ご訪問ありがとうございます
今回のストーリーは、子供の頃に暮らしていた
地域伝承をベースに作成いたしました
月子のティーハウス
(moon child's tea house)
番外編 つぐみ
ティーハウスの周りは春めき、楠の葉は美しく輝いている
そして地面からは太陽の匂いがする
藤のバスケットにキッチンバサミを入れ、月子はエントランスの外にいた
自生しているミントの葉を手際よく摘んでいた
風返しの坂を、小さな女の子が1人で歩いてきた
「どうしたの?」月子は尋ねた
「わたしの名前はつぐみ、お姉ちゃんは?」
「私は月子、…でもお姉ちゃんって呼んで」
「お姉ちゃん、私はお山へ行かなくてはならないの」
少し時間をおいてから、月子は答えた
「お山はこの道を通って…ずっと先よ」
「つぐみちゃん、パイナップルミントの葉っぱを食べる?」
バスケットに入っているミントの葉を月子は手渡した
「スースーして美味しい」
少し苦そうな顔をして、つぐみは笑った
キッチンバサミを借りると、つぐみは自分の髪を切り月子へ渡した
髪の毛を受け取り、月子はバスケットへそっと入れた
「お姉ちゃん、ギュッとして」
月子はつぐみを抱きしめた
月子の胸につぐみは深く顔をうずめた
「お家が揺れたの、ガタガタガタガタ」
「怖かったわね」
月子の瞳から、涙がほろほろとこぼれた
「私1人きり、お山は怖いの?」
「そうではないわ、この辺りではみんなお山に集まるの」
つぐみは不安げだった
「春になると山桜が咲いて、野鳥もさえずるの」
月子はつぐみの肩をさすった
「さみしくない?」つぐみは泣いた
「さみしくなったら、いつでもお姉ちゃんのティーハウスへいらっしゃい」
「お姉ちゃんありがとう、私はお山へ行ってみる」
つぐみは、もう一度1人で歩き始めた
ずっとずっと霞んで行くまで、月子はつぐみを見送った
ご一読ありがとうございました