「私の率いるチームは、暗闇のなかで黙々と新技術を作り出した。
コーネリアの二大種族間の対立は、その間にも深まっていった。軍の駐屯地で小競り合いがおき、事態の収集がつかぬまま、泥沼のようなゲリラ戦が繰り広げられた。
ある朝、私は気づいた。ハールのゲリラたちに向けられたコーネリア軍の最新兵器のいずれもが、私たちのチームの技術を転用したものであることに。
私は抗議を申し出た。死にかけた魂を必死に揺り起こして。科学研究所主任として、最高司令官ペパー将軍に面会を求めた。
だが、叶わなかった。再三の願いは聞き入れられず、私は将軍の執務室どころか、本部の敷地内に足を踏み入れることさえできずに終わった。
そして理解した。二大種族の融和など夢物語だと。
ロキオンどもは、私の頭脳から吸い上げた技術で、わが同胞のハールたちを殺戮した。その奥底にあるのは、異種族に対する、底知れない憎悪だ。
少なくとも私は、歩み寄り、理解し合おうとした。だがロキオンは銃弾をもってそれに応えた。
5年前の事件は、その返答に対する、私からのさらなる返答だ。
だが、この星の上でふたつの種族が……どちらかの最後の一人が息絶えるまで殺し合わなければならないとしたら、それこそ地獄ではないだろうか?
けして共存できないならば、距離をおくしかないのではないか。
……私は、ここベノムを、われらハールの第二の故郷として作りかえる。そしてロキオンの圧政のない、ハールのための国を打ち立てる!
もちろん、そこへ至る道程は、楽なものではない。原始時代にも等しい状況から、近代国家を作り出そうというのだから。
私はハールの救世主ではない。慈悲ぶかい王でも、ましてや英雄でもない。
それどころか、死体の山と流血の河のうえに国を築こうとしている。さしずめ魔王といったところだな。
だが、ハールの諸君よ! 現状でも、君らの命はロキオンの繁栄を支える土台の、小石のひとつとして搾取され、消耗されているのだ。
どうせ削り取られる命ならば、他人の国ではなく、自らの国の礎としたいとは思わないのか。
胸に手をあて、己の心の声に耳をすますのだ! 私の言葉に魂が共鳴する音が聞こえるはずだ。
いかに目を伏せ、耳をふさごうとも、魂の鳴り響く音は消せはしない。
同胞よ、わが思いに共鳴するものたちよ。私は今ここに、ベノム帝国の建国を宣言する!」
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