朝日新聞で4月9日から日曜の読書欄で「古典百名山」というコラムが始まった。
作家の桜庭一樹が文学作品を、もう一人名前をきいたことがない社会学者が
その他のジャンルの名著を交代で紹介していくコラムらしい。
1回目は桜庭一樹が担当し、記念すべき一冊目に取り上げたのが『オズの魔法使い』。
それでいたく気に入ってしまった。
ドストエフスキーでもなく、バルザックでもなく、はたまたトルストイでもなく、
アメリカの児童文学作家ライマン・フランク・ボームだったのが、すごくいい。
桜庭一樹は『少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記』(東京創元社)を読んで、
本当に読書魔だと感心し、尊敬の念を覚えていた。
『オズの魔法使い』を最初に取り上げたセンスの良さに拍手を送りたい。
ワクワクするじゃない。
2週おきに桜庭一樹が担当だから、明後日23日の日曜には次の回がめぐってくる。
次回はどんな本を取り上げるのか、楽しみだ。コミックとくるかな、あるいは文豪の作品だろうか。
それともなかったらミステリー?
ミステリーだったらたのしいかな…。
『オズの魔法使い』は何度も読み返した児童書。
ドロシーが竜巻に巻き込まれて、家ごと飛ばされるシーンは、思い返しただけで楽しくなる。
オズの世界が心の中にあるだけで、人生は捨てたもんじゃないと思えるのだ。
【以下朝日新聞デジタルより引用】
(古典百名山:1)ライマン・フランク・ボーム「オズの魔法使い」 桜庭一樹が読む
■よりよい自分を願う旅
どうしてあんなことを言ってしまったんだろう? 無神経な一言! ウァー、わたしってやつは!? わざと意地悪する人よりひどい。まったく、脳味噌(のうみそ)じゃなくて食べるほうの味噌でも入ってんじゃねぇのォォォ!
という後悔で青くなり、眠れない夜がある。そんなとき、本棚から取りだして繰りかえしめくるのが、本書なのだ。
少女ドロシーは、ある日、竜巻に巻き込まれて不思議な世界に飛ばされてしまう。偉大な魔法使いオズが願いを叶(かな)えてくれることを知り、「カンザスの家に帰してください」と頼むために旅を始めるが……。
旅のお供は、藁(わら)のかかし、ブリキの木こり、弱虫ライオンの三人衆だ。彼らにも切実な願いがあった。かかしは「脳味噌(知性)がほしい」、木こりは「心臓(心)がほしい」、ライオンは「勇気がほしい」と。
だが苦しい旅の末、なんと魔法使いオズはインチキだとわかり、誰の願いも叶わなかった。
とはいえ、よく読むと……?
序盤から、脳味噌がないはずのかかしのアイデアで危険な川を渡れたり、心臓がないはずの木こりが号泣したり、勇気がないはずのライオンがみんなを助けたりする。旅によってさらなる成長までする。
この本を読むたび、さまざまな考えがよぎってよぎってならないのだが、いまの時点でのわたしの解釈は、こうである……。
そもそもわたしたち人間とは不完全なもので、もし完全な存在なんてものがあるなら神さまだけだ。それでも、よりよい存在になりたいと願い、助けあって旅を続ける藁やブリキのガラクタの姿ときたら、まるで「人が生きること」そのものみたいじゃないか、と。
そして、求めたときじつは変化している。祈ったときもう与えられている。そういう静かな寓話(ぐうわ)だと思えて、胸を打たれる。
だから、わたしも、その……反省しつつ、旅を続けたいと思う……。
(小説家)