サラ☆の物語な毎日とハル文庫

三津田さんの物語①~2人のフサコさん

@サラ☆

こんにちは。

三峯神社の帰り道で、

「やわらかいものにしなさい」という啓示

(なんと大げさな。ふっと心に浮かんだだけです)

を受けたので、

三津田さんの物語を見直しました。

そして、やわらくするべく、やってみました。

またか…という重複についてはゴメンナサイ。

試行錯誤の真っ最中です。

 

 

★プロローグ~2人のフサコさん

 

明治維新より前の江戸時代は、誰もかれもが着物を着て、武士は脇に刀を指して歩いていました。

日本はいわゆるサムライの国でした。

徳川家康により江戸幕府が開かれてからは、日本は強い幕藩体制で統治されていましたが、

国土は藩に細かく分かれ、各大名がそれぞれの藩の領地を治めていました。

(江戸時代の終わりごろには、260を超す多くの藩があったそうです。)

 

藩の大きさは石高で示されました。

なかでもダントツで大きかったのが、

戦国武将前田利家が開いた、加賀100万石の加賀藩です(いまの石川県金沢市)。

最初にこういうことを話しているのは、この本がその加賀前田家の子孫のひとり、

フサコさんの物語だからなんですが。 

 

さてさて、はじまり、はじまりー。

 

時は昭和10年前後。

昭和6年に中国で満州事変が勃発していますから、戦争の足音がかすかに聞こえていたころのこと。

 

東京市の広い百貨店の店内で、加賀前田家のなかでも、図書家(ずしょけ)と呼ばれる家柄の

次女と三女が、買い物をしていました。

2人がケースのなかをのぞいて、どれにしようか品選びをしていたとき、

ショーケースの奥にいる女性店員たちが

「ちょっとちょっと、素敵な人が歩いてくるわよ」

と、向こうのほうに視線をやりながら、小声で言い合っていました。

 

いったい、どんな素敵な方かしら、と2人が振り返ってみてみると……、

こちらに向かって歩いてくるその人は、

図書家の長女、前田冨左子、つまりフサコさんでした。

 

鮮やかな色柄の着物を粋に着こなし、

小柄ながら社交ダンスで鍛えたスっとした姿で気負うことなく、

2人を探しながら歩いてくるのです。

 

「なあんだ、お姉さまじゃないの」

そう思ったのですが、たしかに言われてみれば、いつも見慣れているその姿は

娘らしい華やぎと品格に包まれていました。

何かと品定めにうるさい百貨店の女性店員に素敵だといわれるなんて、

ちょっとしたものよね…

と、2人は姉の人目をひく姿を自慢に思ったのです

 

 

時は流れて、あと1年でミレニアムというぎりぎり世紀末の渋谷駅ハチ公前。

(年号はすでに昭和から平成に変わっています。)

 

気骨ある雰囲気の一人の小柄な老女が、ひと目で待ち合わせとわかる風情で、

背筋をまっすぐに立っていました。

決して高級な仕立てではないけれど、

内側に大きな柄の入った紫色の無地のハーフコートをはおり、

手首には薄紫色の手ごろな値段で買えそうなブレスレットをしています。

耳にも紫色と白の碁盤縞の四角い大きなイヤリング。

足元は緑色のパンプス。

肩にかけているのは大輪の黄色い花々を一面にあしらったビニール製の大きなトートバックです。

 

華やかで派手ともいえる装いですが、不思議にしっくりきて品よく可愛らしい。

何がどうというわけではないけれど、思わず寄っていって、

その雰囲気の恩恵にあずかりたいと思わせる姿でした。

 

「あのー、三津田冨左子さんでいらっしゃいますか?」

寄ってきて声をかけたのは朝日新聞記者のNさんでした。

 

老女と待ち合わせをしたのはNさんで、じつは取材を申し込んだのです。

『あなたが選ぶ この人を読みたい』という取材記事のシリーズが

朝日新聞で連載されていて、そこにフサコさんを取り上げることになったからです。

 

フサコさんの生きがいは新聞への投稿。

すでに何十年とつづけているのですが、

フサコさんの投稿を楽しみにしているファンの人たちがいたのです。

ある女性は、フサコさんの投稿の気に入ったものを切り抜き、

スクラップに貼りつけていました。

そして、朝日新聞の読み物シリーズの担当者に、

「この人、三津田冨左子さんについて読みたい! お元気かしら」

と手紙を書いたのが、そもそものキッカケでした。

 

たしかにその女性のあげている、新聞に掲載された投書の数々は、

おやっと興味をそそられるものばかり。

いくつかタイトルをあげてみると、こんなふう。

 

「老婚はイヤ」

「私の葬儀は祭壇なしよ」

「一人暮らしは最高に楽しい」

「孤独でものんきです」

「『最終は自然死』が大道」

「独居八十歳 古典に挑む」

 

どんな女性だろう…。

編集会議で「次はこの三津田冨左子という年配の女性でいこう、面白そうじゃないか」

という話になりました。そして、Nさんが担当になったのです。

 

フサコさん87歳の冬。

「明日はどんな楽しいことがあるだろう」と、

ひとり暮らしを腐ることなく強気で生きてきた人生の次のページが、

ゆっくりとめくられました。

 

これから物語るのは、フサコさんが大正元年から平成にかけての100年の人生を、

いかに果敢に生きたか、というお話。

“勇気”という言葉が似合いそうな「潔さ」と、

フサコさんがたくさん見つけた楽しみの物語。

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