禁断の果実を食べたのは、誰だろう。
それは私。
決して許されることのない、過ちと呼ばれる果実。
少しだけ、食べたかったの。
ほんの少しだけで良かった…
赤いと信じていた皮は、実は醜く不味くって、まるで私の心の中を表しているみたい――。
両親が離婚をした時、私はまだ幼稚園にも通っていなかった。
大好きなお兄ちゃんは、父が引き取った。
次の日から、ずっといなくなるなんて分からなかった。
一日経って、一週間経って、母に笑顔が戻って、私は殴られなくなった。
「もう、お兄ちゃん帰ってきてもいいよね」
そう口にした途端、母が首に手をかけてきた――。
あれから兄のことは聞いてない。
小学校四年になった時、「ママの友達だ」とやってきた人が、今度は「パパになるんだ」と言われても、私には何も言えなかった。
だって本当はどうしたいのか、聞いてくれなかったから。
本当は何をしたいのか、それも分からなかったけど。
ただ“お兄ちゃんに逢いたい”という言葉だけが、呪文のように心の底に沈んでいった。
そのお兄ちゃんに遇ったのは、高校のバスの降車場。
同い年の私たちは、すぐに互いが兄妹だと気付いた…筈。だって驚いた顔してたもん。
なのにお兄ちゃんは、同じクラスの女の子と一緒に校舎へと歩いてゆく。
私は、もう妹じゃない。
その視線が彼女に向けられた時、そう思った…。
心の底に、何か気持ちの悪い真っ黒い塊のようなものが落ちてゆく。
私には、救われる道はない。
仕事に忙しい母は、殆ど家に帰ってこない。
パパになるんだと言われた人は、今は私の愛人だ。違う、私が愛人だ。
妊娠すると不味いから、と避妊具を体に入れられて、私は日々腐ってゆく。
お兄ちゃんに逢うことだけが支えだった。
お兄ちゃんに逢えたら、抜け出せると思ってた。
でも私にお兄ちゃんはいなかった。
人は信じない。信じようとするから、裏切られる。
人を信じなければ裏切られることもない。
何度も同じことを繰り返して、またやっちゃった。
だから、お兄ちゃんにも頼らない。頼ろうと思わなければ、淋しいなんて気持ちなくなるから。
To be continued
著作:紫草
それは私。
決して許されることのない、過ちと呼ばれる果実。
少しだけ、食べたかったの。
ほんの少しだけで良かった…
赤いと信じていた皮は、実は醜く不味くって、まるで私の心の中を表しているみたい――。
両親が離婚をした時、私はまだ幼稚園にも通っていなかった。
大好きなお兄ちゃんは、父が引き取った。
次の日から、ずっといなくなるなんて分からなかった。
一日経って、一週間経って、母に笑顔が戻って、私は殴られなくなった。
「もう、お兄ちゃん帰ってきてもいいよね」
そう口にした途端、母が首に手をかけてきた――。
あれから兄のことは聞いてない。
小学校四年になった時、「ママの友達だ」とやってきた人が、今度は「パパになるんだ」と言われても、私には何も言えなかった。
だって本当はどうしたいのか、聞いてくれなかったから。
本当は何をしたいのか、それも分からなかったけど。
ただ“お兄ちゃんに逢いたい”という言葉だけが、呪文のように心の底に沈んでいった。
そのお兄ちゃんに遇ったのは、高校のバスの降車場。
同い年の私たちは、すぐに互いが兄妹だと気付いた…筈。だって驚いた顔してたもん。
なのにお兄ちゃんは、同じクラスの女の子と一緒に校舎へと歩いてゆく。
私は、もう妹じゃない。
その視線が彼女に向けられた時、そう思った…。
心の底に、何か気持ちの悪い真っ黒い塊のようなものが落ちてゆく。
私には、救われる道はない。
仕事に忙しい母は、殆ど家に帰ってこない。
パパになるんだと言われた人は、今は私の愛人だ。違う、私が愛人だ。
妊娠すると不味いから、と避妊具を体に入れられて、私は日々腐ってゆく。
お兄ちゃんに逢うことだけが支えだった。
お兄ちゃんに逢えたら、抜け出せると思ってた。
でも私にお兄ちゃんはいなかった。
人は信じない。信じようとするから、裏切られる。
人を信じなければ裏切られることもない。
何度も同じことを繰り返して、またやっちゃった。
だから、お兄ちゃんにも頼らない。頼ろうと思わなければ、淋しいなんて気持ちなくなるから。
To be continued
著作:紫草