火葬場の売店には。
色々なサイズとデザインの『骨壺』が売っていました。
焼かれた後の残った骨は。
まるでドライフラワーの様に乾いて見えて。
骨壺に入らない骨は。
係の人によって潰されます。
潰すと、不思議とあんなにあったはずの骨が、ちゃんと骨壷に収まります。
悲しいと言う気持ちよりは。
ただその光景を、不思議な気持ちで見ているだけでした。
元夫が亡くなったのは先月。
死亡診断を受けてから、4日後にはもうあの人は骨になりました。
生きているうちが花。
なんて言葉を、昭和に聞きましたが。
人は亡くなると、本当に呆気ないです。
魂の無い『ただの器』になった人間は、あっという間に小さくされてしまいます。
人の魂?心?は何処に行ってしまうのでしょう?
明後日。納骨に行きます。
私とご主人。そして子供たちだけの、静かな納骨です。
喪服も着ません。お経もありません。
何十万円も払っても。
本当にあの人が天国に行けたのかなんて、確認出来ませんから。
ただ…思いを込めて手を合わせて。
あの人の静かな眠りを願うだけです。
火葬の時。不思議に思いました。
火葬場には何組もの家族や親族が来ていて。
知らない所でも、何人も亡くなっている人はいるもので…
故人が焼かれてる間に、お寿司を食べてビールを飲んでいました。
すぐそこで。それまで生きていた人が焼かれているのに…
それが『お清め』なのだそうです。
何を清めるのか、私にはわかりませんでした。
うちは小さなお弁当のみだったので、清められなかったかもしれません。
火葬後の。
砕かれる骨の乾いた音は。
悲しみよりも。
ただ、どうして良いかわからない…
『死』とは違う、止まった時間を、残った人達に与えるようです。
ひとつだけ。
私はその時、使命をみつけました。
残った骨の中に。
たったひとつだけ。
『歯』がありました。
白い…奥歯?
係の人がつまみ上げて「綺麗に歯が残ってますね」と言った。
あの人。
歯をあんまり磨かなくて。
虫歯も多くて。
若い頃からタバコも吸ってたから、歯が茶色くて汚かった。
生きたあの人を最期に見た日。
あの人は『白い歯を見せて、ニッと笑った』と記事に書きました。
あの時の『白い歯』は入れ歯です。
抗がん剤で上の歯が全部抜けて、入れ歯だったのだそう。
入れ歯は棺に入れられると外されました。
なので。おそらく。
残ったのは、下の奥歯。
長年の不摂生と病気で、残った歯でさえも頑丈ではなかったはずです。
なのに……たったひとつだけ。
綺麗に、白く残った歯。
私には、あの人が残したメッセージに思えました。
私とあの人は、同じ歯医者さんに通っています。
先生も歯科助手さんたちも、素敵な人達で。
先生は。
歯医者さんなのに、まるでカウンセラーの様に、患者の話を聞いてくれる人で。
あの人の病気のことも知っていて。
月1にメンテナンスで通うだけの私と、あの人の話もしていました。
私が離婚して引っ越してからも、変わらず同じ歯医者さんに通い続けたのは、この日のため導きだったのかもしれません。
「先生たちに、ちゃんと伝えて」
そう言われた気がしました。
病気になってからのあの人の。
愚痴や不安を聞いてくれたのは。
多分、先生だったのだと思います。
2ヶ月近く前に取った、私の次の歯医者の予約は…ちょうど火葬の5日後で。
月1でメンテナンスに行っていたのに、その月だけは何故か間違って2ヶ月近くあいてしまっていたのに…
それが火葬の5日後なんて。
歯医者さんに行って。
あの人が亡くなったこと。
最期がどうだったか。
先生に話ました。
助手さんたちも、真剣な眼差しで、話を聞いてくれました。
お世話になりました。
と、私が頭を下げると、深く頭を下げてくださいました。
「大変な時に、よく来てくれましたね」と。
他にも患者さんがいたので。
帰りの会計の時、助手さんにあの『残った歯』の話をしました。
それが私へのメッセージだったこと。
そして、皆さんへの感謝だったこと。を。
その日初めて聞いた話では。
あの人は、先生が開業してすぐの患者さんだったらしく、私よりかなり長い付き合いだったそうです。
あの人に言いたいです。
私、ちゃんと伝えたよ。と。