粉雪舞い散る住宅街を私は歩いている。
私は外反母趾と言う、厄介な親指を持っている。
厄介ではあるが、その親指が痛むのは、長距離を歩いた時に限られている。
ところがつい最近、
歩いていない日に、突然、足を床に付けられない程の痛みに襲われた。
同じ事が2回続いた。
さすがに2度目は、行きつけの整形外科を訪ねた。
「ははあ。江島さん、偏平足が酷いですな。ぺったんこじゃないですか。」
「偏平足は子供の頃からで。」
「このぺったんこが、親指に余計な負担をかけてます。」
「へ?」
「ほら、これを見て下さい。歩く時に、ここがぺったんこだと・・・」
足の骨格見本を取り出して、偏平足と外反母趾の関係を説明する院長は、
問診の間、子供の頃からのコンプレックス、『ぺったんこ』を何度も繰り返す。
私は叱られた子供のように、下を向くしかない。
「そろそろ、装具を作ってもいいかもしれませんね。」
「そーぐ?」
装具と言えば、
義肢や歩行補助具など、たいそうな物を連想しがちだが、私の扁平足のための装具とは、
「靴の中敷きです。」
要するにインソウルである。
山靴などは、自分に合ったインソウルに変えているつもりだが、偏平足を意識したものでは無い。
作ってみる価値はありそうだ。
毎週水曜日、専門の業者がやって来る。
今日は、その型どりの日である。
業者が待機する部屋に案内された。
「江島さんですね。最初に足を見せてください。」
「あ、はい。」
「あらまあ、大した偏平足で。」
「知ってます。」
「この偏平足が外反母趾に悪影響を与え、余計に痛みを・・・」
「知ってます!!」
「この紙の上に足を置いてください。型どりをします。」
「こうでやんすか。」
おもむろにペンをとりだし、私の足の外周をなぞる装具屋さん。
「はい、終わりました。」
....って、
型どりって、それかよ!!
「お疲れ様でした。来週の水曜日に出来上がります。」
医師によると、私の外反母趾は軽微なものらしい。
だが、軽微でも、偏平足と言うターボチャージャーが装備されれば、話は別だ。
余計に親指に負担がかかり、痛みが倍増する。
その為、痛みを庇う変な歩き方になり、ひいては、慢性的な股関節痛に繋がっていく。
全ての根本は偏平足だったのだ。
なにはともあれ、出来上がりが楽しみである。