♦️937『自然と人間の歴史・世界篇』インドの出稼ぎ労働者(2020)

2020-11-06 08:33:34 | Weblog
937『自然と人間の歴史・世界篇』インドの出稼ぎ労働者(2020)

 まずは、あるショッキングな出来事を紹介しよう。インドでは、4月29日、12歳の少女、ジャムロ・マクダムさんの死が大きく報じられた。彼女は、故郷を目指し路上150キロメートル歩いたところで倒れ、命尽きたというのだ。この報道は全土を駆けめぐった。
 こうなったのは、彼女は、今回の経済活動停止により出稼ぎ先から解雇されたのに始まると。働いていたのは、南部テランガナ州のトウガラシ農園で、15日、そこから故郷のチャッティスガル州に向け歩きだしたという。
 彼女は、職を失い、生きていくには帰郷せざるを得なくなったとみられるる。その理由としては、3月25日から新型コロナ感染拡大防止のため全土で徹底した外出禁止措置を取っていることが、背景にある。

 一説では、外出が警察に見つかり捕まれば、棒でたたかれるなどの罰が待っており、帰郷もできなくなると考えたらしい。
 マクダムさんは検問を避けるため、あえて一緒に出稼ぎに来ていた親族らと森を切り開きながら、より厳しい路程を選んだものとみられる。
 当地においては、日中の気温はこの時期においても30度を超えるものの、公共交通機関も止まる中、徒歩しか選択肢はなかった。
 この悲劇に対し、モディ首相は貧困層対策で謝罪した。それまでの政府の緊急対策において、外出禁止措置を受け、ニューデリーなどでは、当局が食料を配布し、滞在場所となる「シェルター(当座の避難場所)」を用意するなどの対策を取っているものの、十分には周知されていない。しかして、当該のテランガナ州でも出稼ぎ労働者に対して米、小麦を配給しているが、マクダムさんには届かなかった可能性がある。


 これらを聞いてであろうか、モディ首相は3月29日の演説で、貧困層対策が不十分と認め、「私を許してほしい」と謝罪。対策を急ぐ考えを示した。ついでに、後日のことに少し触れると、政府は徒歩で帰省する人を減らすため、5月3日から都市と地方を結ぶ列車やバスを再開させた。

 おりしも、同月28日までの国内では、2万9000人余りの感染者が発覚し、930人余りが死亡している。かくて、早めのロックダウンで感染拡大を防止しようとの政策が、直接・間接の様々な形で貧困層にしわ寄せを強いているの姿が彷彿(ほうふつ)としてくる。

 参考までに、インドで3~6月に徒歩で帰郷した出稼ぎ労働者が1,060万人以上に達していたことを、シン閣外相(道路交通・高速道路担当)が9月22日、下院に提出した答弁書の中で、労働・雇用省がまとめた統計の中で示した。

 加えるに、かかる出稼ぎ労働者の帰郷が及ぼしている感染拡大との関係につき、例えば6月4日付けのロイター通信による、一部の現状報告には、こうある(一部抜粋)。

 「東部ビハール州では、6月1日までに感染が確認された人は3872人で、そのうち2743人は5月3日以降に都市部から帰省した労働者だった(中略)。
 ビハール州の感染者の多くは首都ニューデリーや経済都市ムンバイがある西部マハーラーシュトラ州やラジャスタン州から帰省した労働者だという。
 ビハール州に隣接するジャールカンド州では、5月2日以降に確認された感染者の90%近くは出稼ぎ労働者だという。5月1日時点で111人だった州内の感染者は752人に増えた。」


 ともあれ、このような痛ましい出来事が、かえって歴史的な格差を浮き彫りにしたことになろう。


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 それでは、このような痛ましい出来事が相次いで起きているという、さらなる背景には、何があるのだろうか。人口の6割が住む農村部では、なかなか職が見つからない。ついては、貧困層が短期労働者として都市や海外などで出稼ぎに赴き、そこでの稼ぎを故郷に送金し、家族の生活を支えている現実がある。  
 ちなみに、インド貧困層は政府調査では国民の2割強ながら、実際にはもっと多く、一説には6割近くに上るという見方もあるところだ。

(続く)

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