『君戀しやと、呟けど。。。』

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『ともしび』第七章

2018-06-25 23:29:17 | 小説『ともしび』
第七章

 放課後、清夜(せいや)が携帯を見ると月斗(つきと)からメールが届いていた。不在着信もある。
 別に夕飯くらい一人で食べるけれどさ。
 それより自分のいないところで、みんな何を話してるのかなと思ったら気になった――。

 清夜は疎外感を覚える。自分は居候なのだと思う。
 最初に伯母さんから言われた言葉が伸し掛かる。
 あの二人を見ていると、魁(かい)とヨリの二人とは違うとつくづく思う。何より話す内容のレベルが違うんだ。
 ゲームも少しはしてるようだが京音(けいと)も月斗もスマホのゲームをやるくらいで、あくまで時間潰しだという。月斗は本を読んでいることの方が多いくらいだし、伯母さんもよく読んでいて月斗とは貸し借りをしているところを見ることもある。
 この家で、玄関から一番離れた奥の部屋には入らないでと言われたものの、要は伯父さんが一人で使っている部屋だからということだろう。他に制限など言われたことなどないが、伯母さんの部屋には入ったことがない。空気の入れ替えと言って、よくドアを開けっぱなしにしているから中の様子は分かる。大きな本棚が二つ並んで置いてあって、本がぎっしりと入っている。冬には炬燵が出現する。月斗はそこがお気に入りだ。
 最近では清夜が月斗の勉強机を占領してしまったような形になり、彼が伯母さんの部屋に入り浸っている。京音によると前からだと言われたが、やっぱり自分のせいもあるのかなと思う。

 親戚というけれど、それぞれの家の違いは両方の家で暮らした自分が一番分かる。
 空気感や習慣は人が違うと全く異なる。
 でも一番違うのは、人間の質だ。質の高い人間に育てられた月斗は質が高い。京音も、この家も向こうの家にはないものがある。
 本当にこの家の子供になりたいと思った。おばあちゃんが二人を引き離してしまって悪かった、と謝ったことがある。本当にそう思うなら、二人揃ってこっちに預けてくれればよかったんだ。
 そうしたら、こんなに辛い思いをすることはなかった。いい子でいたいと思う自分を持て余す。誰かと清夜を比べることなど、こちらの人たちはしない。それなのに嘘をついてでも、取り繕いたいと思ってしまう。
 こんな気持ちを抱いていることが、すでに家に差があると思っている証拠だ。あの二人は素敵な大人たちだ――。

 血のつながりなんて関係ない。
 どんな風に育つかだ。誰を手本として考えるかだ。そう育ててくれる人を親に持つ幸せはあるだろう。
 でも、もし親が違うなら手本になる人を見つければいい。今まで何を見て生きてきてしまったんだろうと思う。だからこそ、もう間違いたくはない。
 そう思えば思うほど、二人の間に入っていけないような雰囲気があるとすごく悲しい。
 複雑な環境にあって、説明することも少なくなったけれど、クラスメイトに変に思われたくないから、お義母さんと呼ぶようになったのだけは何となく憶えている。
 病気になってしまった祖父母は可哀想だと思うけれど、率先して看病を手伝いたいとも思わない。このまま東京の大学に行きたいというのが本音だ。
 でも義母に連絡した後、返事はない。高校受験では義父がいた。話も義父にした。その場に義母もいたけれど、何か言われた覚えはない。
 今回は義父がいない。直接話す前にと電話をしたけれど、少し待っていてくれと言われてから何も聞いていない。
 実の子でも、こんな話するのかな。魁もヨリも大学に行ってないから経験ないか。

 さて夕飯か。
 カップ麺でも食べるかな。
 そう思ったところで、京音と二人だけの食事を思い出した。彼は冷蔵庫から肉とキャベツと何か適当に野菜を炒めて、インスタントラーメンではあったけど凄く美味しい混ぜ蕎麦風を作ってくれた。
 清夜は何も作れない。そこでもまた自己嫌悪に陥った――。

To be continued. 著作:紫 草 
 
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