舞台はドイツ。童話から抜け出したようなローテンブルクの町。
赤い切妻屋根の小さな家が立ち並ぶ──体裁は絵本、の短編小説。
少しだけくすんだ色遣いで、そのぶん幻想的なタッチの絵は、
こっちの世界においでよ、と言わんばかりに読者を誘う。
絵を担当したのは、イタリア人の画家、マヌエーレ・フィオールさん。
にしても、伊坂幸太郎がこんな本を出しているとは知らなかった。
興味深々! で図書館から借りてきた。
『クリスマスを探偵と』は紛れもなくクリスマスの物語。
探偵は、クリスマスイブに浮気男の後を尾行して、ローテンブルクにやってきた。
そして、ぜひとも浮気の証拠を押さえようと身構えている。
探偵が待ち時間をつぶし、浮気男を見張るために公園に行くと、
ダッフルコートを着た若い男が一人で腰掛け、本を読んでいた。
探偵は思わず知らず、若い男と話しこむのだが……
トランプの伏せたカードを1枚1枚めくるように、少しずつ事実が顔を見せる。
サンタクロースの話がところどころに出てくるけれど、
いったいサンタクロースって、何なんだ? と行きつ戻りつし、
やがて心が温まり、ほろりとしてしまう結末に。
探偵は15歳のときに家出をしていた。
若い男は探偵にいう。
「クリスマスとはそういうものです。欲しがっているものがもらえる日です。
ああ、言うまでもないことですがお母さんは、カールさん(探偵の名前)にも会いたがっていると思いますよ」
「どうですか?
今日、これからでも実家に帰ってみたら」
あとがきによると、伊坂幸太郎が大学一年生のときに書いた短編小説が
下敷きになっているらしい。
それは「生まれて初めて完成させたもの」だったそうで、
なんとレアな物語、としげしげとみてしまう。
とはいえ、アイデアとストーリー展開はそのままに、
文章をすべて書き直した…ということです。(2017年10月刊行/河出書房新社)
ストーリーが一筋縄ではいかないところがこの作家らしく、
最後まで読んで、もう一回最初に戻って読むことで、
なるほど、ここにさりげない伏線が、と納得でき、
物語の構造が理解されていく……
といった感じ。
ワインでも傾けながら、クリスマスの1週間前あたりに読みたい。