サラ☆の物語な毎日とハル文庫

トム・ソーヤーはこんな男の子、そしてこんな物語

『トム・ソーヤーの冒険』の物語の初っ端で、トムは戸棚のジャムを盗み食いしていた。ポリーおばさんにつかまり、あわやムチ打たれる場面で、「あれぇ! おばさん、うしろをごらん!」とトムのひと声。おばさんが振り向いた瞬間にトムは逃げ出し、高い板塀を乗り越えて消えてしまう。

ポリーおばさんは、ちょっとの間あっけにとられていたが笑い出す。

トムはポリーおばさんの亡くなった妹の子ども。

トムは腹違いの弟のシッドともに、ポリーおばさんに育ててもらっている。

いとこのメアリーもいるが、これはきっとポリーおばさんの娘なのだろう。(そういう具体的な説明はない)

 

トムが学校をずる休みして泳ぎにいったことが、ポリーおばさんに知られた。トムはまたまた怒られる前に逃げ出した。

ばれたのは、弟のシッドが余計なことを言いつけたからだ。トムがどんなにシッドに腹をたてことか。

 

しかし、逃げ出して2分もたつと、新しい興味に心を奪われ、怒られたことなどすっかり忘れてしまう。

新しい興味とは黒人に教えてもらったばかりの、めずらしい口笛の吹き方。何度もくり返し練習してコツを飲み込み、吹けるようになると、「新しい星を発見した天文学者」にも似た喜びを味わう。

「いや、その愉快さの強く、深く、まじりけのない点からいえば、きっとこの少年のほうが天文学者にまさっていただろう」と作者のマーク・トウェインは言う。

 

学校をずる休みした罰に、長さ30ヤード、高さ9フィートという高い塀を白いペンキで塗るよう、ポリーおばさんから言われたトム。

こんなときのトムは「人生は味気なく、生きるということは、まるで重荷のよう」に思うのだった。

手持ちのビー玉やガラクタで友だちを買収し、仕事をとりかえっこしてもらえるかもしれない。しかし、それで確保できるのは、30分ぐらいのものだろう。

「ところがこの暗い絶望的な瞬間に、すばらしい思いつきが心に浮かんだ」のだ!

トムは塀の前を通りかかった多くの友だちから、少年ならではの数々の宝物をせしめ(ビー玉、色眼鏡のかわりに使う青いビンのかけら、チョークのかけら、何も開けられない鍵、おたまじゃくしを2匹……ほかにもいろいろ)、その代わりに最高に面白い“ペンキ塗り”という遊びを交替で“やらせて”あげたのである。

この部分は、行動経済学者たちが眉毛を跳ね上げて夢中になる部分だ。

マーク・トウェインは言っている。

「トムは知らずに、人間の行動の大きな法則を発見したのだ。──それは、おとなにも、子どもにでも、何かほしがらせようと思えば、その物を、なかなか手に入らないようにすればよい、ということだった。もしもトムがこの本の著者のように、偉大にして聡明な哲学者であったなら(自分で言ってる…)、トムはいま『仕事』というものは、人間がしなければならないからすることであり、あそびというものは、しなくてもよいのにすることだということを、十分にさとっただろう」

 

ポリーおばさんは、トムが塀塗りですばらしい仕事をやってのけたので、褒美に納戸から上等のリンゴを選び出して、トムにやった。

ところがトムは、おばさんが褒美についての説教をする間にドーナッツをくすねる。それから家をとび出すとき、弟のシッドが外の階段を上っているのを見つけ、泥のつぶてを何発もシッドにぶつける。

学校をずる休みして泳ぎにいったとき、余計なことをおばさんに言いつけてバラしたことへの仕返しである。

ポリーおばさんの家にはちゃんと木戸があるのだが、たいがいの場合、トムはいそがしいので木戸を利用する暇がない。塀を乗り越えるのみ。

 

村の広場にはふたつの軍団に別れた少年たちが戦争をするために集まっていた。

いっぽうの大将はトムで、もういっぽうの大将はトムの親友のジョー・ハーパー。

二人の少年は高いところにいっしょに座り、副官を通じて、作戦を指揮した。

「トムの軍隊は、長い、はげしい戦闘ののち、大勝利を博した。それから、戦死者の数が数えられ、捕虜の交換がおこなわれ、次のいくさの条件についての話がうまくまとまり、避けがたい戦争の日どりが決められて、それから、軍隊は縦隊をつくって退去した」

 

トムはジェフ・サッチャーの家に新しくやってきたベッキー・サッチャーに。夢中になった。

まだ見たこともない女の子。

「青い目をして、黄色い髪の毛を、二本の長いあみさげにしている、かわいい子で、白い夏服を着、ししゅうのついたパンタレットをはいていた」

(パンタレットというのは、スカートの下までのぞくような、きれいな飾りのついたパンツのこと。)

トムは何ヶ月というものエミーという女の子にアタックし、一週間前にやっとエミーの心を得たばかり。以来「世界でいちばん幸福で得意な少年だった」というのに、ベッキーを見た瞬間に、エミーのことはすっかり心から消えていた。

そこでトムはベッキーに対して、少年らしい「見せびらかし」を繰り広げる。男の子が女の子にボーッとなるのは、どこの国でも同じだろう。

 

トムの容姿については、短い巻き毛ということしかわからない。髪の色、目の色の描写もないのはちょっと残念。

 

さてさて、40ページほどの間に、ここに紹介したような、てんこ盛りのトムのエピソード。

それから、それから……。

エピソードは怒涛のごとくつづく。笑ったり、泣いたり、共感したり…。  

 

この後だ。ますますヒートアップするのは。

墓場での殺人事件

トムの家出と本人の葬式の真っ最中の帰還

ベッキーの身代わりに罰を受けることをかって出るトムの義侠心

トムの証言によって、マフ・ポッターの命が救われる

トレジャー・ハンター

ハックがダグラス未亡人を救う

トムとベッキーが鍾乳洞で迷子になる。出口が見つからない恐怖    

恐ろしいインディアン・ジョーが洞窟に閉じ込められ餓死

トムとハック、莫大な金貨を手に入れる

 

めまぐるしく展開する事件、そして事件。

こんな面白い物語はめったにない。

 

ほんとにお久しぶりで読んだので、また面白さを満喫できた。とても幸せである。

<引用は『トム・ソーヤーの冒険』(石井桃子訳/岩波少年文庫)より>

  

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