『赤毛のアン』の原題は、「Anne of Green Gables ──グリン・ゲイブルスのアン」だ。
アンのプリンスエドワード島における物語は、グリン・ゲイブルスにきた日から始まる。
グリン・ゲイブルスとは「緑の切妻屋根」という意味。
建物の屋根の様式が「切妻屋根」というわけだ。
切妻屋根とは、折り紙を山折りに2つに折って山の形にし、建物にかぶせたような形状の屋根のことを言う。
グリン・ゲイブルスにきて、アンは保護者つまり家族、家庭、そして自然あふれる環境と友達を得ることができた。
「グリン・ゲイブルスのアン」ということは、アンにとって、自分の居場所が見つかったというこだ。
物語の中のグリン・ゲイブルスは、こんなふうに描写される。
「裏庭の一方には大きな柳の古木が立ちならび、もう一方の側には、威風堂々と言いたいロンバルディポプラが植わって」いた。
「すぐ側を流れる小川のほとりの窪地では、ほっそりした樺が頭をうなづかせている」のが見えた。
アンの部屋となった東の部屋の窓の外には、大きな桜の木が、枝が家とすれすれになるほど近くに植わっていた。
家の両側は、一方はりんご、一方は桜の大きな果樹園になっていた。
「庭の下は青々としたクローバーの原で、それをだらだらと下ると窪地に出る。窪地には小川が流れ、何十本もの白樺が勢いよくはえている。下草は、しだや苔やさまざまな森林植物らしい。その向こうはえぞ松や樅で青くけむったような丘で、木の間に見える灰色の破風づくりは、『輝く湖水』の向こう側から見たあの小さな家の屋根だった。 左手のほうは大きな納屋になっており、その先のゆるやかな原をくだっていくと、向こうに青い海がきらきら光っていた…」
グリン・ゲイブルスのモデルとなったのは、実際には、デイビッド・マクニール二世とマーガレット・マクニール兄妹の農場。
この二人は、モンゴメリの祖父の従兄弟にあたる。
モンゴメリは、この“グリン・ゲイブルス”が、自分が住む祖父母の家の近くにあったため、まわりの森や林を散歩しながら、この農場に親しみを感じていった。
そして、強い愛情を抱くようになったのだ。
アンは自分の部屋となった殺風景な東の部屋にあれこれ想像を加え、豪勢な部屋のように思おうとする。
しかし鏡を覗き込んで、いつもの自分の顔をみつけ、「でもどこの者ともつかないアンより、『グリン・ゲイブルス』のアンのほうが百万倍もいいわ、ねぇ」 と自分に向かって嬉しそうに話すのだ。
きっと初めて、想像上の自分を超えて、現実の自分がいいと思えた瞬間ではないだろうか。