背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

クリスマス大作戦 【17】

2008年12月12日 16時21分43秒 | 【別冊図書館戦争Ⅰ】以降

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ここ、休憩室にはカーテンがないため、外の様子が窓から見える。
雨混じりになってきたという手塚の言葉どおり、雪はぼたっぼたっと重たげな音を立てて建物に降りかかる。樋から軒先からもひっきりなしに雫が滴る。
気温が上がってきた証拠だ。この調子なら、始発は動きそうだなと手塚は表を見ながら呟く。
マッサージをしてもらった後、手塚に靴下まで履かせてもらった柴崎は、ローテーブルを挟んだ向い側のソファに座っていた。
毛布に包まり、膝を抱えながら。
「寝ろよ。もうじき12時だ」
手塚が言った。彼の腕時計はオメガだ。制服と、私服のとき。
特殊部隊の訓練のときや、戦闘服のときのことは、柴崎は知らない。腕時計をするのかさえも。
「疲れただろ、披露宴もあったし、あちこち歩き回って」
「それはあんたも同じでしょ」
「俺は、……男だから」
体力がそもそも違うだろ、と言葉を濁す。
詰まったのは、この状況でことさら柴崎に男を意識させることはないかもしれないと躊躇われたからだ。
「悪かったわ。迎えに来てくれなんてあたしが言ったばっかりに」
柴崎は手塚が買ってくれた靴下の先を、左右こすり合わせるようにして膝を抱えなおした。幸い、しもやけにはなっていなかったようだ。
「そもそもお願いしなかったら、こんなことにはならなかったのよね」
「何言ってんだ。俺が言い出したんだろ」
気を悪くした風に、手塚が眉を寄せた。
「俺が好きで迎えに行きたくて行ったんだから、お前がそんな風に言うことはないんだよ」
「……それでもよ」
かすかに柴崎は微笑う。
「数合わせの披露宴なんか、やっぱし行くものじゃないわ。今回学習した」
「……何かあったのか」
手塚の顔が曇る。柴崎はううん、と首を振って話を逸らした。
「それにしても、いい人で助かったわね、店長さん」
それ以上、その話題には触れてほしくないというサインだった。気がかりだったが、手塚は受け止めた。
「ああ。店にいてくれて助かった。遅番じゃなかったら、アウトだったな。完全に」
「いつからの知り合いなの? 熊谷さんだっけ」
「もう4、5年前になるかな。巡回で立ち寄って、顔見知りになった。知ってるか?あのひと、特殊部隊では伝説の書店員と呼ばれているんだぜ」
柴崎の鼻の付け根に皺がかすかに寄った。情報屋の自分が入手していないカードを手塚が持っているということが不満らしい。
「伝説の書店員って?」
少しだけ優越感を持ちながら手塚は言った。
「今よりもっと若い頃、それこそ俺もお前も勤め始める前な。検閲に店に来た良化隊と揉めて、一対複数で喧嘩してしょっ引かれたんだと」
「うそ!」
柴崎は目を瞠った。
ほんと、くすくすと手塚は笑う。
「俺も人づてに聞いたことだけど。とにかくそういうすごい輝かしい経歴の持ち主なんだそうだ。その一件以来、【真誠堂の暴れ熊】としてカリスマ化し、一部の書店員から熱狂的な支持を受けていると言う」
柴崎も笑った。
「それは少し都市伝説化してるっぽいけど。……確かに、すごいわ」
「口が悪いのが玉に瑕だけど、頼りになる人だよ」
声のトーンが落とされる。
彼は事務室に引き上げた。布団があるとは思えなかったが、今頃高いびきを豪快にかいていることだろう。
「口に関しては、あたしはとやかく言えないから」
柴崎は毛布の下、少しだけ肩をすくめる。
「店長さん、言ってた。あんたが買い物に行ってくれてる間。まさか今夜自分のとこに電話がかかってくるとは思わなかったって」
「藁にもすがる思いだったからなー……って、俺の話をしてたのか」
「だってあんたしか共通点がないんだもん」
「変なこと、話さなかっただろうな」
手塚が窺う。柴崎がけろりと返す。
「別に何も? あんたが無粋だってことぐらいしかしてないわよ」
「無粋?」
手塚の身体がソファの上揺らいだ。
「何でそんな単語が出て来るんだよ」
「さあ? 自分の胸に手を当てて考えてみればいいわ」
無粋という言葉が今夜の行動のどこに当てはまるか手塚は考えた。……心当たりが多すぎる。絞りきれないまま、
「……ほんとはさ、俺の家に連れてこうかとも思ったんだけど。距離がな」
自分なりに推理して、そう言った。言い訳じみてるかと思いつつ。
「遠いの?」
「都内なんだけど、ここからだと寮と同じくらいかかるんだよ」
やっぱしチェーンを履いてでも、親父から車借りればよかったかな。
今更のようにそんなことを思う。
でも実は、手塚はこの突発的なお泊りの状況をさほど苦には感じていない。というか、むしろ彼にとっては嬉しい非常事態だった。
理由は何であれ柴崎と一夜をともに過ごせるのだから。
でもそんな彼の内心には全く気づかぬ様子で、柴崎は言う。
「ふうん。行ってみたくないこともないけど、こんな時間にいきなりあたしが押しかけたら、お父さんたち目を剥いてたわね。きっと」
「お袋は喜んだかも」
え?
ふと呟いた手塚の顔を柴崎は凝視する。
言葉が足りなかったと手塚は慌てて言い足した。
「いや、女親ってすごいのな。お前に見立ててもらったストール、先週渡しに行ったんだよ。クリスマスに行けないから。
で、中を開けただろ、すごい喜んでくれて。首に巻いたり肩に巻いたりして鏡見て。若いときみたいに」
嬉しそうに話す手塚を見て、柴崎も嬉しくなる。
「そう、よかったわ」
「そしたらさ、ふと真顔に返って言うんだ。光、どなたに選んでもらったの? 女のひとが一緒だったんでしょ? ってさ。びっくりしたよ」
柴崎は声を上げて笑った。
「さすがは母上ね。息子のこと、分かってらっしゃる」
確かに、手塚ならこういうものは選ばないだろうな、という独特の色合いのストールだった。箱に包んでもらったときのことを思い出しながらからかった。
「裏を返せば、あんたがこれまでお母さんにどういうクリスマスプレゼントを贈っていたのか、ばれちゃう台詞だわねー」
「うるさい。女物なんか、贈り慣れてないんだよ」
あら、と柴崎は突っ込みたかったが、黙っていた。
あたしにはあんなに素敵にこのピアス贈ってくれたのに?
「とにかく、お礼がしたい。一度家に連れて来いとか言い始めてさ、参ったよ」
よっぽど気に入ったんだな、あのストール。手塚は言った。
「ありがとな」
「……とっさに俺が選んだんだよ、とか言って切り抜けようとかしないところが、あんたらしいわ」
「俺は嘘が上手くないから。兄貴みたいに」
慧の事を持ち出すと、少しだけ顔が怖くなる。
たぶん本人も自覚してる。そう思いながら柴崎は訊いた。
「まだ連絡、してないの」
「……」
手塚は答えない。
意固地だわねえ。柴崎は吐息を漏らした。
「認めるところは認めてあげてもいいんじゃないかとあたしは思うけど。なんだか気の毒」
「そう簡単にはいかない。こじれ具合にも年季が入ってるんだ」
急に頑なな口調になる。
やれやれ。そう思った瞬間に、柴崎の携帯が鳴った。
ソファの上に置いておいたバックの中から。メールの着信音。
誰かしら、と言って手を伸ばす。
笠原かな、それとも寮監? 
二次会に行ったメンバーの中にも、アドレス交換した子はいたけど。
何気なく開いたフラップ。画面に名前を見た柴崎は、二度、大きく瞬きをした。
そして、上目遣いに正面に座る手塚を見た。
「な、なんだよ」
意味ありげな視線に、手塚がたじろぐ。
柴崎は嫣然と微笑んだ。毛布に包まっている雪んこ状態とはいえ、全く美しさは損なわれることはない。
「噂をすればなんとやら。誰からのメールだと思う?」
手塚は反射で腰を浮かせた。
「クソ兄貴。あいつまだお前にメールとか寄越してるのか」
柴崎は笑ってボタンを操作し、メールの本文を呼び出した。下へとスクロールしていきながら、
「たまによ。そんなおっかない顔しなくても――」
文面を追っている途中、言葉が途切れる。
手塚はローテーブルを回りこんで、柴崎のソファに近づいた。
「なんて書いて寄越したんだ。見せてみろ」
「だめよ。あたし宛だもん」
とっさに柴崎は携帯を両手で隠す。
あやしい。
「どうせろくなこと書いてないんだろ」
貸してみろよ、と右手を突き出した。
「だめってば。あんた、血圧上がっちゃうから」
柴崎は腕で囲って必死の防戦。笑いながら、手塚の手のひらを避けた。
「余計気になるだろ」
「大丈夫、あんたの不利益になるようなことは一切書いてないから」
そう言われ、絶対不利益になることを書いてるのを確信する手塚。
むきになった。
「見せてみろって」
「あ、」
ソファの上、もみ合った弾みでどさりと柴崎が後ろに倒れて。
手塚が彼女の上に覆いかぶさるように両腕をついた。
仰向けになったせいで、柴崎が被っていた毛布の前が肌蹴て、ドレスの裾が乱れ――。
間近で目が合う。
柴崎の黒目がちな瞳と。
あれ?
手塚が動揺するのと同時に彼女の手から携帯が床に落ちた。

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6 コメント

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おっと危ない (たくねこ)
2008-12-12 06:37:59
携帯の攻防戦、その後を妄想して、挙げ句に暴走してしまいました…スミマセン(T-T) じっと大人しく明日を待ちます…
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レス遅くなってすいません(^^; ()
2008-12-12 11:00:15
>たくねこさん
鼻血はだいじょうぶだったでしょうか。。。汗
いつもいいとこで引っ張ってすいません~
別所では私,寸止めの女で通っておるもので。汗
自分でも,こんなベタな展開,書いていてこっ恥ずかしいのですが(攻防の後,なだれ込み,寝押し?)クリスマスだし!年末だし! ベタかなり好きだし!と言い訳しながら書いてます。。。
返信する
鼻血は… (たくねこ)
2008-12-12 12:45:13
明日以降の展開でとまるか、さらに吹き出るか…
クリスマスまで、ど~~んと引っ張っちゃってください!(それはないか…)
返信する
はじめまして (架夜)
2008-12-13 03:08:27
最近、別冊Ⅱを読み速攻手塚と柴崎にハマり小説を探しましたらこちらにたどり着きました。こちらを見つけられて嬉しさいっぱいです。中々手塚・柴崎のお話は見つからなかったので…お話の世界観も素敵です。これからの更新楽しみしています。
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ありがとうございます☆ ()
2008-12-13 04:57:45
それではお言葉に甘えて、引っ張らせていただきますv(嘘ですすいません)>たくねこさん

>架夜さん

はじめまして。
ご丁寧な挨拶、いたみいります。ここは手柴一辺倒な、手柴好きのための偏ったサイトですので、図書館の二次ものにおいて辺境みたいなところだと思います。それなのに、わざわざお越しくださり有難うございました。お会いできてとても嬉しいです。
世界観……のようなものがあるかな? あるなら最高に幸せです。これからもよろしくお願いします。

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パラダイスです (たくねこ)
2008-12-13 10:07:11
手柴スキーにとってはパラダイスですよ(^o^)
私のオアシスです!
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