住んでいるマンションの前に、まだ祥一郎の愛用していた自転車が置いて有る。
自転車置き場など設置されていないしょぼいマンションなので、私の自転車とともに雨ざらしになっている。だから傷むのも早い。
銀色のフレームの、もう誰も乗らなくなった自転車。
出勤、帰宅する度にじっとそこで誰か乗ってくれないかとばかりにそこに有る。ときにあいつが座っていたサドルを触って、切ない気持になる。
部屋の前をしょっちゅう廃品回収の車がうるさい音を立てて周ってくるが、とても処分する気にはならない。
そうだ、この自転車は一度盗難に遭っている。
確かスーパーで買い物をしているときに鍵をかけ忘れ、探しても見つからず、一応防犯登録はしてあったので盗難届を出したんだった。
それからは仕方なく購入した新しい私の自転車を二人で使い回していた。
数年経ったころだろうか、ある日警察から盗難車を回収したので、取りに来るようにとの連絡が有った。
保管場所は、赤羽から少々離れた埼玉県川口市。
いったいどこのどいつが盗んで行ったのだろう。
大阪ではしょっちゅう自転車を盗まれていた。まあそれが大阪の悪しき文化でもあるが。
でも東京では初めての経験だった。
せっかく見つかったのだからと思って、電車で現地まで行き、帰りはもうあちこち錆ついてボロついた自転車に乗って遠い部屋まで帰って来た。
傷んでいた箇所を修理してもらい、祥一郎専用にすることにした。
物には使っていた人の念が宿るという。
この自転車も何かの縁が有って、戻って来たのだろう。
それを無下に放っておくのもどうかという理由もあった。
元々祥一郎はあまり自転車に乗る奴では無かった。何処に行くにもテクテクと歩いて行く奴だった。健康のためもあったのだろう。
でも、ちょっとそこまで行くのに自転車で行く便利さに気付いて、それからは愛用していた。
以降、この小さな街で、二人が連れ立って自転車で駆ける姿が頻繁に現れることになる。
祥一郎は、公園に行くにも買い物に行くにも以前書いたフィットネスクラブに行くにも、何処に行くにもこの愛車に乗って駆けて行った。
元気に颯爽と短い脚を一生懸命漕いで、風を切って駆けて行った。
元気な頃の祥一郎・・。
そして・・・・・・・祥一郎亡き後、また誰も乗らなくなった自転車に戻ってしまった。
もう盗難から戻って来た時よりも傷んでいるだろう。
やはり物は使ってやらないと、どんどん風化していく。
前に設置しているカゴなどはもう錆でまっ茶色になっている。
(もう誰も、乗ってくれないの?)・・馬鹿な話かもしれないが、自転車がそう呟いているような気がする。
そうだ、この自転車をもう一度修理に出して、私の自転車とともに使い分けしよう。
カゴも新しいものに替えて、油を差して、錆びた鍵も替えて、散歩に行く時などに乗ろう。
新しい自転車を買った方が安くつくかもしれないが、そんなことは問題じゃない。
祥一郎の汗や匂いの痕跡があるこの自転車を復活させてやろう。ひょっとしたら祥一郎が後ろに乗って喜ぶかもしれない。(二人乗りしても警察には見えないね。)
そしてこの街をまた駆けて行くんだ。あの頃のように・・・・・・・・・
祥一郎・・・・・・一緒に夏の街を駆けて行こうね・・・・・・
元気・・・・・かどうかは微妙ですが、なんとか生きてます。
ブログ引っ越したので、また宜しくお願いします。
いけません
どうしたらいいのですか?