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小説・鉄槌のスナイパー3章・NOー(94)

2009-03-06 23:08:23 | 小説・鉄槌のスナイパー(第三章)
小説・鉄槌のスナイパー3章・NOー(94)

「うん、そうか。じゃああの六人はお前の親父の分まで被害者達に返していたのか。だったら供養にもなるから深入りしない程度にな」。
「はい、そうします。また詳しい事が分かったらお知らせします。くつろいでいる所を済みませんでした」。
京平はその電話で思っていた以上に真田貴明と言う男の優しさを感じていた。電話を切ると美保と腕を組んで歩きながら話していた。美保は足元を確かめるように一歩また一歩と歩いていた。
「そうだったの、そんな家庭だったの山下って人。それで真田さん親子の面倒を見るって言うの」。
「うん、何所まで見られるのか分からないけどね。真田の奴、自分の子供の頃の境遇と重なっているんだろう。悪い事じゃないから見守っていてやろう」。
「うん、私達は幸せね」。美保はギュッと京平の手を握った。
こうして二人はその日もゆっくり身体を休め、京都の春を満喫していた。
そして翌日、二人は両親が支度してくれた沢山の土産を下げて京都十一時十七分発、のぞみ15号に乗り込んだ。
父明雄は会社を半日休み、母もまた店を抜けて見送りに来ていた。
車窓には両親が張り付くように立ち、駅員に注意されていた。そして新幹線が走り出すまで手を降っていた。そんな両親の姿が見えなくなっても、いつまでもホームを見詰めている美保だった。

「なんか変ね、また直ぐに会えるのにお父さんったら」。そんな事をポロッと口にした美保の目にも涙が滲んでいた。
そして母から渡された手作りの特製弁当を開けると京平に渡し、二人で美味しそうにつついていた。
そして車内を見回して楽しそうなカップルがいると「夫婦かな、それとも恋人同士かな」と美保はクイズでもするかのように京平に聞いては遊んでいた
そんなこんなで午後一過ぎには東京へ着いた。
東京は小雨交じりの寒い風が二人を迎えた。
二人はタクシー乗り場に行くと大勢の客が並んでいた。すると、前から二人目のおじさんが美保を見ていた。

「おいで」と言うように手をかざすのだった。美保はそっと歩み寄った。
「先にどうぞ、寒いから身体を冷やすと赤ちゃんに悪いからね」。
「でも、それでは皆さんに申し訳ありませんから」。と美保は遠慮して答えると。「そうして貰いなさい」後ろから声を掛けられた。二人は言葉に甘えて礼を言うと、先頭の女性までが譲ってくれた。
京平は美保に傘を持たせるとタクシー待ちしている皆んなに向かって頭を下げた。「有り難うございます。甘えさせて頂ます」。
美保もまた何度も何度も頭を下げて礼を言うと入って来たタクシーに乗り込んだ。そして皆んなに頭を下げ、タクシーは走り出した。
「有り難うございます。どちらまでお送りししょう」。と、帽子から白髪交じりの髪が目立つ運転手だった。
運転手名を見ると望月康雄と書かれていた。
「貸しきりでお願いします。松本の先の白馬までお願いします」。
「えっ、はい。有り難うございます。私も出身は白馬なんです、奇遇ですね、お客さん白馬はどちらでしょう」。
「ええ、ペンション・ボンフルールって知っていますか」?
「はい、紺野良平さんのペンションですね。よ~く知っていますよ。ご旅行ですか」。

「えっ、知っているんですか。実家です、僕はその良平の息子と妻です。小父さん父をご存じなんですか」。
「そうでしたか。お父さんとは高校の同級生です。そうですか、息子さん。じゃあ京平さんですね」。
「はい、なんか驚きです。今日はついている、さっきもタクシーの順番を妻が妊娠しているからって譲って頂けました。今度は父と同級生のタクシーに乗れるなんて嬉しい日です」。
「ええ、まだ東京も捨てたもんじゃないですね。お父さんとは昔は良く遊びましたよ。そうだ、去年会った時は息子は静岡へ転勤になったと聞いたんですが、結婚されて家に入ったんですね」。
「はい。そうそう、改めて紹介します。妻の美保です。今日は妻の実家へ行って来た帰りなんです」。
美保は偶然の出会いに戸惑いながら頭を下げた。そして途中のLPスタンドに寄って燃料を充填して高速に入った。
取り留めのない話に車内は盛り上がり、高井戸から中央自動車道に入った。

「奥さんは京都ですね、どうも発音が京都らしい」。
「はい、左京区の田中です。やっぱり分かります?・・・」
「はい。左京区ですか、祇園が近くて情緒ある町です。私も十年前まではMM観光にいましたのでね。良く知っていますよ」。
「えっ、じゃあ下京区の堀川通り、父の会社の近くですね」。
「そうですか、奥さんのお父さんの会社は何と言う会社です」。
「はい、以前は立花精密機器でしたけど今は立花電子です」。
「ああ、知っていますよ。そうでしたか、立花電子の社長のお嬢さんでしたか。じゃあお嬢さんも私のタクシーに乗られていますよ、
私は立花社長のお抱え運転手のような物でしたから。お宅は田中の公園の前の洋風のお屋敷でしょう、あの頃はまだ小学生だったですかね。良くお茶のお稽古にタクシーで祇園へ行きましたよね」。
「え~っ、じゃああの八つ橋のおじさん!・・・そうですか?・・・」
「はい、その八ツ橋のおじさんです。そう、奇麗になって、京平さんと結婚されたんですか。世間は狭いですね」。

それは偶然としても余りにも偶然過ぎて美保も京平も鳥肌が立つ思いだった。そして運転手の望月もまた懐かしそうにルームミラーから美保の顔を時折眺めていた。
そして美保は望月が名瀬八ツ橋のおじさんなのか、その由来を京平に説明していた。
「おじさん、でも今はもう八ツ橋は卒業したわよ」。
「そうですか、好きで良く買ってあげましたよね。その食べっぷりがまた良くてね。買ってあげても気持ちが良かった」。
「まあっ小父さんったら。その節は本当にお世話になりました」。
「いいえ。所でお嬢さん、佐々木さんの事お気の毒でしたね、あんなに仲良くお茶を習っていたのに。まるで姉妹のようでした。私も東京に来ていましてね、ニュースを聞いて驚きましたよ」。
「うん、今日は主人と友世のお墓参りに行って報告してきたんです。結婚した事と赤ちゃんが出来たことを」。NO-94-30




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