新潮文庫では、328~353ページが、アン・シャーリーのクリスマスの話です。
アンは11歳のとき、孤児院からグリーン・ゲイブルスにやってきました。
だから11歳の冬も、プリンス・エドワード島でクリスマスを迎えているけれど、
その記述はとくにありません。
『赤毛のアン』にクリスマスの話が出てくるのは、12歳の冬。
学校に新しく着任したステーシー先生が
「クリスマスの晩にアヴォンリーの学校の生徒で音楽会を催し、その収益で校旗をつくろう」
という計画を発表したことにはじまります。
音楽会は合唱が6つ、対話、暗誦、活人画がプログラムらしい。
現代では、ましてや日本ではあまり馴染みのない内容だけれど、アンは興奮している。
暗誦というのは、朗読劇みたいなものかな?
なにしろアンと同級生の女の子たちが、
グリーンゲイブルスの居間で暗誦のプログラム「妖精の女王」を練習していたというから、
複数の人数で暗誦=朗読劇…どうだろう??
なんにしても、女の子たちが台所からがやがや笑いさざめきながら出てきて
鉢合わせしそうになったマシュウは、
陰にかくれて女の子たちを、はにかみながら見守ります。
(マシュウはとにかく女性が苦手)
そして、どうも変だと思いはじめる。
アンの身なりが、ほかの子とちがっているのだ。
マリラはかざりのない黒っぽい生地で、いつもおなじ型の洋服をつくって着せていた。
みんな赤や青やピンクや白のはなやかな色を着ているのに、
どうしてマリラはいつもアンにあんなかざりけのない、地味なかっこうをさせておくのだろう?
マシュウは、それはそれで「何か賢明な、はかり知ることができない考えがあってのことだろう」と考えるのだけど、
「あの子にも一つぐらいきれいな服を──いつもダイアナ・バーリーが着ているようなのを一枚こしらえてやっても、わるいことはあるまい」
と思います。
クリスマスは2週間後!
きれいな新しい服こそいちばんいい贈物だ。
そう考えたマシュウが、アンの服をこしらえるために奮闘するようすは、なかなか愉快なものがあります。
女の子のことは何もしらないばかりか
服を買いに出かけても、店の女の人と話すのもしどろもどろ。
(女性恐怖症かなーー。)
思わずふき出してしまいますが、マシュウのアンに対する愛情の深さがほの見えます。
そして、けっきょく自力で女の子の服を店で注文するなど無理だと悟ったマシュウは、
ひとりだけ、心を許して話ができるリンド夫人に、相談を持ちかけます。
リンド夫人は気持ちのあたたかい女性なので、マシュウの頼みを快く引き受け、
それはもう素敵な、アンによく似合う、美しい服を仕立ててくれます。
クリスマスの朝に、アンがマシュウから贈られた、忘れられないクリスマス・プレゼント。
マシュウはおずおずと包み紙から服をとりだし、マリラのほうをこわごわ見やりながらさしだした。
アンは感激のあまり言葉も出ないようすで新調の服をながめていた。
ああ! なんと美しいのだろう──
つやつやとした、すばらしい茶色のグロリア絹地!
優美なひだやふちどめのあるスカート、
最新流行の型で、ピンタックのしてあるブラウスで、首にはうすいレースのかざりがついいる。
それよりも袖、すばらしいのはスリーブだった。
長い肘のカフスの上には、茶色の絹のリボンを蝶結びにしたので仕切ってある、
二つの大きなふくらみがついていた。
アンの目に涙があふれてきたので、
あわてて「どうしたんだ、アン? 気にいらないのかな?」と問いかけるマシュウ。
アンはそれどころか、涙があふれるほどうれしかったのです。
その晩の音楽会は大成功。
20年ぶりに公会堂の音楽会に出かけたマシュウとマリラも、
だれにも負けないくらいに立派で、いちばんの花形だったアンのことを満足げに、うれしく思うのでした。
独身で通したマシュウとマリラの兄妹、そして孤児のアン。
3人にとって、心から幸せなクリスマスです。