その女性は若(わか)くして亡(な)くなった。まだ幼(おさな)い子供(こども)もいるし、夫(おっと)だけでは心配(しんぱい)だ。だから、彼女はこの世(よ)にしばらく留(とど)まることにした。
夫が仕事(しごと)の時は、祖父母(そふぼ)が子供の面倒(めんどう)を見てくれた。でも、ぐずったりしているときは、彼女の出番(でばん)だ。子供の横(よこ)に寝(ね)そべって、子守唄(こもりうた)を優(やさ)しくささやく。子供は彼女のことが見えているのか、すぐに笑顔(えがお)を見せてくれた。
夫が迎(むか)えに来ると、子供と一緒(いっしょ)にお家に帰る。
「彼ったら家事(かじ)は苦手(にがて)なの。でも、料理本とにらめっこしているところを見ていると、その努力(どりょく)は認(みと)めてあげなくちゃね」彼女は夫を見つめながら呟(つぶや)いた。でも…、
「あら、ちょっと火が強すぎるわ」彼女はこっそりと火の調整(ちょうせい)をしてあげる。
「ちょっと、そんなに入れたら辛(から)くなっちゃうよ」夫が持つ醤油瓶(しょうゆびん)のお尻(しり)を押(お)し下げる。
夫は不器用(ぶきよう)ながら、よく子供の面倒(めんどう)を見てくれた。
「さすが、私が見込(みこ)んだだけはあるわ」彼女はほくそ笑(え)んだ。
「でも、ちょっと無理(むり)してるわよ。私は、あなたの身体(からだ)が心配よ」
彼女は、人知れず家族(かぞく)のために働(はたら)いていた。生きているときのようにはいかないけど、それでも家族のためにここにいる。彼女は思った。
「これじゃ、まだまだ天国(てんごく)には行けそうにないわ。いつまでいられるか分からないけど、もう少しだけそばにいさせてもらいます」
<つぶやき>思い残(のこ)していることは生きてるうちに。後悔(こうかい)の無(な)い人生(じんせい)を送りたいものです。
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