付箋が足りなくなった。
途中で付箋の色が変わっただけでクレームになる、繊細なお客様がいらっしゃるので、各色、常備しておかねばならない。
総務に分けにもらいに行くと、大阪万博のマスコットキャラを表紙にした付箋メモ帳があった。
「コロシテくん」とあだ名のついたこのキャラは、40代以上には不人気だが、30代以下には人気らしい。
「このコロシテくん、もらってってもええか?」
と、尋ねると、総務の20代も30代も、「どーぞ、どーぞ、早く見えないところに!」と大歓迎。
「なんや、きみら嫌いか。コロシテくん、若い人に人気ちゃうんかい」
「ありえないです!」
「絶対無理です! それはマスコミの捏造です!」
と、叱られてしまった。
そうかあ。人気ないのか。
自部署に帰り、20代女性スタッフふたりに聞いてみた。
「どや、コロシテくんグッズやで~! ほしい人!」
しかし、ふたりとも、ブルブルと首を振られてしまった。
「絶対いらないです」
「黒さん、いつから万博賛成になったんですか?」
「ちゃうねん。このキャラクター、若い人に人気ってネットで読んで、どないかなあと思っただけで……」
今度、摩耶山に行った帰りに、お店のお客さんたちに神戸市民の感想を聞いてみようか。そう思って、胸ポケットにしまいかけると、
「ちょっと待って? それ、付箋メモ?」
と、アラフォーの姐さんが聞いてきました。
「うん、せやけど?」
「だったらほしい。付箋なら使い手ありますから。表紙の子は、どうでもいいけど」
「さよか」
そんなわけで、若手世代における、万博のアレの人気度の独自調査は、途中で終わってしまったけれど、5人中、ひとりとしてこのキャラに肯定的な評価を下した人がいないことは、印象に残った。
残念ながら、弊社も大阪商工会議所所属企業である。
だから、「コロシテくん」を用いたポスターが社内に掲出され、こんなグッズも回ってくる。
しかし元労組役員の総務氏が「コロシテくん」ポスターを張り出した場所は絶妙だった。従業員の往来も激しそうな会社の中心部である。もし府市など行政関係者、業界関係者が会社見学に回ってきたら、さぞかし社内の啓発に励んでいるとのだろうと思ってくれるだろう。
しかし、それは見せかけだけのはなしである。弊社には正門と裏門のふたつある。JRと地下鉄利用者は正門、私鉄と自転車・徒歩通勤者は裏門から出社する。コロシテポスターの掲出場所は、正門組の半数は通らずにスルー、裏門組の全員がスルーする。つまり、社員の25%ほどしか日常的に通らないデッドスポットなのだ。
徒歩通勤で裏門組の私も、コロシテくんポスターを見る機会はほとんどなかった。
労働安全衛生環境委員なので、月に一度は社内を巡回する。その日は万博ポスターの前を通りかかる。しかし、1月のパトロール時には、ポスターの上には、労働安全衛生月間のポスターが重ね張りされていた。
弊社は先代の意向で、社会貢献を重視している。だから、コロシテくんポスターを含め、行政の外郭団体からさまざまなポスターを購入させられている。
しかし、万博と労働安全衛生週間のどちらが大事か。
もちろん、労働者の安全・衛生に決まっている。
万博ポスターの上に労働安全衛生月間のポスターを貼った総務氏の判断は正しい。
大阪万博はただちに中止すべきだ。
能登半島地震で、復興のための人の手と資材が必要なのに、半年限りで後世に借金を残すしかない万博などに、お金も人も費やすべきではない。能登半島の復興に国家予算も寄付金も優先的に割り当てられるべきだ。
なぜ、こんな当たり前の道理や理屈が通らないのか。維新、自民、公明などの政治利権マフィア政党の利権やらメンツのためだけだろう。
世の中を動かすのは、結局カネと暴力だけなんて、ヤクザ映画の世界だけと思ったら、最近の世の中の風潮はヤクザ映画以下で笑ってしまう。暴力しか取り柄のない私にも、まだまだ出番がありそうだ。