おはようございます。
本日は、リュドミラ・ウリツカヤ『緑の天幕』の感想文です。
どうぞ、おつきあいくださいませ。
その前に・・・ちょこっと。
危惧していた、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が
始まってしまいました。
地下鉄構内へ避難し、恐怖に震える人たちの姿を見るのは辛いです。
地下鉄構内へ避難し、恐怖に震える人たちの姿を見るのは辛いです。
この小説を読んでいる間中、
武力行使が行われないようにと、ずっと祈っていたのに・・・
とにかく早く、穏やかな形での収束を願います。
とにかく早く、穏やかな形での収束を願います。
さて『緑の天幕』(新潮クレスト・ブックス)。
著者は、ロシアの人気作家にして、
ノーベル文学賞候補と目される、リュドミラ・ウリツカヤ。
1953年、スターリンの危篤から、ソ連崩壊後の1996年、
40余年に及ぶ、720頁の小説だ。
目の負担を考え、休み休み読んだせいもあるが、
時間がかかったのは、そのせいばかりではない。
登場人物が、とにかく多いのだ。
しかも、ロシア小説らしく、呼称が変わる・・・!
プロローグには三人の少女が登場・・・
ところが本編が始まると、彼女たちは、消えている。
代わりに現われるのが、イリヤ、ミーハ、サーニャという三人の少年。
彼らが、本書の主人公であり、
少女らが再び現われるのは、しばらくしてからのこと。
(三人の少年と少女が結婚するという、単純な関係図ではない)
三人の少年(大人になるけれど)は、
人生の中で、たくさんの人と関わり合う。
膨大な登場人物の数!
その中でも、科学的な実験やら理論やらに取り組む、研究者が目立つ。
当然、彼らが勤しむテーマについて語られる場面も多い。
遺伝学専攻の著者らしいのだけれど、文系人間は、この辺に苦戦w
それでも途中で止めようとは、一度も思わなかった!
(作中でも、愛唱される、国民的詩人「プーシキン」。
ゆかりの街プーシキンにエカテリーナ宮殿がある)
以前、東欧に惹かれ、ポーランド、バルト3国、旧ユーゴなどを
旅していたことがある。
そのとき、どこでも、現地のガイドさんが口を揃えていたのが、
「ナチスも怖かったけれど、ソ連は、もっと恐ろしかった」
ということ。
実際、街中に残る、ソ連時代の建物は、無機質で暗く、
威圧的だった。
「ソ連は、恐ろしい」
それは、当時の国内でも同じだったのだと、読んでいてよくわかった。
(たぶん、現代ロシア小説は、本作品が初めてなので、なおのこと。)
盗聴、密告、尋問、逮捕、ラーゲリ、獄死・・・など、
ミステリーめいた単語が身近にある日常。(決して口にはしてはならない)
その緊張感と不安は、いかばかりか・・・
作中に現われるのは、たいてい、反体制側の人間だ。
といって、英雄的な目的をもって、活動しているわけではない。
わたし自身や、身の回りにいるような、ときに劣等感に苛まれ、
ときに無意味な優越感に駆られるような、普通の人間だ。
彼らは気がついたら、当局からマークされていたという感じだろうか。
本小説は、そんな大勢の人々のエピソードも、
三人の人生と共に描かれる、
大小さまざまな連作短編集とも言えそうだ。
どれも心にしみる物語で、
実際、私が苦手な分野の物語も、上質の短編小説の趣だった。
720頁にわたる、連作短編小説のチカラ!?
そうそう、大事なこと。
どれだけ重い単語が登場しても、小説全体は、ユーモアにくるまれ、
意外にも、軽やか?に読み進めた気がする。
むろん、「これは耐えられない!」
・・・と、しばし呆然とする場面もあったのだけれど・・・
(・・・思い返してみたら、かなり、あった・・・)
おっと、既に、こんなに長くなっていた・・・!
本当は、一番、惹かれた人物について書くつもりだった。
一読した今の段階だけでは、この「大河小説」を語れそうもないし、
どこから語り出したら良いかもわからない、からだ。
どこから語り出したら良いかもわからない、からだ。
・・・ということで、惹かれた人物のご紹介。
まず、男性なら、若き隻腕の教師・シュンゲリ先生。
文学の力で、三人の少年を目覚めさせる。
理想に燃えた、教師だ。
(ハンサムな、女ったらしなんだけどね♥)
その生き様も注目。
ネタバレになってしまうので、詳しく書けないのが残念。
ただ、彼の年齢を重ねた姿には心痛む、
というくらいなら許されるだろうか。
女性は、なんといっても、アンナ!(ニュータ)
サーニャの祖母だが、彼女は、三人の少年の立派な仲間なのだ。
(年齢を重ねても、仲間になれることが、まず嬉しい!)
そして、お菓子や紅茶をふるまうだけでなく、
本を貸し、相談相手となって・・・
文字通り、少年達を満たしてやる。
貴族出身ゆえ、夫の逮捕、ラーゲリ送りの苦境を生き抜いた彼女。
ロシア語教師として、外国人にレッスンを続け、
実質的に孫の世話をしてきた多忙な女性だ。
(作中の、ほとんどの女性が働いているけれど)
出会いから二十余年後・・・
30代半ばのミーハは、彼女が並外れて美しい女性だと気づく。
(ミーハは、子どもの頃から、ずっと彼女と「両思い」なのだけれど)
「彼女は単に美しいという以上の存在だった。
皺のヴェール越しに、年の差の深い溝を越えて、
ミーハはアンナの顔が美しく輝くのを見てとった」 590頁
いいなぁ・・・こんな風に年を重ねられたら素敵だ。
それは、このような生活態度の表れかも・・・
「普段のアンナであれば、
紅茶は常に淹れ立てのものしか出さなかったし、
ほんの数時間前に淹れたものも容赦なく捨てていた」593頁
紅茶に限らず、彼女は文化や芸術に対しても、同じ姿勢を貫く、
厳しい社会体制にあってもなお、というところが、
年齢を重ねて輝く要因なのだろう。
実は、アタクシ、浅はかにも、アンナに惹かれるあまり、
ただいま、ロシアンティーへの憧れを募るばかりという・・・w
(表紙もサモアールの紅茶セットが描かれて♫)
・・・と書きながら、いや、やっぱりオーリャだな、
サーニャも、ミーハも忘れがたいと、
次々に登場人物が浮かんできています。
そんな魅力的な人々が「ソ連」にいた・・・
今「ソ連」ならぬ「ロシア」は戦争を選んでしまった・・・
でも、ほとんどの国民が、戦争を望んでいるはずはありません。
まとまらないまま、『緑の天幕』の感想文をアップしたのは、
そのことを信じたいからです。
とにかく、ウクライナの人たちが、これ以上苦しみませんように。
既に平和を脅かされた国や地域が多々あって、解決していないのに・・・
もう、これ以上は・・・やめて!
STOP WAR!
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📷2014年5月、ロシア、プーシキン市のエカテリーナ宮殿で撮影しました。
おつきあいいただき、どうもありがとうございました。
ダラダラした内容ゆえ、いつも以上に感謝申し上げます。