明海大学大学院応用言語学研究科

Meikai Graduate School of Applied Linguistics

「ぶった」から考えたこと

2013年08月11日 | 日本語


 一昨日のことです。床に落ちた箸を拾おうとした妻が目測を誤り、額を食卓にぶつけてしまいました。そして昨日、妻が「昨日ぶったところがまだ痛い」と言いました。私はしばらく考え、「ぶった?」と妻に言いました。
 標準語では、「ぶった」は、「ぶつ」の連用形に過去を表す助動詞「た」が付いたものと考えます。「ぶつ」とは、「なんで私をぶつのよ!」などのように、一般的には「叩く」という意味で用いられています。少なくとも、私は妻が言った「ぶった」をそう解釈しました。その事を妻に言うと、「新潟(妻の故郷)では『ぶつけた』ことを『ぶった』というよ」という答えが返ってきました。他にも促音が入る例として「寝た」を「寝った」、「落ちた」を「落った」と言うそうです。少々気になったので、googleで「促音便 方言 新潟」で調べてみると、こちら(PDF)がヒットしました。
 単純に方言の面白さを感じることは、それはそれで問題ありません。しかし、例えば災害時や負傷時などで、手当が必要なときに、方言を理解するということは適切な処置をするために絶対必要になります。昨年、国立国語研究所が「東北方言オノマトペ(擬音語、擬態語)用例集」というのを作製しています。こちらを作製した非常勤研究員、竹田晃子(こうこ)さんによると、用例集作製のきっかけは、3.11の被災地の様子を伝えるテレビのニュース番組内で、「おれ、いづ死ぬがど思ってだ」という方言がテレビのテロップにて「おれ、いつ死ぬかと思ってた」と映されていたことだそうです。しかし、実際には「おれ、いつ死のうかと思っている」という自殺をほのめかすものだそうです(こちらに記事があります)。
 このような方言の研究は早急に成されるべきでしょう。【大塚孝一 M1】


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2 コメント

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Unknown (Joe)
2013-08-11 11:45:51
研究ももちろん必要ですけど、こういった問題の核心は方言の研究そのものよりその応用法ではないかと思います。方言は星の数ほどあるので手当てを行う人に全てを理解させることは非現実的ですよね…
そこで、患者さんが来るときに地方毎の方言によるよくある勘違いの表かなんかをざっと参照できれば役立つかなと思ったりします。実際どんな手段を取っているでしょうかね。
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Unknown (大塚孝一)
2013-08-22 22:00:45
Joeさんの言うとおりです。集めたデータをどれだけ現場に応用できるかが勝負なのではないでしょうか。
水谷先生のご講義にいらっしゃる日本語の先生方にお伺いしてみるのも一つの術ですね。
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