キャベンディッシュの村で、祖母とともに郵便局を運営し、短い物語や詩を新聞社や雑誌社に送って生活費の足しにしていました。
そして、あるときから、出版社から求められるセンセーショナルで短い作品を書くだけではあきたらず、「一冊の本──長編小説」を書いてみようと考え始めたのです。 しかし、雑事に追われて、じっくり腰をすえて書く時間がとれません。
そこで、思いついたアイデアや筋書き、エピソード、登場人物、状況描写などを、その都度ノートに書き留めて、短い隙間時間も有効に活用することにしました。
あるとき、そのノートを開いて、短い連載小説の題材を探していたモンゴメリは、一つの覚え書きを見つけました。
それは「年寄りの夫婦が手伝いの少年を孤児院に依頼する。ところが手違いで、女の子が夫婦のもとに送られてくる」という短い一文でした。
近所の人が孤児院から女の子をひきとったと聞いたときに、ふと思いついたアイデアです。 久しぶりに見返して見つけたこの一文は、モンゴメリの作家魂を刺激しました。 「面白い。このアイデアをもとに小説を書いてみよう」 最初は新聞に掲載する短い小説にするつもりでした。
しかし、名前の最後にeのついたアンの物語は、それ自身がいのちを得たかのように、次々にイメージを喚起し、ストーリーを紡ぎ始めたのです。
これが『赤毛のアン』の物語が紡がれた、そもそもの始まり。