サラ☆の物語な毎日とハル文庫

『ちいさなちいさな王様』←「鈴木ショウの物語眼鏡」

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 『ちいさなちいさな王様』

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『ちいさなちいさな王様』(アクセル・ハッケ著 ミヒャエル・ゾーヴァ絵/那須田淳・木本栄共訳/講談社)は、
SATP細胞で注目を集めたあの小保方晴子さんが中2のときに読んだ本。
千葉県の青少年読書感想文コンクールに応募し、教育長賞を受けたそうだ。
今年の初めには、ずいぶんそのことで話題になり、売れに売れた。
なんでも出版社は2月だけで4万部も増刷とか。
編集者にとっては、見果てぬ夢が突如実現したような話だったろう。

ところが、小保方さんフィーバーが頂点に達したかに思えたとき、
持ち上がった不正疑惑。
事態は思いもかけない方向に進展してしまった…。

となると、本のほうはどうなったんだろう?

そこでハル文庫の女性に、この本は文庫においてあるか、聞いてみた。

「ありますよ」
「あるんですか…。何でもあるんですね」
「大人の童話として、もとから人気があるんですよ。
挿絵がね、ミヒャエル・ゾーヴァでしょ。
映画の『アメリ』に登場する小道具や絵を制作したというので、
日本でも人気のイラストレーターです。

この本は1996年に刊行されてますから、
『アメリ』よりも前に描かれたものなんですが。
ドイツの新聞記者だったアクセル・ハッケが書いて、
ドイツではベストセラーになったんです」

ということで、本を借りて読んでみた。

この本にもちいさい人が登場する。
王様だ。
何しろ小さい。
僕の友だちのレディバードは20センチぐらいの背丈はあるが、
この王様はほんの人差し指くらいの大きさ。
おまけにひどく太っていて、白いテンの皮で縁取りされた
分厚い赤のビロードのマントは、はち切れそうになっている。

ある日、ドイツの会社員の男の部屋に、ちいさな王様が現れるのだ。
男と王様は、ときとして人生について語り合う。

驚いたのは、王様の世界では大人で生まれること。

僕たちの世界では、人は小さな赤ん坊で生まれ、
だんだん大きくなって大人になり、死んでいく。

王様の世界では「生まれる」というのは、
ある日ベッドで目覚めること。
そのときはすでに大人で、バリバリ仕事もできるし、知識もある。
ところが年を取るにつれ、体が小さくなり、子どもになるというのだ。

子ども時代が人生の初めではなく、終わりにある。
さかさまだ。

王様の種族の一生は、次のようなものであるらしい。

父親の王様と女王がベランダの上で固くしっかりと抱き合う。
そして目をつぶってベランダから飛び降りるのだ。
すると、地面がトランポリンのように弾み、
王様と女王は夜空まで飛び上がる。
そして夜空の星一つ掴んで降りてくる。
その星をベッドの中に入れておくと、
翌朝その星は大人の姿で目覚めるというわけだ。

最初は大きくても、年を重ねるごとに、だんだんちいさくなっていき、
最後は芥子粒(けしつぶ)のようになり、とうとう見えなくなってしまう。

これがちいさな王様の種族の一生。

で、僕たちの世界では大きくなって大人になるっていうけど、
本当に大きくなっているのか? 
子ども時代のほうが想像する力も、
未来に対する可能性も大きかったのでは?
年を取るにつれて、その想像力や可能性は
縮んでしまっているのではないか? 

と王様は指摘するんだ。

たしかになぁ。
「現実を直視しろ」とよく言われるけれど、
それは「夢ばかり見てないで、身の程を知って、
こじんまりとつまらなく生きなさい」
というニュアンスで使われることが多いと思う。
大人になった僕たちは「現実」というものに四方八方をふさがれ、
いくつもの枠組みの中に体を押し込んで、
人生ってこんなものか、生きるっていったい何なんだと、
途方にくれていたりするんだ。

大人になったら、もっと自由に、もっと力強く、
やりたいことをやって、なりたいものになれると思っていた。
あの子どもの頃は、“存在”という意味ではもしかしたら、
制限を自分で設けることがない分、
大人の今より伸び伸びしていて大きかったのかもしれない。

大人が絶対的に大きい存在で、子どもは小さいなんてウソかもしれない。
…そういうことを考えさせてくれる本。

【見つけたこと】子どものころの想像力や夢見る力は、
大人になってもやっぱり持ち続けているべきだ。
いつ「さかさま」になってもいいように。

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レディバードが言ったこと
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「その王様、知ってるわ」
「えっ、きみの仲間なの?」
と僕は、いつものようにあっけに取られて聞いた。

「別の種族だけどね。あの人たち、変わってるのよ。
いつだったか、その本の王様の家に、お茶に招かれたことがあるわ。
で、何がでてくるのかと思ったら、グミキャンディよっ!」
そう言うと、レディバードはフンッと鼻を鳴らした。

「わたしは朝露がおりたての花の蜜と、フルーツコンポートのほうが好みだわ。
王様の種族はエレガントさにかけると思うの。
哲学者を輩出している種族ではあってもね。
だって、グミキャンディだなんて」
レディバードは、今度はものすごいしかめっ面をした。

それから、得意げに、僕に教え諭すようにこう言った。

「年を取ったら子どもになるって、本当の意味で賢くなるってことよ。
夢を見る力と想像力。見えないものを見る力。
そこだわね、ポイントは」

「ふうん」
だから、そう書いてるじゃないか、と思ったけど、
ここで何か言うとややこしくなるだけなので、黙ってコーヒーを飲んだ。

読みたくなったら↓

ちいさなちいさな王様
 
講談社

 

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