僕は名もない凡人でいたい

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眼科に行った

2016年05月19日 | エッセイ
目がさめたら左瞼がぷっくりと腫れていた。
痛みはなかったが、一先ず、近所のS眼科へ足を運ぶ。

S眼科医院の自動ドアは反応が悪い。
『ここを強く長めに押してください』
と、ビニールテープに手書きで書いてあるドアボタンをグッーと強く長めに押すと、ヴィィイーと音をたてながらドアがゆっくりと開く。
こんな状態なので、なかなか開かないドアの外で、立往生している患者さんも少なくない。

中に入ると、受付や看護師はおらず、無人の受付ボックスに診察券と保険証を入れる。
病院内は、物が煩雑に置かれていて、およそ片付けられているとは言えない状態だ。
ここは、受付から検査、診察、会計までを、強面の老医師が一人できりもりしている個人病院なのである。

私が初めてここを訪れた時、(やばいとこに来ちゃったなー)というのが正直な気持ちだった。
自動ドアが壊れかけているだけでなく、雑然と置かれた書類の山や、コンタクトをはめるのに使う水道の蛇口が壊れている事、駅ビルの中にあるのに患者がほとんどいない事など、見るからに病院としての機能が行き届いていない感じが漂っている。

眉目のはっきりとした強面の先生は、私と目を合わさず早口で、検査を進めていく。
目を合わさず早口、という態度に
(本当にちゃんと見てくれているのだろうか)
と不信に思うと、先生は心を読むのか、急に'笑顔’で話し出す。
(実はものすごいシャイな人なのだろうか?)とか
(いやいや、医者でシャイはないだろう)とか
考えていると、またしても心を読むのか、急に目を合わせて笑顔で話し出す。

しかし、診察内容はとてもわかりやすく親切、高潔な人格が垣間見え、よく見ると(若い頃はハンサムだったのでは?)と思わせるキリリとしたお顔で、私はなんとなくこの風変りな先生が好きになった。

瞼が腫れた時の診察もまた、変わったものだった。
光を当てる検査をした後、先生はいつも通りの早口で、診察内容を話し始めた。
その時、私と先生との間には黒い眼科のスライド式診察台が立ちはだかっていたため、私は先生が話している間ずっと、首を左ななめ45°に傾けなければならなかった。

「考えられることは2つあります。ひとつは虫に刺された、もうひとつはストレス性のアレルギーによって起こる『血管性浮腫、クインケ浮腫』です。虫に刺されていれば穴があるはずですが、それは見当たらないのでクインケ浮腫の方でしょう。疲れている時に何か食べませんでしたか? 青魚かカニやエビなど、あるいは腐った魚は? あ、腐った魚は食べないか(笑顔……すぐに強面に戻る)。そういった身に覚えのあるエピソードはありませんか?」

「言われてみれば、昨日は魚を」

「(話をさえぎって)とにかく、ストレスが多いと感じる時にはアレルギーの元になるものは食べないことです。急性の場合は冷やして、慢性の場合は温めてください。これは数日で治るものです。重大な病気というわけではありませんから、心配しなくて大丈夫です」

とても丁寧で優しい診察!
たいした病気でもない病名を、こちらが聞かなくてもちゃんと教えてくれるなんて!
(話はさえぎられたけど、笑)

私は、診察中、笑いをこらえるのに必死
だって、黒い診察台は先生との間に立ちはだかったまま、私の首は傾いたままだったから。
客観的に想像すると、おかしすぎる

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