短編小説を集めた太宰治著「晩年」の中の「彼は昔の彼ならず」の登場人物青扇の自意識について、論文を書きました
太宰の生きた時代は、戦時中でもありました。
軍国主義であったかつての日本では、現代のように若者たちは自由に生き方を選択することはできなかったでしょう。
その中で、太宰は青扇という一人の怠惰な青年を描きました。
借家に住み、屋賃を払わず、働かず、恋人が変わるごとに性格が変わります。
しかし彼は毅然としています。
家主である主人公「僕」は、一向に屋賃を払ってくれない店子に迷惑を被っているのにも関わらず、彼にカリスマを見出します。
後半になると、そのカリスマも薄れていくのですが・・・・・・。
太宰は青扇を「近代の若者の無性格」として描いたそうです。
自我が喪失され、性格が無いということは、人として致命的な欠陥を背負わされていると思います。
青扇は、自我を喪失することによって社会を拒否し、自ら恥じ入りながらもそれに勝る美学を感じているように見えました。
もう本当に自意識過剰この上ありません。
なにを愛すればいいのか。
なにを尊敬すればいいのか。
なにを信じればいいのか・・・・・・。
自分ではなにも決められない、という無自我。
太宰の独特な語り口は、取り付かれたようになります。
時代が変わっても、なお燦然と輝いて、わたしたちの心に語りかけ続けています