明海大学大学院応用言語学研究科

Meikai Graduate School of Applied Linguistics

浦安キャンパス公開講座 参会記 その2

2013年10月22日 | 学会、セミナー、講座の参会記

 まず鳥飼玖美子先生は、通訳者はどのようなものであるべきかという論点をめぐり、話を進められました。言語間の違いもあり、通訳者は必然的に自分の解釈を入れてから通訳しないといけないが、一つでもずれてしまうととんでもない誤解を招く可能性をまざまざと感じさせられました。そのような重大な責任の中、通訳者の唯一の救いは指針を示してくれる理論だということも鳥飼先生の実践経験の音の響きわたる声を通して身に沁みて感じました。

 

 次に松岡ハリス佑子先生は翻訳者の職業の金銭的な面や、文芸翻訳における難点を取り上げて話を進められました。文芸翻訳家になるためにはまず商売を視野に入れないといくら高質な翻訳をしたとしても何の意味もないと、ご自分の経験について語ってくださいました。やはり夢は大事ですが、それを叶うための現実的な計画も必要だということは、大学院生である私にとっては多いに胸に訴えるメッセージでした。

 

 また、松岡先生本人が『ハリー・ポッター』の翻訳において様々な努力をなさったことが伺えました。英語母語話者の知り合いにチェックをしてもらったり、世界の『ハリー・ポッター』の翻訳者の組合に参加したり、非協力的な著作者本人にも連絡を取ったりなさり、とにかく誤訳のないように手を尽くされた話も語ってくださいました。そのように念には念を入れなければ決して『ハリー・ポッター』のような、読者に愛読される翻訳は生まれないだろうと感じました。小説や対話特有の翻訳の難しさは半端な気持ちで乗り越えることができないこともはっきりと伝わりました。

 

 最後のパネルディスカッションでは通訳・翻訳と理論の総合作用をテーマに聴講者から質問を募り、四人の名教授を軸に議論を進められました。時間制限もあり、二つの質問だけになりましたが、その時に聴講者は誰しも何か訊ねたいことがあるような空気が漂っていました。私は文芸翻訳において、自然な訳をするために原作にないものを入れなければならない時にどういう基準(理論?)を頼って決断をしていくのか、お伺いしたかったです。例えば日本語では小説などの登場人物の「性」を描写する上で会話の中の敬語が大変重要だと思いますが、登場人物を変えずに、もともと英語だった会話にどのように敬語を入れていくのでしょうか。また、恐れ多いことではありますが、先生方は今までどのような失敗を経験してこられたか事例話も伺いたかったです。

 

 自分にとってはもっともっと積極的に質問をしなければと思えるような、大変刺激的な講座でした。講演してくださった鳥飼先生、松岡先生を始め、講演の関係者の皆さん、大変貴重な機会をどうもありがとうございました。【Joe Tabolt M1】



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