「Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman」(Amazon.fr)
内容紹介:
" Et maintenant, attachez vos ceintures. Non pas que ce soit particulièrement difficile à comprendre, mais tout simplement parce que ça va vous sembler le comble du ridicule. Jugez-en : nous dessinons des petites flèches sur une feuille de papier ! C'est tout. "
L'électrodynamique quantique, qui décrit les interactions entre lumière et matière, prototype des théories de la physique moderne, devient un jeu d'enfant quand elle est expliquée par un de ses créateurs. Richard Feynman montre que les notions les plus difficiles sont explicables sans formalisme mathématique et que leur sens profond est à la portée de tous.
Un sommet de la vulgarisation scientifique.
1992年刊行、206ページ。
著者について:
Richard P. Feynman (1918-1988): Wikipedia ウィキペディア
Richard Feynman fut un scientifique hors normes. Non seulement il contribua en profondeur à la grande aventure de la physique des particules élémentaires, depuis la fabrication de la bombe atomique pendant la guerre, alors qu'il n'a pas 25 ans, jusqu'à ses diagrammes qui permettent d'y voir un peu plus clair dans les processus physiques de base. Non seulement il fut un professeur génial, n'hésitant pas à faire le clown pour garder l'attention de ses étudiants et à simplifier pour aller à l'essentiel. Mais il mena aussi une vie excentrique collectionneur, bouffon, impertinent, joueur de bongos, amateur de strip-tease, séducteur impénitent, déchiffreur de codes secrets et de textes mayas, explorateur en Asie centrale , qu'il raconte ici avec l'humour du gamin des rues de New York qu'il n'a jamais cessé d'être. Richard Feynman est né à Brooklyn, en 1918, et a passé son doctorat à Princeton, en 1942. Il a enseigné à Cornell et au Caltech. Il a reçu le prix Nobel de physique, en 1965, pour ses travaux en électrodynamique quantique.
理数系書籍のレビュー記事は本書で429冊目。
「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」を読んで以来、個人的に外国語学習ブームが続いている。今回はフランス語の科学教養書の紹介だ。
なぜフランス語版を読んで紹介するのか?
すでに日本語版と英語版を読んで紹介記事を書いているので、フランス語版を読んだのは純粋に語学学習のためだった。英語だけでなくフランス語でも楽しく物理学を語れるようになりたいという欲求を満たすためである。語学の勉強は好きな本を読むに限る。何度も反復練習すること、できるだけたくさんの本を読みまくるのが大切なのは、外国語すべてに通じることだ。
とね日記はブログランキングサイトの「フランス語」のカテゴリーにも登録している。物理学の面白さをより多くの文系読者、特にフランス語を学んでいる方にも伝え、ファインマン先生や本書で解説される「不思議な物理学」に興味をもってもらえればうれしい。
とりわけ本書のフランス語は易しい。取り上げられているのが光子や電子、素粒子だけで、それらに関連する表現がごく限られているからだ。同じような表現を何度も読むことになるから、通読するだけで覚えてしまう。家では音読を、外では黙読していた。意味がくみ取れない箇所は英語版を参照していた。
物理学の専門用語を除けば、フランス語表現の難易度は仏検2級程度である。「Le Petit Prince (星の王子さま)」と同程度か、それより易しいと思った。日本語版ではたかだか220ページの文庫本だが、フランス語版を読むのには7日間かかった。(英語版は4日で読むことができた。)
届いたフランス語版を通読中の様子はこの連投ツイートをぜひご覧いただきたい。ツイートには本書の要点がわかるように、フランス語版のページもいくつかピックアップしている。
以下、フランス語学習者(理数系でない方)のために、本書の概要と導入部分を紹介しておこう。
「とね日記について」というこのブログの紹介記事の中で次の質問をしている。
- ガラスのコップはなぜ透明に見えるのでしょうか?
- 光をガラスにあてると部分反射します。ガラスは透過させる光と反射させる光をどのようにして選り分けているのでしょうか?
- 光線は最短時間で到達する道筋をたどって進むことが知られています。けれども最終到達地点をあらかじめ知らなければその道筋は決まりません。出発したときに光は到達地点を知らないのに、なぜその道筋を進むことができるのでしょうか?
本書は光(光子)と電子が振る舞う不思議な物理学を解説しながら、この3つの質問に対する回答を与えてくれるのだ。数式をほとんど使わないで「量子電磁力学(QED: Quantum Electrodynamics、フランス語ではÉlectrodynamique quantique)を解説する科学教養書である。
小学校、中学校、高校では「光線が鏡に当たるとき、入射角と反射角は等しい」ということを学ぶ。けれどもなぜそうなるのか、根本的な理由は習っていない。この問題を本書ではまず取り上げ、予想もしないことが実際には起きていることが紹介される。前半は光(光子)がもたらす現象について、後半は光子と電子がもたらす現象についての法則-専門的には「量子電磁力学」の話である。
図を拡大
電子は物質を構成するすべての原子に含まれている基本的な素粒子だ。本書のタイトルが「光子と電子の~」ではなく「光と物質の~」であるのはそのためである。この本の原書は、1979年と1983年にファインマン先生が一般人向けに行なった講義を元にして1986年に英語版として書籍化したものだ。
詳しい解説は「英語版の紹介記事」をお読みいただきたい。
アマゾンでの内容紹介は次のとおりだ。
「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。
この本は4日間にわたる一般向け講演の記録に基づいて書かれたものです。1日目は「部分反射」の話からはじまります。ガラスの表面に光が当たるとき、光の一部が表面を通過し一部が反射する現象です。かのニュートンは光の粒子説を唱えましたが、波動説が競合していました。そしてマクスウェルの理論によって波動説が最終的に勝利したかに見えました。ところが20世紀に入って量子論が誕生し、ある意味で粒子説が復活しました。光は光子という「粒」の集まりだと言うのです。すると部分反射について、既にニュートンが悩まされていた問題に再び悩まされることになります。個々の「粒」は、ガラスの中に入ってゆくのかそれとも反射するのかを、どうやって「決心」するのか。。。本書では「粒」をめぐる様々な現象が「演算を持つ矢印」によって魔法のように見事に説明されていきます。複素数を知っているほうが分かりやすいとは思いますが、知らなくても十分理解できます。知的冒険の旅へ、装備なしの手ぶらで出発できます。
フランス語版は日本とフランスののアマゾンサイトのどちらからでも購入できる。
「Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman」(Amazon.fr)
章立てを日本語で書けば、このようになる。
ファインマンの挨拶
1)はじめに
2)光の粒子
3)電子とその相互作用
4)未解決の部分
なお、フランス語版の155ページには以下の誤植がある。
Une erreur: page 155, ce n'est pas P(1 à 3) * P(2 à 3) et P(2 à 3) * P(2 à 3), mais bien P(1 à 3) * P(2 à 3) + P(1 à 3) * P(2 à 3). C'est anecdotique, car il réécrit deux fois et il ne fait qu'une seule fois l'erreur. Mais cela peut permettre tout de même d'éviter de tourner en rond.
物理学科の大学生向きの、解説資料(PDF)はこちらである。
Lumière et Matière.
Une adaptation libre d'après :
The strange theory of light and matter (Richard Feynman).
https://www.physinfo.org/Feynmania/lumierematiere.pdf
本書の内容のフランス語による解説動画
本書の内容に対応するフランス語音声の動画を紹介する。それぞれ本書の前半と後半に対応し、CGでの視覚化による解説が素晴らしい。フランス語がわからない方もご覧になってみるとよいだろう。フランス語字幕を表示させることができるので、リスニングのトレーニングにも使うことができる。
Feynman et la lumière - Passe-science #15
Feynman et la QED - Passe-science #22
Pass-Science: YouTubeチャンネル
ファインマン先生の自伝「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を紹介する動画と「ファインマン流」の学び方、考え方について解説する動画を紹介しておこう。
Vous voulez rire, Monsieur Feynman ? de Richard Feynman
Comment apprendre plus rapidement avec la technique FEYNMAN : exemple
英語版と日本語版について
科学英語の読解トレーニングにはうってつけの本だと思った。主題は光子と電子、その他の素粒子だけであること、計算の方法も一貫しているから、英文のパターンも限られている。読んでいくうちに慣れてくるからスピードも上がる。
日本語版は薄い文庫本だが、英語で読むと4日かかった。英語だと一字一句精読することになるから書かれていることをすべて吸収できる。僕がどれだけ熱中していたかは「この連投ツイート」をご覧になればおわかりになると思う。
英語版はファインマン先生の姿が載っている2006年版をKindle端末で読んだ。1988年に亡くなったファインマン先生が手にしたのは1986年版である。そしていちばん新しいのが2014年に刊行されている。
「QED: The Strange Theory of Light and Matter (2006): Richard P. Feynman」
(Kindle版)(2014)(1986)
日本語版はこの2冊。1986年の英語版が刊行されてすぐ、ファインマン先生が大貫昌子さんを翻訳者に指名したという。大貫さんは「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を訳して先生の信頼を得ていたからだ。先生は1987年に刊行された日本語訳(単行本)を手にしてお喜びになったに違いない。先生が皆から今でも愛され続けていることは昨年5月に投稿した「#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム」という記事を見るとよくわかると思う。
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (文庫、2007): R.P.ファインマン」(紹介記事)
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (単行本、1987): R.P.ファインマン」
講義の動画、リスニングのトレーニング(英語)
この本の元になった講義は1979年と1983年に行われたようだ。1979年に行われた講義は、こちらからご覧いただける。本を読んでからだと講義がわかりやすい。(動画を検索)
QED: Photons-Corpuscles of Light (Richard Feynman 1/ 4)
第1回 第2回 第3回 第4回 プレイリスト The Vega Science Trustの公開動画
各回の講義の後に行われた質疑応答が素晴らしい。本には書かれていないことについて、興味深い話を先生はたくさんお話しになっている。
1983年に行われた講義もYouTubeでご覧いただける。こちらのほうが画質がよい。本書の内容は第2回から始まる。
Richard Feynman: Quantum Mechanical View of Reality 1
第1回 第2回 第3回 第4回
NHKにはファインマン先生をCGで蘇らせて、この4回にわたる名講義を再現した科学番組を作ってもらいたいと思うのだ。また、ニュートンプレス社には本書の内容を「別冊ニュートン」として刊行してもらいたいとも思った。テーマがテーマだけにビジュアルなイラストで魅力的な紙面が満載の本になると思う。
次の動画は本書の内容に沿っているのでお勧めだ。光のガラスによる部分反射の実験と鏡による反射の実験、ファインマン図を使って光子と電子の相互作用を解説している。英語字幕付きなのでリスニングの練習用に使ってもよいだろう。英語がわからなくても見ているだけで楽しめると思う。
Quantum Electrodynamics
経路積分とファインマン図は、次の動画で学ぶとよい。とても詳しく解説している。
Feynman's Infinite Quantum Paths | Space Time(経路積分の解説動画)
The Secrets of Feynman Diagrams | Space Time(ファインマン図の解説動画)
この2つの動画は「量子力学の再生リスト」の一部である。
ファインマン先生による量子電磁力学の教科書
ファインマン先生は量子電磁力学の教科書をお書きになっている。アマゾンから販売されているほか、著作権切れであるため無料で読むこともできる。
「Quantum Electrodynamics: Richard P. Feynman」(Kindle版)
無料版(1961年刊行):
Quantum Electrodynamics - R.P. Feynman (PDF)
https://archive.org/details/QuantumElectrodynamics/page/n49
関連記事:
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9
ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285
ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d
万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9
開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb
#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82
強い力と弱い力:大栗博司(標準模型について学べる科学教養書)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177
メルマガを書いています。(目次一覧)
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内容紹介:
" Et maintenant, attachez vos ceintures. Non pas que ce soit particulièrement difficile à comprendre, mais tout simplement parce que ça va vous sembler le comble du ridicule. Jugez-en : nous dessinons des petites flèches sur une feuille de papier ! C'est tout. "
L'électrodynamique quantique, qui décrit les interactions entre lumière et matière, prototype des théories de la physique moderne, devient un jeu d'enfant quand elle est expliquée par un de ses créateurs. Richard Feynman montre que les notions les plus difficiles sont explicables sans formalisme mathématique et que leur sens profond est à la portée de tous.
Un sommet de la vulgarisation scientifique.
1992年刊行、206ページ。
著者について:
Richard P. Feynman (1918-1988): Wikipedia ウィキペディア
Richard Feynman fut un scientifique hors normes. Non seulement il contribua en profondeur à la grande aventure de la physique des particules élémentaires, depuis la fabrication de la bombe atomique pendant la guerre, alors qu'il n'a pas 25 ans, jusqu'à ses diagrammes qui permettent d'y voir un peu plus clair dans les processus physiques de base. Non seulement il fut un professeur génial, n'hésitant pas à faire le clown pour garder l'attention de ses étudiants et à simplifier pour aller à l'essentiel. Mais il mena aussi une vie excentrique collectionneur, bouffon, impertinent, joueur de bongos, amateur de strip-tease, séducteur impénitent, déchiffreur de codes secrets et de textes mayas, explorateur en Asie centrale , qu'il raconte ici avec l'humour du gamin des rues de New York qu'il n'a jamais cessé d'être. Richard Feynman est né à Brooklyn, en 1918, et a passé son doctorat à Princeton, en 1942. Il a enseigné à Cornell et au Caltech. Il a reçu le prix Nobel de physique, en 1965, pour ses travaux en électrodynamique quantique.
理数系書籍のレビュー記事は本書で429冊目。
「英語教育の危機 (ちくま新書):鳥飼玖美子」を読んで以来、個人的に外国語学習ブームが続いている。今回はフランス語の科学教養書の紹介だ。
なぜフランス語版を読んで紹介するのか?
すでに日本語版と英語版を読んで紹介記事を書いているので、フランス語版を読んだのは純粋に語学学習のためだった。英語だけでなくフランス語でも楽しく物理学を語れるようになりたいという欲求を満たすためである。語学の勉強は好きな本を読むに限る。何度も反復練習すること、できるだけたくさんの本を読みまくるのが大切なのは、外国語すべてに通じることだ。
とね日記はブログランキングサイトの「フランス語」のカテゴリーにも登録している。物理学の面白さをより多くの文系読者、特にフランス語を学んでいる方にも伝え、ファインマン先生や本書で解説される「不思議な物理学」に興味をもってもらえればうれしい。
とりわけ本書のフランス語は易しい。取り上げられているのが光子や電子、素粒子だけで、それらに関連する表現がごく限られているからだ。同じような表現を何度も読むことになるから、通読するだけで覚えてしまう。家では音読を、外では黙読していた。意味がくみ取れない箇所は英語版を参照していた。
物理学の専門用語を除けば、フランス語表現の難易度は仏検2級程度である。「Le Petit Prince (星の王子さま)」と同程度か、それより易しいと思った。日本語版ではたかだか220ページの文庫本だが、フランス語版を読むのには7日間かかった。(英語版は4日で読むことができた。)
届いたフランス語版を通読中の様子はこの連投ツイートをぜひご覧いただきたい。ツイートには本書の要点がわかるように、フランス語版のページもいくつかピックアップしている。
以下、フランス語学習者(理数系でない方)のために、本書の概要と導入部分を紹介しておこう。
「とね日記について」というこのブログの紹介記事の中で次の質問をしている。
- ガラスのコップはなぜ透明に見えるのでしょうか?
- 光をガラスにあてると部分反射します。ガラスは透過させる光と反射させる光をどのようにして選り分けているのでしょうか?
- 光線は最短時間で到達する道筋をたどって進むことが知られています。けれども最終到達地点をあらかじめ知らなければその道筋は決まりません。出発したときに光は到達地点を知らないのに、なぜその道筋を進むことができるのでしょうか?
本書は光(光子)と電子が振る舞う不思議な物理学を解説しながら、この3つの質問に対する回答を与えてくれるのだ。数式をほとんど使わないで「量子電磁力学(QED: Quantum Electrodynamics、フランス語ではÉlectrodynamique quantique)を解説する科学教養書である。
小学校、中学校、高校では「光線が鏡に当たるとき、入射角と反射角は等しい」ということを学ぶ。けれどもなぜそうなるのか、根本的な理由は習っていない。この問題を本書ではまず取り上げ、予想もしないことが実際には起きていることが紹介される。前半は光(光子)がもたらす現象について、後半は光子と電子がもたらす現象についての法則-専門的には「量子電磁力学」の話である。
図を拡大
電子は物質を構成するすべての原子に含まれている基本的な素粒子だ。本書のタイトルが「光子と電子の~」ではなく「光と物質の~」であるのはそのためである。この本の原書は、1979年と1983年にファインマン先生が一般人向けに行なった講義を元にして1986年に英語版として書籍化したものだ。
詳しい解説は「英語版の紹介記事」をお読みいただきたい。
アマゾンでの内容紹介は次のとおりだ。
「ねえ、リチャード、あなたは何を研究しているの?」友達の奥さんがそう尋ねてきた。はてさて、どうする、ファインマンさん。物理が全然わからない人に、自分の研究を理解してもらえるか。それも、超難解で鳴る量子電磁力学を。光と電子が綾なす不思議な世界へ誘う好著。物理学者リチャード・ファインマン、面目躍如の語りが冴える。
この本は4日間にわたる一般向け講演の記録に基づいて書かれたものです。1日目は「部分反射」の話からはじまります。ガラスの表面に光が当たるとき、光の一部が表面を通過し一部が反射する現象です。かのニュートンは光の粒子説を唱えましたが、波動説が競合していました。そしてマクスウェルの理論によって波動説が最終的に勝利したかに見えました。ところが20世紀に入って量子論が誕生し、ある意味で粒子説が復活しました。光は光子という「粒」の集まりだと言うのです。すると部分反射について、既にニュートンが悩まされていた問題に再び悩まされることになります。個々の「粒」は、ガラスの中に入ってゆくのかそれとも反射するのかを、どうやって「決心」するのか。。。本書では「粒」をめぐる様々な現象が「演算を持つ矢印」によって魔法のように見事に説明されていきます。複素数を知っているほうが分かりやすいとは思いますが、知らなくても十分理解できます。知的冒険の旅へ、装備なしの手ぶらで出発できます。
フランス語版は日本とフランスののアマゾンサイトのどちらからでも購入できる。
「Lumière et matière - Une étrange histoire: Richard P. Feynman」(Amazon.fr)
章立てを日本語で書けば、このようになる。
ファインマンの挨拶
1)はじめに
2)光の粒子
3)電子とその相互作用
4)未解決の部分
なお、フランス語版の155ページには以下の誤植がある。
Une erreur: page 155, ce n'est pas P(1 à 3) * P(2 à 3) et P(2 à 3) * P(2 à 3), mais bien P(1 à 3) * P(2 à 3) + P(1 à 3) * P(2 à 3). C'est anecdotique, car il réécrit deux fois et il ne fait qu'une seule fois l'erreur. Mais cela peut permettre tout de même d'éviter de tourner en rond.
物理学科の大学生向きの、解説資料(PDF)はこちらである。
Lumière et Matière.
Une adaptation libre d'après :
The strange theory of light and matter (Richard Feynman).
https://www.physinfo.org/Feynmania/lumierematiere.pdf
本書の内容のフランス語による解説動画
本書の内容に対応するフランス語音声の動画を紹介する。それぞれ本書の前半と後半に対応し、CGでの視覚化による解説が素晴らしい。フランス語がわからない方もご覧になってみるとよいだろう。フランス語字幕を表示させることができるので、リスニングのトレーニングにも使うことができる。
Feynman et la lumière - Passe-science #15
Feynman et la QED - Passe-science #22
Pass-Science: YouTubeチャンネル
ファインマン先生の自伝「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を紹介する動画と「ファインマン流」の学び方、考え方について解説する動画を紹介しておこう。
Vous voulez rire, Monsieur Feynman ? de Richard Feynman
Comment apprendre plus rapidement avec la technique FEYNMAN : exemple
英語版と日本語版について
科学英語の読解トレーニングにはうってつけの本だと思った。主題は光子と電子、その他の素粒子だけであること、計算の方法も一貫しているから、英文のパターンも限られている。読んでいくうちに慣れてくるからスピードも上がる。
日本語版は薄い文庫本だが、英語で読むと4日かかった。英語だと一字一句精読することになるから書かれていることをすべて吸収できる。僕がどれだけ熱中していたかは「この連投ツイート」をご覧になればおわかりになると思う。
英語版はファインマン先生の姿が載っている2006年版をKindle端末で読んだ。1988年に亡くなったファインマン先生が手にしたのは1986年版である。そしていちばん新しいのが2014年に刊行されている。
「QED: The Strange Theory of Light and Matter (2006): Richard P. Feynman」
(Kindle版)(2014)(1986)
日本語版はこの2冊。1986年の英語版が刊行されてすぐ、ファインマン先生が大貫昌子さんを翻訳者に指名したという。大貫さんは「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を訳して先生の信頼を得ていたからだ。先生は1987年に刊行された日本語訳(単行本)を手にしてお喜びになったに違いない。先生が皆から今でも愛され続けていることは昨年5月に投稿した「#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム」という記事を見るとよくわかると思う。
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (文庫、2007): R.P.ファインマン」(紹介記事)
「光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学 (単行本、1987): R.P.ファインマン」
講義の動画、リスニングのトレーニング(英語)
この本の元になった講義は1979年と1983年に行われたようだ。1979年に行われた講義は、こちらからご覧いただける。本を読んでからだと講義がわかりやすい。(動画を検索)
QED: Photons-Corpuscles of Light (Richard Feynman 1/ 4)
第1回 第2回 第3回 第4回 プレイリスト The Vega Science Trustの公開動画
各回の講義の後に行われた質疑応答が素晴らしい。本には書かれていないことについて、興味深い話を先生はたくさんお話しになっている。
1983年に行われた講義もYouTubeでご覧いただける。こちらのほうが画質がよい。本書の内容は第2回から始まる。
Richard Feynman: Quantum Mechanical View of Reality 1
第1回 第2回 第3回 第4回
NHKにはファインマン先生をCGで蘇らせて、この4回にわたる名講義を再現した科学番組を作ってもらいたいと思うのだ。また、ニュートンプレス社には本書の内容を「別冊ニュートン」として刊行してもらいたいとも思った。テーマがテーマだけにビジュアルなイラストで魅力的な紙面が満載の本になると思う。
次の動画は本書の内容に沿っているのでお勧めだ。光のガラスによる部分反射の実験と鏡による反射の実験、ファインマン図を使って光子と電子の相互作用を解説している。英語字幕付きなのでリスニングの練習用に使ってもよいだろう。英語がわからなくても見ているだけで楽しめると思う。
Quantum Electrodynamics
経路積分とファインマン図は、次の動画で学ぶとよい。とても詳しく解説している。
Feynman's Infinite Quantum Paths | Space Time(経路積分の解説動画)
The Secrets of Feynman Diagrams | Space Time(ファインマン図の解説動画)
この2つの動画は「量子力学の再生リスト」の一部である。
ファインマン先生による量子電磁力学の教科書
ファインマン先生は量子電磁力学の教科書をお書きになっている。アマゾンから販売されているほか、著作権切れであるため無料で読むこともできる。
「Quantum Electrodynamics: Richard P. Feynman」(Kindle版)
無料版(1961年刊行):
Quantum Electrodynamics - R.P. Feynman (PDF)
https://archive.org/details/QuantumElectrodynamics/page/n49
関連記事:
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9
ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285
ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d
万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9
開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb
#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82
強い力と弱い力:大栗博司(標準模型について学べる科学教養書)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177
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英・仏語版も読破されたのは凄いですね。
お読みになられていましたか。本当によくできた本だと思います。
その後(語学学習のために)英語版の「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を読み始めました。読み終えたらフランス語版にもチャレンジするつもりです。
それでか、どうだかはわかりませんが、あらためてファインマンの書を読もうという気はまったくおきませんでした。英語の書はもっていますが。
とねさんはすごいですね。あらためて敬意を表したいと思います。
私も試験を受けたことはないですが、仏検2級ぐらいの力はもっているかなと思いますので、読めそうですが。
「物質と光」だからド・ブロイの有名な書と同じタイトルになるのですね。
もっとも内容はもっと難しい内容になりますね。
ファインマングラフが描けると、量子力学での運動量空間での遷移振幅がすぐに書下ろせますので、あとはそれをプログラムに書いて数値計算すれば、いいわけです。
コメントありがとうございます。フランス語で読み通した理系本としては本書が初めてのものになりました。英語版と読み比べながら精読していました。とはいえ、自分で満足できる読解力にはまだまだ達していません。
岡潔先生はフランス語で論文をお書きになるくらいでしたし、天文学者の荒木俊馬先生はフランス語とドイツ語が達者でした。このお二人の例だけで昔の学者は第二、第三外国語も使いこなせたと判断するのは早急ですが、戦後以降の英語一辺倒の教育にも疑問を持ち始めたところです。
荒木先生はドイツに留学していた時はアインシュタインにも教えを受けています。アインシュタインが来日したときも歓迎の辞をドイツ語でされました。先生の本については、記事を書いたことがあります。
現代天文學事典 四訂新版(1971年): 荒木俊馬
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1f97d5eab68aec02d1c176ee00392c5d
また、荒木先生の「天体力学(1980)」の序文はフランス語で書かれています。
https://www.yomitaya.co.jp/?p=89148
いまは「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の英語版を読んでいますが、これを読み終えたらフランス語版を読もうと思っています。
もう30年以上前ですが、息子が高校生のころで、息子の友だちで英語で読んだとか聞きましたので、英語のよくできる人は読めるのだなとは思っていました。
自分で読むなどということは考えたこともなかったです。
私はFeynmanのファンの一人なので、英語の彼の論文選集等は購入しましたが、序文くらいしか読んでいません。
いつか読もうとは思っていますが。
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の日本語版は10年以上前に読んだのですが、内容をすっかり忘れていることに気がつきました。たまたま個人的な英語勉強ブーム到来ということで、どうせ読み直すなら英語版でということにしたわけです。
教科書や受験英語にでてこない表現や単語がでてくるので読解の難易度は中級レベルというところでしょうか。