ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第6話(1)

2025-02-20 21:13:06 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>
 敵地への侵入捜査など、普通は夜または荒天時にやるものだ。
 清々しく晴れた穏やかな朝に侵入するなど、非常識としか思えない。
 エルとイヴは、高い外壁の上から周囲を見渡した。
 木々で隠すように囲まれた土地があるのが分かる。
 門のあった方にある建物は、木造3階建て。
 その1階部分が長屋の様に、その土地目前まで伸びていた。
「行くわよ。」
「ええ。」
 エルとイヴが音を立てずに走る。
 するとエルが、止まってと手で合図した。
『どうしたの、エル?』
 念話で問いかけるイヴに、エルがここを見ろといった感じで手で知らせる。
 糸だ。
 半透明の、少し白っぽい色。
 土地を囲む木々に張り巡らせている。
 触れれば警報が鳴る、典型的なトラップだ。
 だがそれは、普通の人を相手にすればの話。
『私に任せて。』
 イヴが己の魔力を糸に伝わせた。
 数秒後、
『この糸に魔鍵を掛けたわ。』
 と言って糸を引きちぎってみせた。
 蜘蛛の糸の様な粘りがある糸だったが、その粘りすら無力化している。
 糸の効能全てに魔鍵を掛けたのだ。
 魔鍵を外さない限り、この無力化を解く事は出来ない。
 これが“魔鍵のイヴ”という二つ名で恐れられる力の一端か。
 エルの表情は変わらないが、それでもどこか満足そうな雰囲気で、
『行くわよ。』
 とまた言うと、イヴと共に邪魔な糸を斬りながら奥へと進んでいった。

 ケイトとフランソワが外で待機していると、
 地下迷宮から出てきたカイルたち6人の姿が目に入った。
 ケイトが腕を振る。
 カイルが気付き、近付いてきた。
 全員で大きな袋を背負っているのを見て、え?となる。
 まだ午前中よ。
 探索され尽くして誰も寄らなくなった小さな迷宮で、
 何狩ってくればあんなデカい袋6つも出来るわけ?
「・・・まだお昼前だけど、随分景気が良さそうね。」
「ケイトの言った通りでした。
 地下1階で土埃に隠された扉を見つけ、未踏のエリアを発見。
 そこで超巨大鼠と戦闘してきたんです。」
「ええ?
 地下1階のデブ鼠って、本当にいたの?」
「解体にだいぶ時間がかかりましたが、どうにか5袋で足りました。」
「残り1袋は?」
 この問いにゴッセンがニヤリとする。
「デブ鼠は箪笥貯金が大好きだったみたいでな。
 たっぷりの金貨を手に入れてきたってわけよ。」
「それは凄いわね。
 また行くの?」
「冒険者ギルドに報告と換金。
 それからお昼を食べて落ち着いたら第2ラウンドだな。」
「ケイトたちは何を?」
「知り合いがとある場所に潜入中でね。
 それを待っている状態よ。」
 ケイトとカイルが話していると、フランソワがカイルの顔を覗き込む。
「あなたたちが、地下からの侵入ルートを探している冒険者なのね。
 私はフランソワ。
 初めまして。」
「あ、初めまして。
 カイルといいます。」
「私のお姉様に協力してくれる御礼をするわ。」
 そう言うとフランソワは、花魔術を行使する。
 一凛の青い花が手中に現れ、それをカイルに差し出した。
「前衛の誰かに持たせなさい。
 窮地に陥った時、必ず役に立つ花よ。」
「ありがとう。」
 カイルは素直に受け取り、とりあえずシーマに手渡す。
 そして冒険者ギルドへと向かっていった。

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