もうこんな季節だと言うのに、私の部屋には心を氷らせるような寒風が吹きすさぶ。
日が照って暖かいはずなのに、実際に肌で感じる温度も寒いのだ。
あまりに過酷で悲惨な悲しみに心が満たされていると、身体の反応までそれに引き摺られるのか。
だからまだストーブは欠かさない。
特に何も予定のない休日には昼間から暖を取っている。
祥一郎がひがな一日座っていたパソコン前の椅子の横、以前と同じ場所にあるストーブ。
いつもあいつがスイッチを入れたり消したりして温度調節をしていたストーブ。片付けられる日がくるだろうか。
真夏になってもひょっとして置いたままにするかもしれない。
あいつが天に召されたあの冬の初めの部屋の風景を、そのままにしておきたくて置いたままにするかもしれない。
そう、そのままがいいのかもしれない。
二人が使った食器類、調理器具。
下駄箱のあいつと私の靴。
あいつの服がかかったファンシーケース。今少しずつクリーニングに出して綺麗に吊ってある。
風呂にはあいつが使っていた垢すりタオルが、私のタオルと並んで干してある。もう使われることの無くなった垢すりタオル・・・・・
そして、眠りを貪っていたもうぼろぼろになったあいつの布団。いつも私の布団の隣にたたんで置いてある。晴れた日はときどき干して陽の光を浴びせている。
返すべき物は実家の父親に返してしまったけれど、この部屋に残ったあいつの痕跡、使った物はできるだけそのままにしておこうと思っている。
でも、少し変化した部屋の風景もある。
あいつが食事を取る時にいつも座っていた座イス。
去年の暮れ、祥一郎の体調が悪くなる前に新調した。以前のものはもう破れてボロボロになっていたから。
ソファーも同じ時期に新調した。私が居ないときはいつも以前のこれまた古びたソファーで昼寝をしていたが、もうあちこち破れて使うもの限界だったので新調したのだった。
でも・・・・でも・・・・・
殆どあいつはその座イスにゆっくり座ることも、新しいソファーで昼寝する事も無かった。
急激に体調が悪化し、布団で寝てばかりいたから。
新しい家具を置いて、新たな気分でふたりで年を越そうとしていたのに・・・・・・・・
いずれあいつの体調も持ち直し、またいつもの暮らしに戻ると信じて、新しい家具でちょっといい気分で新年を迎えて欲しかったのに・・・・・
新調した座イスに胡坐をかいて、私の作った料理を食べて欲しかった。
新しいソファーで、気持ち良さそうに昼寝をしているお前の姿が見たかった・・・
今はもう、見ることが不可能になってしまった、何気ない日常の部屋の風景。
こんなことに、こんな悲しいことになるのなら、新調などせずにそのままで置いておけばよかったといま後悔している。
お前の匂いや汗が滲みついて、汚れてボロボロになったままにしておけばよかった・・・・
祥一郎・・・・・
おっちゃんはその新しい座イスにもソファーにも殆ど座る事は無いよ。
たまに来客があったときに使うだけだ。
お前が一番長く過ごしたパソコンデスクの椅子・・・これももう古びてあちこち破れているけど、おっちゃんはお前に代わってそこで殆ど過ごしているよ。
「おっちゃん、そこどいて。うちがパソコン使うんやから。」
なんてもう言われることもないんだね。
嗚呼、お前が居なくなってしまって、おっちゃんたったひとりになった部屋にまた寒風が吹きこんでくる・・・・
さあストーブを点けようか・・・・・・・・あまりに孤独で寒いから・・・・・
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