俺の翼に乗らないか?

スターフォックスの一ファンのブログ

「ファルコとの出会い」その39

2010年04月17日 18時48分54秒 | 小説『ファルコとの出会い』

 ビビアンの頬がぷっとふくれた。
「それは、おとぎばなしじゃないの。科学じゃないわ」
「そうとは限らん。こいつは神話だ。神話というのは歴史を濃縮したものだ。まだ文字も発明されていないころの歴史を、神話という形で口伝えに伝えていくのさ。祖先から子孫へとな。そう考えてみると、このおとぎばなしの中にも一抹の真実が含まれている可能性は大いにある。ワシらが自分たちで作り出したと思っているこの文明は……、もしかしたら、太古に地上を治めていた種族から譲り受けたものなのかもしれん」
「まさか」
 ビビアンが眉を寄せた。
「私たちが宇宙を開拓したり、星を渡る技術をせっせと研究しているのは、その神様に会いに行くためだっていうの? その神様のおかげで、ウサギもキツネもカエルも、みんな二本足で歩けるようになったって?」
「あくまで可能性さ」
 ペッピーが笑う。
「謎を解き明かすのは簡単ではない。だがそいつが纏っているヴェールを一枚でも多く剥がしとって、願わくば会いたいものだな、神様に」
「それについては、面白い説がありますよ」
 フォックスの言葉に、二人はスプーンを運ぶ手を止めた。
「士官学校の友人が教えてくれたんです。アクアスの海底に沈む遺跡の意匠に、タイタニア文明の様式とそっくりなものがあるってね。タイタニアの古代人は、われわれ以前にすでに星を渡る技術を持っていたのかもしれません」
「こいつは驚いたな。ワシはほんの冗談のつもりだったのに」
 スプーンを持つ手を止めたまま、ペッピーはぽかんと口を開けた。
「あなた。やっぱり私をからかったのね」
 ビビアンがジロリと夫をにらむ。ペッピーは知らん顔でシチューをぱくつき始めた。

「ファルコとの出会い」その38

2010年04月17日 18時39分58秒 | 小説『ファルコとの出会い』

「でも、ほんとに不思議だわ」
 深皿にシチューをよそおい、席について食べ始めたあとも、ビビアンは首をかしげた。
「なアんじゃい。まだ何かあるのかい」
 ちぎったパンをほおばりつつ、ペッピーが笑う。
「コーネリアでもパペトゥーンでも、違った種族の人たちが当たり前のように一緒に生活しているけれど。もともとのご先祖様をたどれば、まるっきり違う生き物だったのでしょ? それが今は、同じ言葉を話して、同じ食卓について仲良くゴハンを食べている。こんな偶然ってあるかしら? あまりにも、出来すぎていると思わない?」
「まったく別種の生物たちが、同時多発的に知性あるものへの進化の道を歩みはじめ、互いに滅ぼしあうこともなく、共通の社会を打ちたてるまでに進歩した。これはライラット系におきた信じがたい奇跡である。ビビアン女史が仰りたいのはこういうことですかな」
「からかわないで頂戴。私は知りたいの。仮にも科学を志したものとしてね」
「そうかね。ならばワシがばあさんから聞いた話をしよう。
 むかしむかし、赤ん坊から大の大人に至るまで、皆が地べたに四つ足をつけていたころの話だ。そのころのわれわれにはまだ物を作り出す知恵がなく、また世を治める分別もなかった。しかし地上には光神ライラットと呼ばれる大いなる存在がいて、この世の平静は保たれていたのだ。
 その存在が、地上をはなれて天にのぼる時がやってきた。駆けるもの、這うもの、跳ねるものに飛ぶもの。どんな種族のものも一様に、大いなるものとの別れを惜しんだ。天にむかって遠ざかってゆくその存在に、行かないでくれと頼んだ。
 するとその存在は言った。『わたしがここにとどまる時代はもはや終わった。これからはおまえたちがこの地上を治めるがよい。わたしのもつ智慧をおまえたちに分け与えよう。さすればいつの日か、天にのぼることもできよう』と。
 そして光神ライラットはぐんぐんと昇りつづけ、ついには雲の向こうに見えなくなった。昇ってゆくライラットを見つめていた地上のものたちは、首をあげ、体を起こし、見上げつづけているうちに、気付くと後ろ足だけで直立していた。
 一人のウサギが、自分が二本足で立っていることに気づいた。まわりの者たちも、お互いの姿を見あって、どよめきが起きた。そのときだ。ライラットの消えていった雲の切れ間から、光がさあっと地上に降りそそぎ……、光をあびた者たちのなかに知性の輝きが生まれた。
 それからこの地上は、二つ足で歩くものたちがともに治める場所になった。とまあ、こういう話だ」