うどんすきで有名な美々卯は、元々はぉ蕎麦屋さんでした。
先代の薩摩卯一さんには蕎麦に関する著作もあり、「うどんすきの美々卯」になって以降も、蕎麦を大切にしていらっしゃいました。拙著の二八そばに関する言及にも、親切懇切なるコメントをいただいたことがあります。
同志たちと一緒に囲む美々卯のうどんすきは、格別の味です。私は美々卯の限定の鱧すきと、氷結酒が大好きでした。
先代にお世話になったこともあり、愚父の古希祝いも東京美々卯で行ったのでしたが、父は大阪出張のたびに美々卯で接待されたそうです。少し食傷気味でしたが、まさかおまえが美々卯の大将と知り合いとは、と喜んでくれたものです。
先代はほんとうに素晴らしい人でした。私のスポンサーのご隠居がお連れ合いを亡くしたときは、真っ先に弔問に訪れ、カップ麺を食べようにもお湯の沸かし方もさえ知らないご隠居のために、持参した「うどんすき」セットを振る舞ったのだそうです。
亀井巌夫『うどんすき物語―薩摩きくの人生』 (1981年、大阪新聞社) より、美々卯で蕎麦を食べる谷崎潤一郎。
しかし先代なきあと、「美々卯」の関東6店舗は、新型コロナの影響を理由に突然、閉店し退職同意書にサインしない従業員100人余を解雇しました。完全に労組潰しです。
創業者夫人の薩摩きくさんが、「まずは従業員さんの生活です」と掘っ立て小屋のような家に住み続けたのに、現経営陣はこんな対応を続けるのでしょうかね。