女探偵V・I・ウォーショースキーは
姿を消したアフリカ系アメリカ人の老女優と若者を追って
カンザスへ。
今回は、自身のテリトリーであるシカゴを離れ、
カンザス州が舞台となる。
だれ一人、知り合いがいないなかで
少しずつ信頼できる相手を増やしつつ
実態のわからない事件に取り組むV・I。
文庫の帯には
「カンザスに渦巻く巨大な陰謀にヴィクが挑む」
「ミサイル基地に秘められた謎とは?」
といったコピーも。
いつものようにV・Iの行く先々でいろんな事件が起き、死体が発見される。
アフリカ系アメリカ人への差別を正面から取り上げ
奥行き深く、人間関係を描いている。
読んでいて決して中だるみのない筆致は、いつもながら素晴らしい。
ぐんぐん読める。
たぶん人と人との交流を描くのが、特にうまいのではないかと思う。
「理解」「和解」「援軍」「味方」……
孤軍奮闘するV・Iだけど、そういう人間関係が少しずつ築かれて
最後には女神がほほ笑むのだ。
カンザス州はパレツキーが4歳から20歳を過ぎるまで、
過ごした土地だそうだ。
父親が細菌学者で、カンザス大学で教えており、
パレツキー自身もカンザス大学を卒業している。
カンザスと言えば『オズの魔法使い』
竜巻に家ごと飛ばされる前に、ドロシーが住んでいた場所だ。
かかとをカチカチと鳴らせば好きなところに行ける
パンプスのエピソードも使われている。
(おかしいな。この小説は赤いパンプスとなっているけれど
手元にある柴田元幸訳の本では
東の国の魔女が履いていたのは「銀の靴」。
赤いパンプスというのは、どこから出てきたんだろう?
そうか、色はこのさい関係ないわけだ。
パンプスというところが大事なんだろう、きっと。)
V・Iがドライブの途中で「オズの魔法使い博物館」への標識を
通り過ぎるシーンもある。
そういうのも楽しい。
650ページのV・I・ウォーショースキー・ワールド。