びぼーろぐ

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ハンス・ペーター・リヒター 「あのころはフリードリヒがいた」

2011-10-12 | レビュー
ハンス・ペーター・リヒター 「あのころはフリードリヒがいた」

 シュナイダー一家はユダヤ人の家族。「ぼく」と同じアパートに住んでいて
フリードリヒとは幼なじみだ。
時は1920年代、「ぼく」の父さんは失業しており、「ぼく」の家は、シュナイダー家のような裕福な暮しはできない。
シュナイダー家の人々はは明るく、幸せそのものと思われた。
 ところが、時代の波に押され両家の立場は逆転する。党の躍進で「ぼく」の父さんは仕事を得るが、やがて
理不尽なユダヤ人差別が目に見えて横行するようになる。 
 ある日「ぼく」はドイツ少年団の集会にフリードリヒを連れていく。ナチス党員の制服やそのたたずまいは
純粋に少年たちの憧れだったから。そこで自ら口にすることになるユダヤ人批判。
 一方でフリードリヒは、差別の中でもなお誇り高く生きようとするユダヤ人の中で、成長していく。13才になり、
教会行事の重要な役目を与えられている。
 ユダヤ人排斥が激化し、フリードリヒのお母さんは亡くなり、お父さんもすっかり元気をなくして、おびえる毎日をすごすようになる。そんな中でもフリードリヒはドイツ人の娘に恋をする。彼女は、ヒステリックなドイツ社会の中で冷静で、フリードリヒを一人の人間として扱う。
お父さんが連行され、フリードリヒは一人になる。ドイツは空爆を受け、フリードリヒは孤独な死を迎える。
 当時の狂気に向かうドイツ社会を子どもの視点で淡々と描いている。フリードリヒと「ぼく」が純粋であるがゆえに、
それを汚す大人の醜さ、戦争の愚かさ、残酷さがひしひしと伝わってくる物語だ。