あれはいつ頃だっただろう。
もう5~6年前になるだろうか。
私はある金融関係のことで、大きなトラブルに巻き込まれた。
そして同時期にリーマンショック後の不景気で職場をリストラされてしまった。
加えて、祥一郎と一緒に住んでいた部屋の大家と、雨漏りのする屋根修繕の件で揉めていて、住居をどうするか悩んでいた。
重なる時は重なるもので、どれひとつとっても大きな問題だった。
これだけ重なると、さすがに私も参ってしまい、酷い鬱症状が現れ出した。
心臓を鷲掴みにされているような感覚、腕が痺れ、何をする気力も無くなり、ときどき大声を出す、泣きわめく等のパニックを起こすようになった。
一日中部屋のソファーで横になり、まるでゾンビのような状態になってしまった。
やっと見つけた近所の心療内科で貰った薬は効かず、眠れないので酒をあおるようになる。
精神薬と酒の同時服用が良い結果を招くわけがない。
幻覚まで見るようになってしまった。
夜中に起き出して、壁から綿が出てくる幻覚を何度も見るようになり、その度に祥一郎が、
「おっちゃん、おっっちゃん、しっかりしい!なにもあらへんで!」
と言って私を我に返してくれた。
あの時、祥一郎が居てくれなかったら、自分は本当にどうなっていたか分からない。
祥一郎は、不安が酷いときずっと手を握ってくれた。
私がパニックを起こしている時、抱きしめてくれた。
その後、私に振りかかった災難は、各方面への相談や友人知人の助けも有って徐々に道筋が見え始め、未だ完全解決に至っていない問題もあるが、なんとか鬱状態からは脱した。
ちょうど今頃の季節だったと思う。
部屋に引きこもって茫然自失している私に、祥一郎が、
「おっちゃん、公園に大きな鯉が泳いでいるよ。」
とメールをよこした。
行ってみると、子供の日が近いからだろう、何匹もの大きな鯉のぼりが風にはためいていた。
少しでも私の気分を晴れさせようとしてくれたのだろう。
しばらく二人でその鯉のぼりを眺めて、気分を落ち着かせたものだ。
あの時、あの狭い部屋であんな状態の私に、よく祥一郎は耐えてくれたと思う。
一緒に暮らしている者にとっても、パートナーがそんな状態では普通で居られないだろう。
誰かが傍にいてくれる。
その有り難さを、あの時ほど感じた事はない。
今年もそんな季節になった。
祥一郎がよく日光浴をしていたあの公園に、また大きな鯉が泳いでいる。
祥一郎・・・・・・
ありがとう。あの時は本当にありがとう。
お前が居なかったらおっちゃんは、ひょっとしたらお前より先に逝ってしまった可能性だってあったよ。
二人は紛れも無く家族だった、支え合う関係だった、それをあらためて強く感じさせてくれたね。
あの鯉のぼりを見る度、毎年お前に感謝することになるよ。
祥一郎・・・・・・お前と出逢って、本当に良かった・・・・・・いつかまた逢えるよね。
絶対逢ってみせるよ・・・・・