陽射しがまぶしい休日の朝、寝ぼけ眼をこすりながら夫のミキオが起きてくるなり「ケイコさん、きょうは枕を買いに行こう。」と言い出した。「今の枕はなんだかよく眠れないんだ」と、彼は大きなあくびをしながらコーヒーをすすった。
ケイコは「掃除機かけていてもねているくせに・・でも、ついでに私も欲しかったブラウスを買って、美味しいケーキもおねだりしよう」と内心ほくそ笑んだ。
寝具店であれこれ試してミキオはようやく気に入りの枕を決めると、白髪の店主が「これは幸福の木、いつまでもお幸せにね。」と枕と一緒に小さな苗を渡してくれた。
家へ帰ってお茶を飲みながらコップの水に差した幸福の木を眺めているうちに、ケイコはだんだん不安になってきた。「もしこの木が枯れたら、幸福も枯れてしまうのかしら」ふとつぶやくと、ミキオは「相変わらず君は心配性だねえ。もし木が枯れたら、我々に降りかかったかもしれない不幸の身代わりになってくれたと思って、近くの公園にでも埋めてあげればいいのさ。もし根が少しでも生きていれば再生するかもしれないよ。」と言ってのんきに笑っている。ケイコは少し安心した。
そして一月ほどたつと、植木鉢から細い竹がひときわ高く伸びていた。それはあの「幸福の木」だ。「なんだ。あれはただの竹だったんだ。」がっかりと肩を落とすケイコにミキオは言った。「知ってるかい?どこだか忘れたけれど何でも北欧の言葉で「ケイコ」というのは「幸せ者」という意味らしいよ。幸せ者が育てればどんな木だって「幸福の木」さ。それより腹が減らないか?」その言葉が終わらないうちにケイコのお腹の虫も鳴り、2人は大笑いした。今夜のディナーには幸福の木も招待することに決め、ケイコは鉢植えをテーブルに運んだ。細い葉っぱが頬をくすぐり「ありがとう」と言っているようだった。
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