星を埋め尽くしてしまった3本のバオバブの木は、それぞれ人間の醜い感情をあらわしているのでしょう。」と解説を担当している先生はおっしゃっていた。
そのような解釈が一般的で、自然なのだと思うが、全体を通してどうも釈然としない。本の記述で随所に見られる不自然さや王子さまの「こだわり」には、さらに隠された何かがあるのだと僕は思っていた。
たとえば『星の王子さま』でいちばん大切な冒頭部分の「レオン・ウェルト」に宛てた献辞の部分。これはいったい何だろう?この人物は誰なのだろう?このようなことを含めて次のような謎がある。
1) 献辞の部分の意味は?レオン・ウェルトとは誰?なぜ彼は不幸なのか?
2) ゾウを飲み込んだウワバミの話が意味することは?
3) 3本のバオバブの木の話の本当の意味は?
4) 旅をしている最中に会った6人の大人たちは、それぞれ誰なのか?そして彼らに対してそれぞれどのような思いをサン=テグジュペリは持っていたのか?
5) 王子さまは誰のことを象徴しているのか?
6) 王子さまの星に残してきた1本の赤いバラの木は誰かを象徴しているのか?
7) そのバラの性格はそこまで書く必要がないと思われるほど気が強く、わがままに描かれているが、その意図は何だったのか?
8) そのバラのトゲが4本あることが、何度か書かれて強調されている。その意味は?
9) 飛行機の修理をしながら生きるか死ぬかの瀬戸際の僕に、何度もしつこく星に残してきたバラの話をする王子さまは不自然だ。生死よりこだわる必要のある大切なものとは、いったい何を象徴しているのだろう?
10) そしてサン=テグジュペリが空軍のパイロットとして第二次世界大戦に参加していたことはよく知られていているが、彼のようにあたたかく誠実な心を持った人物が、どうして戦争に参加しているのか?嫌々そうしていたのか、それとも自ら志願してそうしたのか?彼は祖国のためなら死んでもいいという国粋主義者のような人物だったのか?
11) 狐と王子さまの話で、作者は何を表現したかったのか?
12) 本の最後で王子さまは、死んだのか、星に帰ったのかわからないように書かれているが、サン=テグジュペリどうしてそのように書いたのか?
などなど、書き出すときりがない。
今日紹介した「星の王子さまの世界 (中公文庫):塚崎幹夫」では、これらの謎に対して説得力のある根拠をそえて、見事に答えてくれていた。第二次大戦中をフランスとアメリカで生きたサン=テグジュペリが生きた現実と対比させることで、彼が本当に言いたかったことが浮かび上がってくるのだ。
そしてそれは「(NHK)100分de名著 サン=テグジュペリ『星の王子さま』<全4回>」の説明と異なる部分は多いが対立するものではない。ただ、NHKの番組では「そこまで踏み込まれていない。」のだと僕は思う。
そして、何より『星の王子さま』という本が、最後に死ぬことを覚悟した上で戦地に復帰する直前に書き残した「遺言書」であるということが、もっとも重要な点で、本書は冒頭でそのことを述べた上で、『星の王子さま』に込められた数々の謎を解き明かしてくれる。ネタばれしたくないので、これ以上は書かないことにしておこう。
全体の構成のうち前半の「『星の王子さま』に会う」という部分が謎解きのためのページとして割かれ、後半の「『星の王子さま』を楽しむ」以降は、通常の解説書なので、後半部分の説明は省略させていただく。
残念ががら、本書は絶版なので中古のものしか買うことができない。今日現在12冊販売されているので、お読みになりたい方はお早めにどうぞ。
同じ内容の本は新書としても出版されている。こちらも現在買えるのは中古のみ。
「星の王子さまの世界(中公新書 (638)):塚崎幹夫」(こちらのリンクからも買える)
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「星の王子さまの世界 (中公文庫):塚崎幹夫」
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プロローグ
『星の王子さま』に会う
はじめに テキストについて 模索のあと 三本のバオバブについて 六つの星めぐり 献辞について ウワバミとゾウ 「年取ったのがいけなかった」 王子と飛行士 模範を見る 死の決意で結ばれる かぐや姫との違い ウェルトへのひそかな別れ 祈りの書としての 『星の王子さま』 「愛することを知らなかった」の一解釈 サン=テグジュペリのはしゃぎ バラの花の四つのトゲ あとにはひかない王子 サン=テグジュペリの死 サン=テグジュペリと愛国心
『星の王子さま』を楽しむ
夢か現実か 孤独 へんな大人たち 大切なもの 責任 心 別れ
読み比べへの招待
エピローグ
読書でばかになる危険 問いかける読書 考え方くらべ 作者の意図は作品にまさる 読みくらべ-作品を鏡にして自分を見る
参考資料
他の作品による『星の王子さま』注解 サン=テグジュペリ年譜
あとがき
新年おめでとうございます。
そしてコメントありがとうございます。サン=テグジュペリが飛行機や世界各地を飛行することを愛していたのはまぎれもない事実ですね。松岡正剛さんや稲垣足穂さんがお書きになった文章を読ませていただきました。
ただこのブログ記事で紹介した本には直接そのことに言及している箇所はありませんでした。この本においての飛行機は戦争に参加するための手段としてのみ描かれている程度です。バオバブの木や星めぐりをして王子さまが出会った大人たちの意味の答を初めて読んだとき「何という極端なこじつけだ!」と思ったのですが、本書を読むうちに納得させられていきました。僕がネタバレの形でそれらの意味を書いても、読者はこじつけだとしか思ってくれない可能性が高いので記事中に書くのはやめておきました。本当に興味を持った方だけに本書を読んでいただきたかったからです。
第二次世界大戦や当時のフランスのビシー政権や社会に影響を与える実業家や小説家、芸術家たちにに対してサン=テグジュペリがどのような思いを持っていたかがその背景にあります。最終的に彼は戦線に復帰するわけですが、本書には書かれていない「飛行機好き」な点もそれを後押ししたのではないかとT_NAKAさんのコメントを読んで思いました。
昨年末は「シュレーディンガーの猫状態」の記事のリンクを承認いただき、ありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。
よく、講義中断して、みんなで居酒屋へ行きたい文学談義をしてました。昭和の良き時代の話です^_^
コメントをいただきありがとうございます。塚崎先生の講義を受けた方なのですね。ウィキペディアで確認したところ1930年生まれですので現在91歳。お元気であればと思っています。
この本の他にも何冊も著書がおありなので、さぞ話題が豊富な方なのだと想像しています。
>講義中断して、みんなで居酒屋へ行きた文学談義をしてました。昭和の良き時代の話です^_^
羨ましいです。僕が大学を卒業したのは1987年(昭和62年)、講義を中断して居酒屋へ行くような自由さは失われていました。