宇宙旅行や深海旅行に行けるセレブには嫉妬と反発しか感じないけれど、人命がかかるとなれば話は別である。
今回のタイタニック観光船タイタンの消息不明でも、全員の救出を願っていたが、残念な結果に終わりそうである。
(米海軍の)幹部は「米海軍が音響データの解析を行ったところ、潜水艇の通信が途絶えた海域付近で、爆縮または爆発に相当する異常を検出した」と同紙(米紙ウォールストリート・ジャーナル)に語った。
一方、米沿岸警備隊は22日、海底3800メートルに沈むタイタニック号の残骸付近の海底で潜水艇の破片を発見したと発表した。この発表により、4日間にわたって数か国が参加した捜索救助活動は終了した。
私は小説や映画の潜水艦ものが好きだけれど、潜水艦事故で死ぬことほどいやなことはない。以前書いた、ピーター・マース『海底からの生還 史上最大の潜水艦救出作戦』の読書メモ。
ただし、この読書メモで、「本書の物語以外には、沈没潜水艦から生存者が救出されたことは未だない」という訳者の江畑謙介氏のことばを引用したが、これには補足が必要なようだ。
1973年にアイルランド沖で沈没した深海探査艇パイシーズ3に残された2人が、酸素が切れる12分前の76時間後に潜水艦に救助されたことがあるという。「潜水艦」と「探査艇」ではちがうということなのかな。今回のタイタニック観光船タイタンは自力で走航できる「潜水艦」ではなく、母船の支援が必要な「潜水艇」である。
今回のタイタンの事故は、爆発もしくは爆縮だったようで、最初から救出は絶望的だった。しかし仮に沈没だったとしても、パイシーズ3が沈んだ場所は水深約480mで、タイタニック号が沈んでいる海底は水深3800m。位置を特定できたとしても、やはりほぼ不可能ではなかったか。
タイタニック号ツアー潜水艇の事故についての6つの疑問、5人が行方不明に、北大西洋
しかしこの事故は起こるべくして起こったものかもしれない。
Newsweekのネット記事によれば、タイタンは過去にも行方不明になったことがあるという。
デービッド・ポーグ記者は昨年夏、CBSの番組のレポーターとして、この潜水艇に乗り込み、タイタニック号の残骸が眠る海底への潜航を体験した。 ポーグ記者は潜水艇の頑丈さに疑問を持ち、その辺にある物で間に合わせる「急ごしらえの脆弱さ」があるのではないかと、深海探検専門のツアー会社、オーシャンゲート(タイタンの所有会社)のCEOラッシュに問いただしたが、ラッシュはそれを真っ向から否定したという。
ポーグ記者は、タイタンには遭難時に捜索を容易にするビーコンが備え付けられていなかったと断言している。また脱出用ポッドもなかったという。
タイタニック潜水艇タイタンは前にも「行方不明」になっていた
過去の反省や教訓が生かされなかったということか(そもそも反省さえしていない)。
ハワイやグアムでもサブマリンツアーがあるようだが、ハワイは水深30メートル、グアムは50メートルほどという。この水深なら事故が起きても救助は可能だろう。日本の観光業では、タンクに注排水して船体を沈下・浮上させる半潜水艇しか認められていないのではないか。アメリカでは、このあたりの法規制はどうなっていたのか。
セレブ冒険家も、いつ棺桶になるかわからない、自力走航能力はおろか、救出ビーコンも打てず、脱出ポッドもないこんなポンコツに、日本円で3500万円もよくもまあ払う気になったものだ。人命や安全より、今だけカネだけ自分だけで、自由競争を優先させてきたアメリカ型社会の規制緩和が招いた悲劇だったように思う。トップ画像はフリーACより、ハワイの観光サブマリンからの沈没船の眺め。
お陰様で、事故のことが良くわかりました。