『君戀しやと、呟けど。。。』

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『キスシーン』Ⅱ

2009-11-27 09:42:55 | 連作short/妖婉シリーズ
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 喘ぐ声は教えられて出るものじゃない。
 そんなものは本能が勝手に教えてくれる。
 瑠璃の覚えたての、小さな声は俺を本気にさせた。

「唇、そんなに固く閉じないで」
 言った瞬間、瑠璃の表情が変化する。
「でも、」
「ディープなやつ、するんだろ」
 そう言う言葉は、瑠璃の唇の上だ。
 ちっこい時から知ってる奴と、こんなことしてていいのかな。なんてのは、次の瑠璃の言葉で吹っ飛んだ。
「だって、お芝居でするディープキスが初めてなんて嫌じゃない」

 な、に!?
 思わず、両肩掴んで引き離す。
「お前のするキスって、どんな設定」
「高校生で、キャバクラでバイトしてるの。警察に捕まるんだけど、その前のシーンで個室で結構きわどいキスシーン撮りますって言われた」

 冗談だろ。
 その設定じゃ、相手は…
 言葉にできなかった心の声を、瑠璃は聞いたかのように答えた。
「相手は、ベテランの俳優さんだって」

「それで、お前はいいのか」
 情けないことに、声が若干震えてしまう。
「女優になりたいもん。何でもする、事務所がやれって言ったら」

 思わず、言葉を呑みこんだ。
「だから、最初はみっちゃんがいい」
 俺は、力なく座り込んだ。つられるように瑠璃も座る。

 瑠璃の視線は、さっきから片時も離れず自分の上にある。
「キスも…、ディープキスもベッドシーンも全部、みっちゃんと最初にしてから撮影する」
 瑠璃…
「みっちゃん、知らなかったでしょ。私ね。ずっと、みっちゃんのこと好きだったんだよ。でも相手にしてもらえないのは分かってた。だからいいの。一回だけ。思い出くれたら、もう纏わり付いたりしないから」

 言葉を失った俺の代わりに、瑠璃はいっぱい喋った。
 結構、過激なこと話してるのに、瑠璃の声音は相変わらず穏やかなままだ。
「俺も同じって言ったら、引くか」
 刹那、瑠璃の顔に驚きと朱が雑じる。

 彼女の左手を取り、握り締めた。
 あったかい。

 いつからだったろう。
 この手に、邪まな想いを感じたのは。
 何の屈託も無く繋ぐために伸ばされる手を、振り解きたくなる程、苦しい時期もあった。
 でも俺たち、従兄弟同士なんだよな。

 誰にも言えないまま、封じ込めた想いは、今も凍りついたまま胸の奥に在る。
「俺も、好きだったよ。ロリコンって言われても、おかしくない頃からずっと」
 握る手を少しだけ引き寄せて、唇を寄せる。
「みっ!」
「黙って」
                     著作:紫草

                       To be continued.
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