サラ☆の物語な毎日とハル文庫

「鈴木ショウの物語眼鏡」→「レディバード」

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 なぜレディバードという名前の20センチたらずの年齢不詳の
 得体の知れない女の子が僕のところに出没するのか?
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ハル文庫。
僕の姉が始めた子供向けの家庭図書館だ。
ブックカフェも併設して、地域の人に愛され、盛んに人が集まってくる。
ところが、その姉が突然病気で亡くなった。
そこで姉が書こうとしていた本を僕が引き継ぐことになった。
しばらくして、さらに持ち上がったのが、このメルマガの話。
前回からこうしてメルマガを発行している。

うわさのレディバードが初めて姿を見せたのは、5月の夕方。
徹夜して書き上げた原稿を仕事先の出版社の編集部に送り、
昼過ぎまで一眠りしたあとのことだ。

太陽は西の空に傾き、やがて地平線の向こうに消えてしまおうとしていた。
もうすぐ地平近くの空は、淡い茜色から赤葡萄酒色、
そして紫色へとゆるやかに変化していくだろう。
蜂蜜のような光が僕のいる窓辺にも届き、
地平線のはるか向こうへと誘い出そうとする。
「もう夕方だな」
僕は眠気をとばすように背伸びをした。

「あんたは第一、昼すぎまで寝ていたんじゃない。
やっと起きたと思ったらボーっとして。
そういうの、ぐーたらって言うのよ」
突然、小さいけれどはっきりとした高い声が、すぐ側で響いた。
僕はびっくりして跳びあがり、イスに座りなおした。
「だれっ?」
しかし、だれかがこの部屋にいるはずはない。
一人暮らしなんだから。
空耳か?
あたりをキョロキョロ見回しても誰もいない。
結局僕は、心の中で自分が考えたことが頭に響いただけだろうと
納得することにした。

「やっとあたしの声が聞こえたみたいね」
こんどは右耳のそばで声がした。びくっとして声が聞こえた窓のほうを向く。
すると、いたんだ!
なんと、窓の桟に生意気そうに腰をかけ、ふてぶてしく脚を組んでいる
小さな女の子の姿が目に入った。
頭の後ろがチリチリするような妙な感じがした。
うそだろっ!!
顔をそむけてから、また視線を戻してみる。
まじまじと見入ってみる。
目をこすってみる。
でもやっぱり、窓の桟のところに、茶色い髪で唇が赤い
おチビさんの女の子が座っている。
背の高さはせいぜい20センチ。
小さいとはいえ、どうやら子どもではなさそうである。

「きみ、だれ?」
僕がそう尋ねると、女の子はやおら立ち上がり、
くるっと回って空中を飛んでテーブルに移った。
そして、ていねいにプリンセスお辞儀をして、晴れやかな調子でこういった。
「わたしは妖精よ。あんたがあたしに出会えたのは、
これ以上ないくらい名誉なことだし、幸運だと思うわ」

幻覚が現れた?
いったいどうしたんだ。
目の前に人間の形をした人形みたいな女の子がいて、妖精だと豪語している。
僕は何も言えずに固まっていた。
「あんたは、あたしのことをティンカー・ベルかって聞かないのね」
とその小さい女の子がいった。
「なんで?」
「そう聞く人が多いから」
「それじゃあ、あなたはティンカー・ベルさんなんですか?」
(ティンカー・ベルは『ピーター・パン』 に出てくる妖精だ。)
「違うわ!」
なんだよ、ややこしいな。
僕が黙ってしまうと、その妖精は話し始めた。

「わたしの名前はレディバード。物語の島の妖精よ。
ここには、あんたのお姉さんがよこしたの。
ショウくんのところに行って、いろいろ相談にのってあげてねって」
「………?」
「あんたのお姉さんはね、人間の役目を終えて物語の島に戻ってきたの。
本来は、由々しき家柄の方なのよ」

「ちょっと待って。話が見えないんだけど。
頭、大丈夫? 痛いとかクラクラするとかしてない?」
「ふん。信じようと信じまいとあんたの勝手よ。
あの素晴らしい方があんたのお姉さんだったなんて、
こっちのほうがビックリだわ。
とにかくわたしにはお役目があるのよ」
そういうと、消えてしまった。
いままでそこにいたのはウソのように、ただ、いなくなってしまったのだ。

大法螺に聞こえるだろうけど、そんなわけで、彼女はときどき僕の前に現れる。
そして、僕のメルマガの原稿をチェックし始めたってわけ。

物語の境目はだんだん曖昧になっていく。
意識の中と外の境目が判然としなくなるのと同じだ。
何が本当で、何がウソか、線引きができる人は多くはないんじゃないか。

ちなみにレディバードというのは本当の名前じゃないらしい。
なんだか、長ったらしい、言いにくい名前があるのだけど、
それじゃ呼びにくいからって、レディバードの愛称がつけられたのだとか。
いつも水玉の衣装をつけているからレディバード。
レディバードはてんとう虫の意味。よくできた話だ。

【見つけたこと】物語はいやおうなく始まる。

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レディバードが言ったこと
─────────────────────────────
「『美しい』って言葉が抜けてるわ」
「へっ?」
「だからどこを見てるのって話よ。
人のことを描写するとき、一番印象深いことを抜かしたりしないでしょ、
普通は。
『美人』だとか『素敵』だとか、そういう表現はできないのって話ですよ」

「ああ、ごめん。忘れてた…」
と言ったものの、じつは美人とかそういうことを考えたこともなかった。
もちろん、よく見ればすごい美人だ。
だけど、リカちゃん人形を見て「ほう美人だ」なんて感心するやつがいたら、
引いてしまわないか。
人形は人形だ。美人とか考えるまでもなく、美しくつくられている。
妖精だって同じである。
だいたい妖精というだけで圧倒されて、美人かどうかなんて
気にしたこともなかったのだ。

「あのねえ、それより妖精は何を食べるかとか、物語の島はどこにあるのか
というほうが気になると思うんだ」

「そうですかっ」
レディバードのご機嫌が斜めにかしいだ。
僕はあわてて冷蔵庫からとっておきの果物のシロップ漬けを取り出した。
わざわざ有名なパティシエの店まで行って買ってきたのだ。
レディバードは花の蜜が主食だ。同様にシロップ漬けにも目が無い。
「ほら」
器に入れて目の前に置くと、
「あら、気が利くじゃない」と嬉しそうに言った。
そして皿の前に座ると、優雅にシロップ付けに手を入れては、口にもってゆく。
シロップ付けに手が触れているように見えないし、
口をあけて食べているようにも見えない。
だけど「美味しいわ」と言うところを見ると、それが妖精の食べ方なんだろう。

僕は「ちょっと素敵かもな」と思いながらレディバードの姿を見ていた。
 
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