サラ☆の物語な毎日とハル文庫

ファミ通文庫“文学少女シリーズ”←「鈴木ショウの物語眼鏡」

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 “文学少女”こそ物語の案内人にふさわしいのだけど…

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僕のマンションがある駅前の書店は、
小さいけれど品揃えはそんなに悪くない。
店を入って左側、入り口付近には、
書店員さんおすすめの文庫本が平積みになっている。
少し前の話になるが、その一番目立つところに長いこと
積まれていたのがライトノベル「文学少女」のシリーズ。
(野村美月著/ファミ通文庫)
それまでライトノベルを手に取ったことがなかったのだが、
平積みの『“文学少女”と死にたがりの道化』を見たとき、
つい“文学少女”という言葉の磁石に引きつけられて手に取った。

本を開いてぱらぱらとめくって、一章の「遠子先輩は、美食家です」
の冒頭部分でノックアウトされた。
ちょっと長くなるけれど、この本の主人公、“文学少女”天野遠子の
語りを引用させてもらう。

「ギャリコの物語は冬の香りがするわ。清らかに降り積もった新雪を、舌の上でそっと溶かし、
その冷たさと儚さに心が気高く澄んでゆくような、そんな美しさと切なさがあるわ」
そして、甘いため息をもらし、本のページを破っては、食べるのだ。
天野遠子は本や紙に書かれた物語を食べる妖怪。えっ~~!
ライトノベルはコミックと小説が合体したようなものらしいから、
そのまま受け入れればいい。
コミック『ONEPIECE』のルフィだって、
ゴムゴムの実を食べたゴム人間だ。漫画だから、そこに
「理不尽ではないか」という理屈を持ち込むやつはいないだろう。
同じである。

天野遠子は続ける。
「やっぱりギャリコは美味しい~~~~! あのね、ギャリコはね、ニューヨーク生まれの作家で、映画の『ポセイドン・アドベンチャー』や、児童文学の『ハリスおばさん』シリーズなんかも有名だけど、わたし的に彼のベスト1は、『スノーグース』なの!
沼地の近くの灯台に住む孤独な画家ラヤダーと、傷ついた白雁を抱いて現れた少女フリスの静かで切ない魂のふれあい! お互いに深く優しく想いながら、決して言葉にはしない──! ああ、なんて清らかな恋!
いい、心葉くん。ぺらぺらしゃべっちゃダメなのよ? 本当に大切な想いは、墓場まで抱いてかなきゃあ。口を閉ざし耐えるところに、切なさと美しさがただようのよ。ラストシーンは、何度読み返しても号泣だわ。ギャリコの物語は、火照った心をさまし、癒してくれる最上級のソルべの味よ。喉にするりと滑り込んでゆく食感がたまらないわ。『ジェニイ』も『雪のひとひら』も、ぜひ読んで! 訳は断然矢川澄子さん推奨よ!」

シリーズ全編を通じて、天野遠子は、一学年下の文芸部員井上心葉に、
物語について語りつづける。折にふれ語った本は何冊になるだろう?
それも食べ物の食感や味にたとえて語るのだからスゴイ。
しかも本編は既存の小説をベースに物語が組み立てられている。
ベースとなる小説の緊迫感と本編の登場人物たちが織り成す物語が重なって、
独特の空気感をもった本となっている。
テンポの良い語り口につい引き込まれ、何のかんの言っても
面白さに本を置くことができない。

物語は聖条学園文芸部の部長・天野遠子と
1人だけの部員・井上心葉を主人公に語られていく。
「ぼくらが所属している聖条学園文芸部は、
四階建ての校舎の三階の西の隅にあった。
夕暮れになると西日が差し込み、部屋の中が、
蜂蜜を流し込んだようなあでやかな金色に染まる。」

語り手の井上心葉は男子である。
中三のときに書いた初めての小説が文芸雑誌の新人賞をとり、
100万部突破のベストセラーになった。
井上ミウなんてペンネームにしたものだから、
十四歳の美少女覆面作家としてマスコミに騒がれた。しかし、
ある事件をきっかけに、ストレスからくる過呼吸で病院に運びこまれ、
以後引きこもる。
そのあと、やっとのことで高校受験をし入学したのが
聖条学園だったという筋書き。

“文学少女”シリーズは本編8冊、エピソード集4冊、
外伝4冊の全16冊。累計で250万部を突破したファミ通文庫の
人気シリーズだ。

シリーズを通して日本古典文学から児童文学まで、
幅広く何十冊という本が取り上げられている。
“文学少女”天野遠子が語る物語評は、一級品だと僕は思う。
その物語評をつなげて本にすれば、どれだけ興味深い物語案内が
できるか、と思うのだ。

まあ、才能ある人(著者の野村美月さん)はこうして自分の仕事を
しっかりこなしている。
こちらはこちらで地道に、物語の面白さを伝える仕事に向き合うとしようか。

【見つけたこと】本にはそれぞれ風味がある。さまざまな物語を味わい尽くし、
堪能してこそ、至福に浸れる。ただし食事と同じで「節制」は必要かも。

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レディバードが言ったこと
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「ほらほら、あんたのお姉さんがおっしゃったとおりだわ」
レディーバードは、しかめっ面をしながら言った。

「姉さんが何て言ってたって?」

亡くなったあと物語のシマにいるという姉の話に、僕はすばやく反応した。
姉が亡くなってから、まだ1年もたっていない。
物語のシマにいるっていうのは本当なのか、と疑う気持ちも強い。
だけど、レディバードがこうして目の前に現れるのが事実だとすると、
姉の話も事実なのかもしれない。

「ふん」
これはいつものレディバードの前置き。
「お姉さんはね、こうおっしゃっていたわ。
『ショウは弱気なところがあるから、気をつけてあげて』って」

「僕のこの文章のどこが弱気だっていうんだい?」
怪訝に思って聞き返した。

「タイトルのところよ。
『文学少女こそ』の“こそ”に、ふさわしいのは自分じゃないという
弱気が出ているわ。
『われこそは』の“こそ”ならいいんだけどさ。
こういうところ、読んでくれてる人に失礼だと思うわよ。
自分こそは一番と思って書いてくれなくっちゃ。
一番の人のを読んでるんだって、読者の人が納得できるようにね。
あんたのこそは、こそこその“こそ”だと思うわ」

僕はかなり気を悪くした。
「だから、こちらはこちらで地道にやっていくって書いてるだろう」

「だから、その“地道に”ってのもどうかしらね。
一発バーンと花火を打ち上げるような、
どでかい気持ちで書いてくれなくっちゃ。
地道じゃ、地面に近すぎて泥まみれよ。
“こそ”と“どろ”だと“こそ泥”じゃない。
ってことは、あらあら、あんたは『こそ泥』ってことよ」

レディバードは、自分の言ったしょうもない駄洒落が気に入り、
「これ受ける。アハハハ」と笑いだした。
そして、手を叩いて笑いながら消えてしまった。

…失礼なやつだな。
むかつくのを通り越して、ため息が出た。
まあいいさ。
こっちはとにかく、書くだけだ。
オレは人にとやかく言われてブレたりはしない男だ。
って、人に言われて、メルマガ始めたんだけど。

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読みたくなったら↓

“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)

 

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