ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第5話(1)

2025-02-17 21:10:42 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 城下町西区の朝。
 メイン施設である冒険者ギルドは朝8時30分から仕事が始まり、
 それ以外の施設は追従して開店している。
 冒険者向けの各商店は冒険者ギルド近辺にあり、
 朝の時間帯はそれなりの賑わいに。
 そのうちの1つである武器・防具販売店ウェアーズに、
 冒険者カイルたち一行が立ち寄っていた。
 店の親父がカイルたちを見つけ、?となる。
「カイル、お前さんらの武器は手入れしたばかりだろ。
 何か欲しいものでもあるのか?」
「松明6本、フック付きの長い丈夫なロープ、火炎瓶2本、聖水2本。
 以上、全て揃えられそうか?」
「おう、その程度なら全部在庫がある。
 アンデッド(不死者)でも倒す依頼受けたのか?」
 火炎瓶と聖水って言われれば、そう思うのも当然だろう。
「いや、近所の地下迷宮探索だ。」
「なにぃ?あそこは冒険者たちが散々探索し尽くしたとこだろ。
 うちの店でも詳細な地図を販売しているくらいだ。」
「あ、地図があるなら、それも1部頼む。」
「おいおいマジかよ。
 カイルだって最下層のホーム見てきたんだろ?
 あの何も無い、だだっ広い空間。」
「あの迷宮の都市伝説は知ってるだろう。
 それの真偽を見極めたいと思ってな。」
「あの眉唾話か?
 まあ、もし本当の事だと知れたら、
 冒険者ギルドに情報提供すればいい金額にはなると思うが・・・。
 割のいい話とは思えんぞ。
 本当の事だと思えるネタは何かあるのか?」
「いや、無い。
 だから今一度初心に戻って探索してみる。」
「相変わらず生真面目だな。」
 会話しながら、親父は言われた物を一式全て揃えた。
 シーマが現品を確認しながら、淡々と料金を支払う。
「もし掘り出し物を見つけられたら、真っ先にここに売りにくるよ。」
「おう、期待しねーで待ってるぞ。
 気を付けてな。」
 それだけの言葉を交わし、カイルたちは地下迷宮へと足を踏み入れた。

 地下という通り、入口は地上からの下り階段がスタートとなる。
 階段脇の壁には『B1A』の文字。
 カイルはふと足を止めた。
 シーマが声を掛ける。
「どうした?」
「いや、この文字さ。」
「何か変か?」
「普通、頭にある『B』の文字は地下を指すと言われているだろ?」
「ああ。
 他の迷宮でも文字があればそう見ているな。
 だから売っている地図にも地下1階は『B1F』と書かれている。」
「そう。
 末尾の『F』は階層を指している。
 では『A』とは何だ?」
「・・・誤植とか?」
「通路と階段しかない地下4階から地下6階の末尾は『F』だ。
 意図的に『A』にしているとしか思えん。」
「まずはこの謎からか?」
「魔物に襲われる確率が高くなるかもしれんが、
 探査魔法を常時発動させて地下1階を全て歩き回ろう。」
「分かった。」
 探査魔法は、魔力の波である。
 波が何かに触れれば、それが魔物であったり壁であったり分かるのだが、
 魔物や人の場合、逆にこちらの存在を教えてしまう事にもなってしまう。
 相手に気付かれない程度の弱い魔力波で探査する事は、
 熟練の魔法使いでもなければ無茶な話であった。
 階段を降り切ったところで、魔法使いのミウが声を掛ける。
「じゃあ、探査魔法使うねー。」
 普通、こんな階段を降りたばかりの見ただけで分かるような箇所で
 探査魔法など使わない。
 はっきり言って魔力の無駄遣いである。
 しかし、今回はそれが功を奏した。
「・・・カイル?」
「どうした?」
「階段の隣の壁・・・。
 壁の向こう側は土じゃない。
 空間があるよ。」
「何!?」
 全員で壁を調べてみる。
 しかし、隠し扉の類ではなさそうだ。
 どう頑張っても、ただの壁としか分からない。
 ドワーフのゴッセンが壁をバアン!と力強く叩くが、
 壁はパラパラと土埃が舞う程度でビクともしなかった。
「ちっくしょー!
 向こうが空間って分かってて何もできねえのは悔しいな。」
 気持ちは分かるが、分からないものはどうしようもない。
 カイルが声を掛ける。
「分からない以上、ここに留まっていても仕方がない。
 この壁伝いにゆっくり進んでいこう。」
 皆が頷き、ゆっくり進んでいった。
 後衛のミウが片手で壁を触りながら。
 すると、階段からわずか5mほど離れたところで、
 突然キラーラット数匹と遭遇した。
「なんだ?
 1本道なのにどこから湧いて出やがった!?」
 ゴッセンは、文句を言いながら戦斧を振り、難なく1匹仕留める。
 カイルもシーマも剣で切り伏せていた。
 近接なので、シーマは弓を使わず剣を用いている。
 ふと足元に目をやると、シーマが気付いた。
「カイル、ここを見ろ。」
 穴だ。
 鼠が通り抜けるには十分なサイズの穴が開いている。
 やはり、壁の向こう側が空間なのは間違いない。
 いったいどこに抜け道が・・・。
 そう思って歩いていると、ミウが残念そうな声を出す。
「カイルー。
 壁の向こう側の反応、土になっちゃったよ。」
「え。」
 ・・・今、俺たちは階段を降りて右側を歩いてきた。
 じゃあ、左側は?
「一旦階段まで戻るぞ。
 階段の左側を歩いてみよう。」
「あ、そうか。
 そっちがあったね。」
 急ぎ階段まで戻り、今度は左側の通路を進む。
 また階段から5mほど進んだところで今度は、
「痛っ!」
 壁に手を当てて進んでいたミウが、手を少し切ってしまっていた。
「どれ、大丈夫か?」
 ゴッセンが手を見ると、気になるものがあった。
 小さなささくれのように刺さっているそれは、赤錆だった。
 土に赤錆?
 ゴッセンが力強くバアン!と土壁を叩くと、
 ボロボロと付いていた土が剥がれ落ち、
 赤く錆びた鉄製の扉が姿を現した。
「カイル!」
「・・・見つけたな。
 シーマ、ラナ、開けられそうか調べてくれ。」
「分かった。」
 調べれば鍵などは掛かっていない事が判明。
 単純に錆び付いて開かないだけらしい。
「よし力づくだ。
 俺とシーマ、ゴッセンで押すぞ!」
 ドオン!ドオン!と轟音が地下1階に響く。
 すると、扉の蝶番あたりからビキッ!と嫌な音がし、
 徐々に扉が開いていった。
「・・・下り階段がある。」
 だが、地上から地下1階に降りるほどの深さが無い。
 すぐ向こうに新たな廊下が見える。
 そして階段脇の壁には『B1B』という文字があった。
 今まで探索していたのはAブロック。
 こちらはBブロックという意味か!
 皆の表情が、一気に緊張した面持ちになる。
 そして頷いた。
「いくぞ。」
 地下迷宮Bブロックの探索が始まった。

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