ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第4話(3)

2025-02-16 11:31:32 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 この、ほぼ同時刻の夜中。
 シーズン・ホスピタルのドクター・スノーは、
 無事に少女から鉄製の首輪を取り外していた。
 首輪に付与されていた呪いの効果が発動され、
 回収に向かう者たちが蠢き出す。
 それは人ならざる者たちの、不気味な足音の始まりであった。
 そして、その首輪に込められていた呪いの魔力を、
 あろうことか己の体内に吸収する。
「なかなか濃い呪力・・・これは人のものではないわね。
 面白いこと。」
 そう言うと少女の入院部屋を離れ、院内から外へと出た。
 今の時季は冬。
 普通の人なら寒がるはずが、
 この魔女にとっては心地よい気温のようであった。
 しばらくの間、夜空を見上げていると
「ようやく来たみたいね。」
 と呟いた。
 第4棟を取り囲む様に、人型のモノが十数体見える。
 全身黒づくめの衣装に、目出し帽の様なものを被っていた。
 不審者極まりない。
 そのうちの4人が不意に動いた。
 身を屈めたまま走っているが速い。
 一気に間合いを詰め、手にしていた武器を振り下ろす。
 手にしていた武器はウォー・ハンマー(戦鎚)と呼ばれる打撃武器。
 重量のある武器な為、扱うには腕力がいる。
 それを片手で易々と使いこなしていた。
 振り下ろした時、ブン!と空を切る音がしたかと思うと、
 ドクター・スノーは既にその場にいない。
 4人が周囲を見渡したその時、ようやく異様な光景に気が付いた。
 第4棟の周囲にだけ雪が降っている。
 足元は、既に膝のあたりまで達しそうな勢いだ。
 それは吹雪になり、瞬く間に視界を遮った。
 パキ、パキ、と音が聞こえてきる。
 ハッとして足元を見ると、膝下あたりまでが凍り付いてきていた。
 身動きの取れないのは我ら4人だけかと思い背後を見ると、
 一緒に来ていたはずの仲間の気配が無い。
 15人で来たはずだ。
 あとの11人はどこに消えた?
 ・・・かわりに太い氷の柱が11本ほど立っているが、まさか・・・。
 ある種の恐怖を抱いていると、
 目の前に雪原の魔女がゆっくりと音も無く現れる。
「強いモノを期待していたけど、アテが外れたわね。
 私の雪原を抵抗出来ない様な輩で、
 院内に入れると本気で思っていたのかしら?」
 生き残ったモノは言葉が出ない。
 足は凍り、手は凍傷の様になり、もはや戦意は喪失していた。
「安心して。
 あなたたちの仲間は、病院で無駄なく使ってあげる。
 実験室では、様々な魔物を利用して臨床実験しているの。
 私の雪で吸い取った血液も、一滴残らず利用するわ。」
 そう言ってドクター・スノーは、生き残ったモノの目を見た。
 いや、診た。
「・・・魅了の効果がかかっている。
 なるほど、あなたたちは魅了の魔法によって精神を奪われ、
 操られてここに来たのね。
 かなり強い魅了の魔力・・・、ちょうどいいわ。
 この魔力を私の魔力に置き換えてあげる。」
 そして、両肩を軽く叩く。
「さあ、お帰りなさい。
 あなたは帰るだけでいいのよ。」
 黒づくめのモノは、別の魅了にとりつかれたように、
 フラフラとゆっくり歩いて帰っていった

 とある館で。
 鏡が、パァン!と激しい音を立てて割れた。
「ほう、“魔眼のリビドー”の効果を与えられた者どもを屠るとは。
 なかなか強い者がいるようだの。」
 女性の声に、脇にいた筋肉質な男が語る。
「どうします?
 我が行きましょうか。」
「・・・いや、保留でよい。
 必ずや、向こうから何か仕掛けてくるであろう。
 首を抑えるのはその時じゃ。」
 そう言って女はスッと立ち上がる。

「奴隷商アラクネに盾突く者はどうなるか、教えてやらねばの。」

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