「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)
内容紹介:
本書は、自習用、もしくは自主ゼミなどのテキストとして使いこなせることを念頭に執筆された。内容は、“古典場の量子化”と“相互作用のない場(自由場)の量子化”に絞って、これらを“不変性”という視点から解説した。なお、“相互作用のある場の量子化”については、続刊『場の量子論(II) -ファインマン・グラフとくりこみを中心にして-』(2020年9月刊行、ISBN 978-4-7853-2512-1)にて解説する。
特徴として、初学者に少しでも門戸を広げられるよう、詳しい式の導出や説明を極力省かない方針とした。特に、得られた式の物理的意味の理解に時間が費やせるように試みた。
また、本文中には、読者のつまずきやすい箇所でのコメントに加え、式導出や証明、役に立つ公式や考え方のアドバイスなどの注釈を設けた。さらに、“check”と題した問題も設けられており、意欲のある読者は是非チャレンジしてもらいたい。その解答は、裳華房ウェブページ上で公開している。
2014年11月5日刊行、437ページ。
著者について:
坂本眞人(さかもと まこと)
HP: http://www2.kobe-u.ac.jp/~dragon/
1985年3月九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了。及び理学博士の学位取得。4月日本学術振興会特別研究員。所属機関:九州大学理学部。1986年4月日本学術振興会奨励研究員。所属機関:九州大学理学部(1986年4月~1987年3月)。京都大学基礎物理学研究所(1987年4月~1987年3月)。1988年4月京都大学基礎物理学研究所研究員。5月神戸大学理学部物理学科助手。ニールスボーア研究所文部省在外研究員(1992年3月~1993年4月)。2007年4月神戸大学大学院理学研究科物理学専攻助教授。
理数系書籍のレビュー記事は本書で456冊目。
本書は発売された2014年に購入したのだが、積読のままになっていた。昨年9月に続巻が刊行され、さすがに読み始めたほうがいいなぁと思って手をつけたわけである。それほど長い間放置していた感覚はないのだが、刊行されてから7年も経っている。うかうかしていると、あっという間に時が経ってしまうのだ。振り返ってみると同シリーズの「相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春」を読んだのは2016年の夏で、5年も経過している。
場の量子論は独学派の物理学徒にとって難攻不落なものだ。網羅的に学べるよい日本語の教科書はなく、理論物理学者の大栗博司先生でさえかつては「何度も勉強した」と「探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司」の中でお書きになっている。学ぶべきことがたくさんあるため、何冊もの本を紐解く必要があるのだ。
そのような状況の中で、本書は書店で立ち読みしたときから期待が持てていた。独学用に最適で、ページ数に余裕を持たせているから、まるで講義を受けているような感覚で読み進められる。さらに「check」として挿入されている演習問題の解答は、本書には掲載されず、サポートページからダウンロードできるようにされている。この解答集だけで263ページもあり、至れり尽くせりである。
本書は学部生を想定して書かれていることもうれしい。著者によると「量子力学と特殊相対性理論の基礎を学んだ(理工系の学部3、4年生レベルの)人が読みこなせる」ことを念頭においたという。わかりやすさを優先したため、ボリュームが多くなり、内容を二分冊に分け、非可換ゲージ場の量子化と摂動論の定式化は続刊で解説されることになった。
場の量子論は数学として定式化されていないと言われているが、本書で解説している「不変性と自由場を中心にして」は、ゲージ原理、量子場のゲージ不変性、つまりゲージ場に対して課せられる特定の対称性を要請することで、粒子の存在と性質が導かれるため、数学的にはエレガントで美しい。本書の大部分は1粒子(1粒子状態)と粒子ペアの生成・消滅を取り扱っている。理論が数学的にすっきりしているのはそのためだ。
あと本書は、言葉による雄弁な説明が多い。極論になるが数式を全部読み飛ばして文章の部分だけ読んでも筋書きは理解できてしまうほどなのだ。そして、物理的な解釈をとても重要視している。特に第11章の「真空エネルギー」の説明(このツイートを参照)にそのことがあらわれている。
詳細目次はサポートページでご覧いただける。章立ては次のとおりだ。章を追うごとに、標準模型に含まれる17種類の基本粒子が数式から次々と紡ぎだされ、質量を獲得する過程が実感できるようになる。ゲージ原理恐るべしというところだ。
1.場の量子論への招待
2.クライン‐ゴルドン方程式
3.マクスウェル方程式
4.ディラック方程式
5.ディラック方程式の相対論的構造
6.ディラック方程式と離散的不変性
7.ゲージ原理と3つの力
8.場と粒子
9.ラグランジアン形式
10.有限自由度の量子化と保存量
11.スカラー場の量子化
12.ディラック場の量子化
13.マクスウェル場の量子化
14.ポアンカレ代数と1粒子状態の分類
各章の概要を本書から引用しておこう。
1.場の量子論への招待
自然の心理を解き明かしていく上で、不変性の理解は不可欠である。相対論的場の量子論は、相対性理論と量子力学が融合したものだが、不変性の観点からは、時空並進不変性とローレンツ不変性を持つ理論体系と見なすことができる。本章では、これから場の量子論を学ぶ準備として、その背景や理解の助けとなる事柄についてまとめておく。
2.クライン‐ゴルドン方程式
クライン-ゴルドン方程式は最も基本的な相対論的方程式であり、すべての相対論的自由粒子はこの方程式に従う。本章では、波動関数の確立解釈に基づく量子力学の観点から、クライン-ゴルドン方程式を考察し、問題点とその解決の糸口について議論する。
3.マクスウェル方程式
電場E、磁場Bで書かれたマクスウェル方程式は4組の方程式で書かれているが、ベクトル場A^μを用いると、たった1つの相対論的方程式に置きかわる。このときマクスウェル方程式の持つ最も重要な性質はゲージ不変性である。ゲージ不変性は光子が質量を持つことを禁止し、マクスウェル方程式の形を本質的に決める役割を持つ。
4.ディラック方程式
本章では、ディラックのアイデアに従って、ディラック方程式を導出する。ディラック方程式の成功は、電子のスピンを説明し、スピンと磁場の相互作用項(パウリ項)を理論的に導いたことである。これらの性質をディラック方程式から導き、さらに、質量は全く同じだが電荷は逆符号の反粒子の存在や、ディラック粒子の従うフェルミ-ディラック統計について、相対論的量子力学の観点から考察する。
5.ディラック方程式の相対論的構造
本章では、ディラック方程式のローレンツ変換性について詳しく議論する。ディラック方程式の波動関数はスピノル場ともよばれ、スカラー、ベクトル、テンソル以外にスピノルの変換性を持つ量が新たに加わることになる。スピノルは、2回転(720°回転)しないと元に戻らないという特異な性質を持つ。また、スピノルから双1次形式を作ることによって、スカラー、ベクトル、テンソル量を構成できる。
6.ディラック方程式と離散的不変性
ディラック方程式は、ローレンツ変換のような連続的不変性だけでなく、空間反転、時間反転、荷電共役などの離散的不変性を持つ。これらの離散的不変性とカイラルスピノルについて詳しく議論する。カイラルスピノルはスピン右巻き、あるいは左巻き状態からなり、それらを足し合わせたものがディラックスピノルである。素粒子の世界を記述する標準模型は、このカイラルスピノルで構成された理論である。
7.ゲージ原理と3つの力
素粒子の従う自然法則はゲージ原理によって支配されている。実際、重力を除いた3つの力(強い力、弱い力、電磁気力)は、それぞれ非常に異なる性質を持つにも関わらず、げ、ゲージ原理によって統一的に理解することができる。本章では、マクスウェル理論を拡張した非可換ゲージ理論を紹介し、SU(3)×SU(2)×U(1)ゲージ理論として記述される標準模型を概観する。
8.場と粒子
相対論と量子論の融合は、必然的に粒子の生成と消滅を引き起こす。そのため、粒子数が保存するという理論体系は必然的に破綻する。したがって、波動関数の確率解釈に基づいた量子力学を、粒子の生成・消滅を取り込んだ理論体系へ拡張する必要がある。それが場の量子論である。本章で「場」の概念を説明し、場と粒子の橋渡しを行うことにする。
9.ラグランジアン形式
不変性の原理は、自然法則を理解する上で最も基本的な概念の1つである。そして、素粒子物理の目的の1つは「自然法則の持つ不変性を完全に把握すること」である。第1章の始めで述べた「不変性の原理が自然法則のあるべき姿を決める」の意味が、本章で明らかになる。
10.有限自由度の量子化と保存量
本章では、場の量子化の準備として、有限自由度の量子化についてまとめた。特に、調和振動子模型での生成消滅演算子は、場の量子論における粒子の生成消滅の理解に不可欠である。また、不変性と保存量の間の密接な関係について、連続的不変性は保存量を導くこと、保存量は不変性に伴う無限小変換の生成子であることを明らかにする。
11.スカラー場の量子化
本章ではスカラー場の量子化を行う。クライン-ゴルドン方程式を満たす場の演算子から粒子の生成消滅演算子が得られることを示し、それらを使って粒子描像を明らかにする。このとき場の量子論の整合性から、スカラー粒子はボース-アインシュタイン統計において従わなければならないことがわかる。複素スカラー場の理論では、1粒子状態において質量は同じだが電荷がお互い逆符号の粒子と反粒子が現れる。また、摂動論を行うときに重要なファインマン伝播関数についても紹介する。
12.ディラック場の量子化
ディラック場の量子化でスカラー場と異なる点は、ディラック場は4成分スピノルの変換性を持つことと、反交換関係を用いて量子化されなければならないことである。ディラック場の1粒子状態には、スピン1/2を持つ粒子と荷電共役変換で結びつく反粒子が存在する。また、ディラック場が持つ可換性から、ディラック粒子はフェルミ-ディラック統計に従うことがわかる。
13.マクスウェル場の量子化
マクスウェル場の量子化は、スカラー場やディラック場と違ってゲージ不変性のため、通常の量子化の手続きではうまくいかない。そのため、作用積分にゲージ固定項をつけ加え、さらに物理的状態に対する補助条件を課す必要がある。本章では、ゲージ場の量子化の問題点と解決のためのアイデアについて議論し、マクスウェル場の1粒子状態、すなわち光子は2つの物理的自由度を持ち、スピンの大きさは1でヘリシティの固有状態で分類されることを明らかにする。
14.ポアンカレ代数と1粒子状態の分類
相対論的場の量子論は、時空並進とローレンツ変換の下での不変性、すなわちポアンカレ不変性を持つ。これらの変換の生成子はポアンカレ代数と呼ばれる交換関係に従う。本章では、ポアンカレ代数を用いて1粒子状態の分類を行う。ポアンカレ不変性に基づいて自然法則が成り立っているならば、自然界に存在するすべての素粒子はこの分類に従うことになる。
ところで、シュレディンガー方程式が電子だけでなく光子についても成り立つと誤解している人がときどきいるが(僕もかつでそうだった)、シュレディンガー方程式に対応する光子の波動方程式をあえて挙げよというのであれば、それはマクスウェル方程式である。本書の第13章「マクスウェル場の量子化」では、質量がゼロの粒子(すなわち光子や重力子)の理論が議論され、光子についての場の量子論を詳しく知ることができる。これは僕にとって大きな収穫だった。
そして、もし場の量子論が本書の範囲で完結しているのだとしたら、とても美しい理論であるし、学ぶのも容易である。しかし、自然はそうなっていない。標準模型を完成させるには続刊で解説されるいくつもの理論が必要になる。
また、いくつもの未解決な謎があることから、標準模型にしても完全というわけでないことがわかっている。つい先日の4月7日に「素粒子ミューオンの磁気的な性質が、標準模型で想定される値から大きくずれていたという実験結果が発表されたばかりだ。(参考記事:「未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認」)
まだ1冊目を読んだばかりだが、この2分冊はおそらく日本語で読める場の量子論の教科書では、いちばん良いのではないかという気がしている。Amazonのレビュー欄には「完璧な自習・独習用の教科書」、「学部レベルの量子力学を前提に独学できる、構成が本当によく練られた、場の量子論の稀有な教科書」、「家庭教師がそばにいてくれる」、「著者の著作への姿勢と意欲が感じられる場の量子論の「最良の入門書」、「最高に丁寧」、「この世で1番の、場の量子論の教科書」、「場の理論の鉄板でしょう」など、高い評価がつけられている。
1冊他の本を読んでから、2分冊目を読もうと思っている。ヒッグス機構やヒッグス場については、本書ではなく2冊目の第15章で解説されている。
「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)
「場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)(紹介記事)
1冊目が437ページであるのに対し、2冊目は592ページある。急がずじっくり取り組みたいものだ。
拡大
関連記事:
相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/df0329251637a27bc5545d435a598ab3
場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7afabb5ee7f8ee4483081accf9eeaa6b
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301
関連記事2:
数式は苦手だけれども、本書の内容について少しでも理解したいと思われる方がいらっしゃったら、次のような科学教養書をお勧めする。上から易しい順に並べておいた。
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63919605c4e5556fb0d12171ce458e8
強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177
クォーク 第2版: 南部陽一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/966d315e9ed9b5391c93c1dd80f6028b
素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bcbaebb9f2a77b1bd63e3928f6bd6e9f
「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa
内容紹介:
本書は、自習用、もしくは自主ゼミなどのテキストとして使いこなせることを念頭に執筆された。内容は、“古典場の量子化”と“相互作用のない場(自由場)の量子化”に絞って、これらを“不変性”という視点から解説した。なお、“相互作用のある場の量子化”については、続刊『場の量子論(II) -ファインマン・グラフとくりこみを中心にして-』(2020年9月刊行、ISBN 978-4-7853-2512-1)にて解説する。
特徴として、初学者に少しでも門戸を広げられるよう、詳しい式の導出や説明を極力省かない方針とした。特に、得られた式の物理的意味の理解に時間が費やせるように試みた。
また、本文中には、読者のつまずきやすい箇所でのコメントに加え、式導出や証明、役に立つ公式や考え方のアドバイスなどの注釈を設けた。さらに、“check”と題した問題も設けられており、意欲のある読者は是非チャレンジしてもらいたい。その解答は、裳華房ウェブページ上で公開している。
2014年11月5日刊行、437ページ。
著者について:
坂本眞人(さかもと まこと)
HP: http://www2.kobe-u.ac.jp/~dragon/
1985年3月九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了。及び理学博士の学位取得。4月日本学術振興会特別研究員。所属機関:九州大学理学部。1986年4月日本学術振興会奨励研究員。所属機関:九州大学理学部(1986年4月~1987年3月)。京都大学基礎物理学研究所(1987年4月~1987年3月)。1988年4月京都大学基礎物理学研究所研究員。5月神戸大学理学部物理学科助手。ニールスボーア研究所文部省在外研究員(1992年3月~1993年4月)。2007年4月神戸大学大学院理学研究科物理学専攻助教授。
理数系書籍のレビュー記事は本書で456冊目。
本書は発売された2014年に購入したのだが、積読のままになっていた。昨年9月に続巻が刊行され、さすがに読み始めたほうがいいなぁと思って手をつけたわけである。それほど長い間放置していた感覚はないのだが、刊行されてから7年も経っている。うかうかしていると、あっという間に時が経ってしまうのだ。振り返ってみると同シリーズの「相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春」を読んだのは2016年の夏で、5年も経過している。
場の量子論は独学派の物理学徒にとって難攻不落なものだ。網羅的に学べるよい日本語の教科書はなく、理論物理学者の大栗博司先生でさえかつては「何度も勉強した」と「探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司」の中でお書きになっている。学ぶべきことがたくさんあるため、何冊もの本を紐解く必要があるのだ。
そのような状況の中で、本書は書店で立ち読みしたときから期待が持てていた。独学用に最適で、ページ数に余裕を持たせているから、まるで講義を受けているような感覚で読み進められる。さらに「check」として挿入されている演習問題の解答は、本書には掲載されず、サポートページからダウンロードできるようにされている。この解答集だけで263ページもあり、至れり尽くせりである。
本書は学部生を想定して書かれていることもうれしい。著者によると「量子力学と特殊相対性理論の基礎を学んだ(理工系の学部3、4年生レベルの)人が読みこなせる」ことを念頭においたという。わかりやすさを優先したため、ボリュームが多くなり、内容を二分冊に分け、非可換ゲージ場の量子化と摂動論の定式化は続刊で解説されることになった。
場の量子論は数学として定式化されていないと言われているが、本書で解説している「不変性と自由場を中心にして」は、ゲージ原理、量子場のゲージ不変性、つまりゲージ場に対して課せられる特定の対称性を要請することで、粒子の存在と性質が導かれるため、数学的にはエレガントで美しい。本書の大部分は1粒子(1粒子状態)と粒子ペアの生成・消滅を取り扱っている。理論が数学的にすっきりしているのはそのためだ。
あと本書は、言葉による雄弁な説明が多い。極論になるが数式を全部読み飛ばして文章の部分だけ読んでも筋書きは理解できてしまうほどなのだ。そして、物理的な解釈をとても重要視している。特に第11章の「真空エネルギー」の説明(このツイートを参照)にそのことがあらわれている。
詳細目次はサポートページでご覧いただける。章立ては次のとおりだ。章を追うごとに、標準模型に含まれる17種類の基本粒子が数式から次々と紡ぎだされ、質量を獲得する過程が実感できるようになる。ゲージ原理恐るべしというところだ。
1.場の量子論への招待
2.クライン‐ゴルドン方程式
3.マクスウェル方程式
4.ディラック方程式
5.ディラック方程式の相対論的構造
6.ディラック方程式と離散的不変性
7.ゲージ原理と3つの力
8.場と粒子
9.ラグランジアン形式
10.有限自由度の量子化と保存量
11.スカラー場の量子化
12.ディラック場の量子化
13.マクスウェル場の量子化
14.ポアンカレ代数と1粒子状態の分類
各章の概要を本書から引用しておこう。
1.場の量子論への招待
自然の心理を解き明かしていく上で、不変性の理解は不可欠である。相対論的場の量子論は、相対性理論と量子力学が融合したものだが、不変性の観点からは、時空並進不変性とローレンツ不変性を持つ理論体系と見なすことができる。本章では、これから場の量子論を学ぶ準備として、その背景や理解の助けとなる事柄についてまとめておく。
2.クライン‐ゴルドン方程式
クライン-ゴルドン方程式は最も基本的な相対論的方程式であり、すべての相対論的自由粒子はこの方程式に従う。本章では、波動関数の確立解釈に基づく量子力学の観点から、クライン-ゴルドン方程式を考察し、問題点とその解決の糸口について議論する。
3.マクスウェル方程式
電場E、磁場Bで書かれたマクスウェル方程式は4組の方程式で書かれているが、ベクトル場A^μを用いると、たった1つの相対論的方程式に置きかわる。このときマクスウェル方程式の持つ最も重要な性質はゲージ不変性である。ゲージ不変性は光子が質量を持つことを禁止し、マクスウェル方程式の形を本質的に決める役割を持つ。
4.ディラック方程式
本章では、ディラックのアイデアに従って、ディラック方程式を導出する。ディラック方程式の成功は、電子のスピンを説明し、スピンと磁場の相互作用項(パウリ項)を理論的に導いたことである。これらの性質をディラック方程式から導き、さらに、質量は全く同じだが電荷は逆符号の反粒子の存在や、ディラック粒子の従うフェルミ-ディラック統計について、相対論的量子力学の観点から考察する。
5.ディラック方程式の相対論的構造
本章では、ディラック方程式のローレンツ変換性について詳しく議論する。ディラック方程式の波動関数はスピノル場ともよばれ、スカラー、ベクトル、テンソル以外にスピノルの変換性を持つ量が新たに加わることになる。スピノルは、2回転(720°回転)しないと元に戻らないという特異な性質を持つ。また、スピノルから双1次形式を作ることによって、スカラー、ベクトル、テンソル量を構成できる。
6.ディラック方程式と離散的不変性
ディラック方程式は、ローレンツ変換のような連続的不変性だけでなく、空間反転、時間反転、荷電共役などの離散的不変性を持つ。これらの離散的不変性とカイラルスピノルについて詳しく議論する。カイラルスピノルはスピン右巻き、あるいは左巻き状態からなり、それらを足し合わせたものがディラックスピノルである。素粒子の世界を記述する標準模型は、このカイラルスピノルで構成された理論である。
7.ゲージ原理と3つの力
素粒子の従う自然法則はゲージ原理によって支配されている。実際、重力を除いた3つの力(強い力、弱い力、電磁気力)は、それぞれ非常に異なる性質を持つにも関わらず、げ、ゲージ原理によって統一的に理解することができる。本章では、マクスウェル理論を拡張した非可換ゲージ理論を紹介し、SU(3)×SU(2)×U(1)ゲージ理論として記述される標準模型を概観する。
8.場と粒子
相対論と量子論の融合は、必然的に粒子の生成と消滅を引き起こす。そのため、粒子数が保存するという理論体系は必然的に破綻する。したがって、波動関数の確率解釈に基づいた量子力学を、粒子の生成・消滅を取り込んだ理論体系へ拡張する必要がある。それが場の量子論である。本章で「場」の概念を説明し、場と粒子の橋渡しを行うことにする。
9.ラグランジアン形式
不変性の原理は、自然法則を理解する上で最も基本的な概念の1つである。そして、素粒子物理の目的の1つは「自然法則の持つ不変性を完全に把握すること」である。第1章の始めで述べた「不変性の原理が自然法則のあるべき姿を決める」の意味が、本章で明らかになる。
10.有限自由度の量子化と保存量
本章では、場の量子化の準備として、有限自由度の量子化についてまとめた。特に、調和振動子模型での生成消滅演算子は、場の量子論における粒子の生成消滅の理解に不可欠である。また、不変性と保存量の間の密接な関係について、連続的不変性は保存量を導くこと、保存量は不変性に伴う無限小変換の生成子であることを明らかにする。
11.スカラー場の量子化
本章ではスカラー場の量子化を行う。クライン-ゴルドン方程式を満たす場の演算子から粒子の生成消滅演算子が得られることを示し、それらを使って粒子描像を明らかにする。このとき場の量子論の整合性から、スカラー粒子はボース-アインシュタイン統計において従わなければならないことがわかる。複素スカラー場の理論では、1粒子状態において質量は同じだが電荷がお互い逆符号の粒子と反粒子が現れる。また、摂動論を行うときに重要なファインマン伝播関数についても紹介する。
12.ディラック場の量子化
ディラック場の量子化でスカラー場と異なる点は、ディラック場は4成分スピノルの変換性を持つことと、反交換関係を用いて量子化されなければならないことである。ディラック場の1粒子状態には、スピン1/2を持つ粒子と荷電共役変換で結びつく反粒子が存在する。また、ディラック場が持つ可換性から、ディラック粒子はフェルミ-ディラック統計に従うことがわかる。
13.マクスウェル場の量子化
マクスウェル場の量子化は、スカラー場やディラック場と違ってゲージ不変性のため、通常の量子化の手続きではうまくいかない。そのため、作用積分にゲージ固定項をつけ加え、さらに物理的状態に対する補助条件を課す必要がある。本章では、ゲージ場の量子化の問題点と解決のためのアイデアについて議論し、マクスウェル場の1粒子状態、すなわち光子は2つの物理的自由度を持ち、スピンの大きさは1でヘリシティの固有状態で分類されることを明らかにする。
14.ポアンカレ代数と1粒子状態の分類
相対論的場の量子論は、時空並進とローレンツ変換の下での不変性、すなわちポアンカレ不変性を持つ。これらの変換の生成子はポアンカレ代数と呼ばれる交換関係に従う。本章では、ポアンカレ代数を用いて1粒子状態の分類を行う。ポアンカレ不変性に基づいて自然法則が成り立っているならば、自然界に存在するすべての素粒子はこの分類に従うことになる。
ところで、シュレディンガー方程式が電子だけでなく光子についても成り立つと誤解している人がときどきいるが(僕もかつでそうだった)、シュレディンガー方程式に対応する光子の波動方程式をあえて挙げよというのであれば、それはマクスウェル方程式である。本書の第13章「マクスウェル場の量子化」では、質量がゼロの粒子(すなわち光子や重力子)の理論が議論され、光子についての場の量子論を詳しく知ることができる。これは僕にとって大きな収穫だった。
そして、もし場の量子論が本書の範囲で完結しているのだとしたら、とても美しい理論であるし、学ぶのも容易である。しかし、自然はそうなっていない。標準模型を完成させるには続刊で解説されるいくつもの理論が必要になる。
また、いくつもの未解決な謎があることから、標準模型にしても完全というわけでないことがわかっている。つい先日の4月7日に「素粒子ミューオンの磁気的な性質が、標準模型で想定される値から大きくずれていたという実験結果が発表されたばかりだ。(参考記事:「未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認」)
まだ1冊目を読んだばかりだが、この2分冊はおそらく日本語で読める場の量子論の教科書では、いちばん良いのではないかという気がしている。Amazonのレビュー欄には「完璧な自習・独習用の教科書」、「学部レベルの量子力学を前提に独学できる、構成が本当によく練られた、場の量子論の稀有な教科書」、「家庭教師がそばにいてくれる」、「著者の著作への姿勢と意欲が感じられる場の量子論の「最良の入門書」、「最高に丁寧」、「この世で1番の、場の量子論の教科書」、「場の理論の鉄板でしょう」など、高い評価がつけられている。
1冊他の本を読んでから、2分冊目を読もうと思っている。ヒッグス機構やヒッグス場については、本書ではなく2冊目の第15章で解説されている。
「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)
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相対論的量子力学 (量子力学選書): 川村嘉春
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場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人
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場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
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場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
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数式は苦手だけれども、本書の内容について少しでも理解したいと思われる方がいらっしゃったら、次のような科学教養書をお勧めする。上から易しい順に並べておいた。
「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた: 橋本幸士
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強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177
クォーク 第2版: 南部陽一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/966d315e9ed9b5391c93c1dd80f6028b
素粒子論はなぜわかりにくいのか:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bcbaebb9f2a77b1bd63e3928f6bd6e9f
「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa
数式が苦手なのですが、とねさんの紹介記事を読んで、この本を買ってみました。残念ながら「わかった!」という気持ちにはなれないのですが、何とか根性で読み進めることだけはできて、少しうれしいです。良い本を紹介いただきありがとうございました。
さて、P54の式2.27、電磁相互作用ありのクライン‐ゴルドン方程式(下記)の解がどのようになるか知りたいのですが、何かご存じでしょうか?
{ (∂/∂t + iqA0)^2 – (∇ - iqA)^2 + m^2 }φ(t,x) = 0
大変お久しぶりです。再びコメントをいただき、ありがとうございました。この本で学び始めたのですね。
さて、ご質問いただいた件ですが、具体的な解を求めている教科書は見たことがありません。P54以降の説明を読み進めると、結局理解が完結するのは第11章のスカラー場の量子化になるのではないでしょうか?
式2.27のような方程式の具体的な解を求めている教科書はあまり見かけないのですね。
実は、理解できているわけではありませんが、11章までは一応読みました。一応計算過程もそれなりにたどっています。物理の教科書ではごく最初の何章かで挫折することを繰り返してきた私にしては画期的なことです。とはいえ読んだ内容が1週間で頭から蒸発してしまうので、それを防ぐため、毎日何ページか読み返しています。いずれにせよ、曲がりなりにも場の量子論の本が読めるようになったのは、とねさんがこの本を紹介してくれたおかげです。
さて、私は場の量子論そのものよりも時間についての哲学的(?)な考察に興味があります。哲学的考察とはいっても、やはり物理を知らないと面白くない。今は、時間に関係しそうな負エネルギー解を調べてみたいと思っています。ただ「自由場」のKG(クライン‐ゴルドン)方程式の負エネルギー解は、あまり面白くないのですね。というわけで、電磁場中のKG方程式2.27の解が知りたかったわけです。まあ、その後に載っている非相対論的極限の話も大分参考にはなりましたが。
12章に自由ディラック場の一般解が載っていますが、物理的意味がよくわからず、手に負えない感じです。第Ⅱ巻に式2.27の解が載っているかもと思い、ネットで目次や前書き、Checkの回答を見てみましたが、だめですかね。
再びコメントありがとうございます。
たいていの教科書でクライン‐ゴルドン方程式についての解説がさらっとしか書かれていないのには、以下の3つの理由があると思います。
1)クライン・ゴルドン方程式を満たすは解は確率密度を表す波動関数としては不適切になるから、現実の物理をあらわしているケースがない。
2)クライン・ゴルドン方程式はスピン1の粒子を記述する方程式で、スピン1の粒子で代表的なものはパイ中間子です。けれどもパイ中間子は複合粒子ですから、この粒子を記述するのはむしろ強い相互作用の理論が重要になるためです。
3)クライン・ゴルドン方程式は時間の一階微分を含む方程式ですから取り扱いが難しいためです。そのため取り扱いが自然な時間の二階微分を含むディラック方程式を解説するための移行段階としてクライン・ゴルドン方程式の解説が行われているためだと思います。
このようなわけで電磁相互作用するクラインゴルドン方程式の解の導出は、見当たりませんでしたが、重要性は低いと僕は思います。(僕も専門家ではありませんので、正しいかどうかわかりません。)
12章に自由ディラック場の一般解が載っていますが、物理的意味がよくわからず、手に負えない感じです。第Ⅱ巻に式2.27の解が載っているかもと思い、ネットで目次や前書き、Checkの回答を見てみましたが、だめですかね。
→時間があるときに調べてみますね。
読んだ内容が1週間で頭から蒸発してしまうので
→それは僕も同じです!(笑)
現実の事象にあてはめてみたりするのではなく、概念的な理解のために(?)シンプルに正エネルギー解と負エネルギー解の比較をしてみたいと思っています。方程式自体は簡単なほうがいいのですが、式2.23のような解はシンプル過ぎてあまり面白くないです。そこで、電磁相互作用ありのクライン‐ゴルドン方程式2.27あたりが教材としてよいかと思うのですが、理解可能であればP99のディラック方程式4.35でもよいのかもしれません。
あるいは、11.5節「複素スカラー場の量子化」あたりももう少し読んでみようかと思いますが、もしかすると、場の量子論に入る前の量子力学的なものが良いのかもしれません。とねさんも紹介されている裳華房量子力学選書の「相対論的量子力学」の目次を見てみましたが、「これまで読んできた同じ分野の教科書よりも難易度はかなり高い。」とのことなので、読み進めるのは困難をきわめそうです・・・。
「もし」でよいのですが何か良いものがあったら教えて頂けると幸いです。
読んだものがすぐ蒸発するのは私特有の現象かと思っていましたが、そうとも限らないのですかね。
>「もし」でよいのですが何か良いものがあったら教えて頂けると幸いです。
おそらく一般的な教科書、副読本には、このテーマを扱ったものはないと思います。
論文のプレプリントがたくさんアップされているarXivのサイトで探す方がよいと思いますよ。
キーワード「Klein-Gordon equation Electromagnetism」を与えて検索してみた結果がこちらです。
https://arxiv.org/search/?query=Klein-Gordon+equation+Electromagnetism&searchtype=all&abstracts=show&order=-announced_date_first&size=50
それにしても最近はWebページが簡単に翻訳できて便利になりましたね。pdfだと簡単に翻訳する方法がわからないのですが。 一応、いちいち日本語に直さなくても英語を読めるようにはなっているのですが、それだと大変な集中力を要するので、翻訳できる場合は翻訳に頼ってしまうことが増えてしまいました(笑)。
はい、arXivはPDFファイルとして論文のプレプリントをダウンロードできるから、とても便利です。
Webページも簡単に和訳できるのはとてもよいですね。私は英語力は問題ないですが、それでも日本語で読むほうが楽であることに変わりありません。