「○○さんに返しといて」と
『ジム・ボタンと13人の海賊』を知り合いから託されたので、
(じつはその後十数年返却するのを忘れていた…とほほ)
慌てて返す前に読んだ。
とても面白かった!
面白かったけれど、フクラム国と新フクラム国って何?
見かけ巨人って何?
ジム・ボタンは赤ん坊のときに小包で送られてきたの?
と、けっこうハテナマークが頭の中で飛んだ。
大体の内容は類推できるのだけど、
知っているはずのことを知らないもどかしさ…。
というのも当然の話で。
ミヒャエル・エンデの初めての小説『ジム・ボタンの機関車大旅行』と
『ジム・ボタンと13人の海賊』は、もともと一つの物語。
それを長すぎるからといって、二つに分けたものだからだ。
上下巻で分けるのではなく、それぞれ独立した物語として出版された。
1961年の話。
つまり、下巻のほう先に読んでしまったというわけだ。
面白かったけど、ちょっと残念!!
さて、エンデの友人でジャーナリストのペーター・ボカリウスが書いた伝記
(『ミヒャエル・エンデ……物語の始まり』朝日新聞社)によると、
ジム・ボタンの物語は、最初に出版しようとしたベルリンの出版社から、
なんだかんだと書き直すように注文されたそうだ。
「『エマ』は機関車につけられた名前ですから、
これを『人々』の中に数え入れるのはまずいと思います」
「ジム・ボタンとリー・シー王女に『結婚式』をやらせるのは、
もってのほかです。二人とも子供ではありませんか!」
「原稿は長すぎます。三分の二に縮めていただきたい。
たとえば『見かけ巨人』の章など完全に削除しませんか」……
いかにも、頭の固い人たちが言いそうなことだ。
こんなふうに言われ怒ったエンデは、
条件はよくなくても彼の物語を気に入ってくれた別の出版社から出すことにした。
ところが、そこでも長すぎるので二つの物語に分けて欲しいと言われ、
物語は『ジム・ボタンの機関車大旅行』『ジム・ボタンと13人の海賊』の
2冊に分冊された。
ということで下巻にあたる『ジム・ボタンと13人の海賊』を読んだのだけど、
このエンデの最初の物語には、
エンデの才能がいかんなく発揮されている。
どこもかしこも奇想天外で面白い。
機関車が空を飛んだり、海に潜ったりするのだが、
その仕組みが妙に科学的なのがエンデらしいところ。
理屈とファンタジーの合体…といえなくもないかな。
(要は理屈っぽいファンタジーともいえそう。)
それに人と人がお互いに大好き、という気持ちがあふれている。
だから読んでいてラクに息ができるところがとてもいい。
詩人でもあったエンデだけに情景描写が素敵。
『モモ』『はてしない物語』がエンデの作品として知られているけれど、
ジム・ボタンの物語はその2作品を読まなくても、
ぜひ読んでおきたいというくらい見逃したくない本だ。