豚カツを世に送り出した料理人に、呑気に感謝しながら店を出る私達。
今回の投稿は、その場面から少し遡りたい。
その日の朝、
『おちょやん』の1週間分の振り返りを見ていると、
「小郡にコウノトリが来てるんだって。」
「え、コウノトリが!」
新聞によると、隣町の小郡市の溜池に、コウノトリ数羽が、羽を休めているのが確認出来たと言う。
勿論コウノトリが、その池に定着している訳ではない。
余程の強運でなければ、行ってみても、見る事は出来ないだろう。
だが、そこはほれ、
なんてったって、全日本暇人協会久留米支部長の私である。(←無論嘘だ)
時間は有り余っているのだ。
空振り覚悟で行ってみた。
到着してみると、既に数人が超望遠レンズを構えていた。
案の定、コウノトリなど影も形もない。
「ヘラサギとクロツラヘラサギです。希少な種ですよ。」
野鳥に詳しそうなオジサンが、同行者に説明しているのが聞こえてきた。
その他、ダイサギやアオサギなどの数種の鷺と、鴨や鵜が仲良く暮らしていた。
暫く、コウノトリがやって来るのを待ってはいたが、
「諦めるか。行きたい所もあるし。」
行きたい所とはここである。
旧松崎宿旅籠油屋。
時代劇では、旅人はこの框に腰掛けて、女中が差しだすたらいの水で、足の汚れを拭くんだよな。
職員の方が出てきた。
「先ずは検温を。」
その後は掛かりっきりで、建物の歴史や構造を懇切丁寧に説明してくれる。
「上をご覧ください。頭を打たない様に、階段の真上の梁が削られてますでしょ。」
「本当だ。」
客が宿泊するのは2階だ。
「この床の穴は、ここからお膳を引き上げたりしたのでは、と考えられてます。」
「なるほど。」
「こちらは一般庶民用客室です。」
「ははあ。映画やテレビでは、部屋を更に衝立で仕切って、細かく区分けするんですよね。」
「こちらは、あの西郷さんが泊まったと伝えられている部屋で・・・」
一緒に連れてきた愛犬が、西郷どんを後追いして、階段を駆け上がったと言う伝承が残っているとの事。
隠し箱
蓋の内側は、脱着式の箱になっている。
学者の説では、密書などを隠す場所となっているらしいが、
「古い建物を解体復元してきた大工さんは、ただの塵箱と言ってます。」
「わたしゃ、大工さんに1万点入れます。」
濡縁。
下を走るのは、旧松崎街道である。
別棟に移動。
「ここは比較的身分が高い方が泊まる棟となっています。」
突然床板をはがし始めた係員。
「胎盤を入れる壺です。中には炭化した物が入ってます。」
「ひょえー!」
「この削って作った床柱のデザインは、筍と考えられています。」
「そう言われれば・・・」
「これは組子ではありません。段差は一枚の板を削って作ってます。」
「ははあ。」
「これ見て下さい。当時の大工が楽しみながら、仕事していたのが分かりますよね。」
「それもそうだけど・・・」
牙の長さから見ても、これはアフリカ象に違いない。
どうして片田舎の大工が、アフリカ象の姿かたちを正確に知っていたのだろう。
そっちの方が驚きである。
係りの方に勧められて、松崎宿を少し歩いてみた。
この煉瓦塀は、三井郡に初めて警察署が創設された時のものらしい。
桝形。
宿場町らしいクランクした道が何カ所もある。
北搆口。
番所跡である。
宿場には南北に番所があり、街道の往来を監視をしていた。
桜馬場。
江戸期初頭、久留米藩は、訳あってここ松崎に支藩を作る。
この馬場の先に、松崎藩の殿様の館があった。
現在は県立三井高校となっている。
「中々よかったな。ところで、腹減った。昼飯、どこかで食うぞ。 」
コウノトリの事など、どこへやらである。