カテゴリー;Novel
その拾肆
――離島に渡り、一ヶ月が経った。
一度、自宅に戻ると言った真帆は、再び音信不通となった。電話をするわけにもいかない。まあ、誰かに説得されれば絶対に反対されるのは分かっていた。
完結する独り言を繰り返す日々。それでも島での暮らしは以前の港町とは格段に責任の重い場所だった。
過疎の町とは違い、中学までは島で育つ。そして高校からは本州に渡る者もいたが、そのまま島に残る者もいる。離島とは、小さな国だと葛城水帆は改めて感じる。
都会に憧れ島を離れる若者は多い。それでも島に残る者は、町に比べると比較的多いのも事実だった。
そしてそれは病気に罹患する人口も増やす。重篤な症状や、末期の病気だと進行も早い。一つの判断ミスが文字通り命取りになりかねない。天候が悪ければ船も出せない。ヘリも飛ばない。かつては悪天候の中、覚悟の上で船を出したこともあったらしい。藁をもつかむ気持ちは誰もが同じだからこそだ。島全体が一つの家族のようなものだ。助けて欲しいという気持ちと、助けてやりたいという気持ちが同時にあるのだ。
その重圧の全てを医師は受け止める。圧し掛かる思いに押しつぶされそうになる時もある。
「こんなに苛酷な場所だと知ってたら誘わなかったな」
否、でももう、このまま現れないだろう。なら夢でも、いつか真帆がやってくると思っている方が救われる。
単に過疎の進んだ本州の小さな港町と完全に孤立してしまう離島では、全く違う。頭の中の知識だけでは補いきれないものがある。
こういう所では民間療法も立派な治療になることを知った。
ただ現実には、毎日が忙しく夢を抱くことも殆んどなかった。それに普段は穏やかな平和な島であることには違いなかった。
「先生~ まあちゃんが転んで血出とる」
近所に住む小学生の拓司がやってきた。いつものこととは言いながら応急セットを掴むと、何処だと聞きながら一緒に診療所を飛び出して行った――。
To be continued. 著作:紫 草
HP【孤悲物語り】内 『溺れゆく』表紙