金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

プロポーズ小作戦19

2009-04-01 23:23:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦19
「本当に星刻はそんなことを言ったの」
「は、はい。あの天子様、星刻様、黎大司馬は出撃のご用意もありますのでとてもお忙しいかと」
瞳を大きく見開いてそれでも詰問長にならないように気をつけて、天子は女官に尋ねた。
「そう、そうね。星刻はいつもとても忙しいもの。子供のわがままに付き合う時間は無いわね」
一瞬女官は天子が泣いているかと思った。以前ならすぐ涙が落ちた場面である。

さて、この女官は悪意の人ではない。しかし、どうも余計な事を口にしてしまうタイプだった。
今回もそうだ。
天子は泣かなかった。代わりに強い言葉が出た。それは怒りの感情だった。
「出撃ですって。どういうこと。私は知らないわ」
「え、あっ、いえそのあの」
「いいわ、あなたは退室して」
「は、はい」

余談だが、この女官は老女官長の手でこの後ほど無く暇を出されている。彼女の個人的幸福のためにはそのほうが良かったのだろう。

プロポーズ小作戦18

2009-04-01 22:47:51 | コードギアス
プロポーズ小作戦18
悪意がなくても結果的に悪意になる事がある。あのスザクとルルーシュのように。
ジノは自分にもそういう事が起きるとは思っていなかった。だが、たいていそういう事は思っていないときに起こるものだ。
悪意の偶然、そういう言葉がいつからあるのかジノは知らない。

アヘン戦争を題材に天子に歴史教育をしたジノは、偶然に天子の中の皇帝の部分に触れた。いったい誰が帝王学の講義を担当しているのかと調べてみたが、担当者は貴族相手の家庭教師に過ぎない。皇室用の教師を何故雇わないんだと調べたら、例のシュナイゼルのフレイアでそういう教師は首都と一緒に消滅していた。確かに今生きている教師の仲では最高の人選である。しかし、貴族の教育と皇族とは違う。あれは教えられて身に付くものではない。
となると、あれは天子の本質と見ていい。
今日星刻は久しぶりに朱禁城に出仕するという。だとしたら「天子ちゃんには帝王学はいらないぜ。それより普通の常識をしっかり教えた方がいい」そう言ってやろうと思った。

いつもなら私室を訪ねるのに、今回星刻は公的な謁見の間で天子に拝謁した。
星刻以外誰も知らない。ある女官が何気なくしたおしゃべりで、星刻の中に黒い炎が燃えていることを。うかつに私室を訪ねると自分が何を口にするかわからない、かろうじて焼け残りの理性で判断して、公式の間を選んだ事を。

その女官に悪意はなかった。ただ、見たものをそのまま口にしただけ。星刻が来ると聞いて大喜びした天子が、お姉さんのジノにぴょんと抱き付いてきゃーきゃーはしゃいでいる姿を。
ただ、つい余計な事を口にした。「まるで、仲のいい兄弟か、かわいい恋人同士のようでしたわ」
それをふと言ったとき、女官は部屋の空気がすぅっと温度を下げた気がした。
あわてて何とか取り繕うとした女官に、星刻は穏やかに微笑む。
「天子様が楽しく過ごしていらっしゃるなら良いことだ。
ヴァインベルグ卿が不自由を感じる事がないように中華の威信をかけてお世話するように」


公式の間の謁見を型どおりに終えて、星刻は天子の前を下がった。
天子はすぐ女官に星刻への伝言を託す。
「お夕食を一緒に食べたいの。お仕事が終わるのを待っています」
女官が運んできた録音の少し発音の丸い天子の声にも、星刻は眉ひとつ動かさない。
「天子様に返答を。ご命令でしたらいつなりとうかがいますと」
「は、はい、あの本当にそうお伝えしてよろしいのですか」
「臣下の身で天子様のお言葉に従うのは当然のことだ」
「そうだろう」と続けながら、星刻は女官のあごを持ち上げる。
遠めにはまるで接吻でもするかのように見える。
ちょうどその時ジノが部屋に入ってきた。
ジノの角度からは星刻が女官を口説いているように見える。
(おいおい、まぁ、男の生理だしな。排泄も必要だろうけど何もここの女に手を出さなくともいいだろうが)
貴族のボンボンだったジノはそういったことには慣れていた。それでもジノはまだ10代だ。まだ、完全にそういう事を割り切れない。ましてかわいい天子の恋心を、お姉さん役として見届ける気になっている。星刻の浮気、いや遊びか排泄行為だろうが、見過ごすわけにはいかない。

さて、どう言おうかとジノが構えると、星刻のほうが先に口を開いた。
「ヴァインベルグ卿、ご覧になるのは自由だが、お子様にはまだ刺激が強いでしょう。テラスでおやつにでもされてはいかがですか」
星刻の手から離してもらえた女官は慌てて部屋を出た。天子に伝言を持っていくためだが、濡れ場を邪魔されて慌てて逃げるようにジノには見えた。








はたしてこの時の星刻の心理がどういうものなのか、単なるやきもちか、ちょっとした気まぐれか、シュナイゼルに一本とられたから、ジノにやつあたりしているのか、賢明な読者はどう考えられますか?



プロポーズ小作戦17

2009-04-01 05:57:07 | コードギアス
プロポーズ小作戦17
「清朝はアヘンにたいする禁令を出したが、効果はなかった。広州では、清朝の官僚や軍人はブリテン商人に買収されていたからね。政府は財政を立て直すためにアヘン貿易をやめさせようとした」
「・・・。財政だけなの」
「そうだ。そのためにアヘン中毒者を殺す事にした。中毒者がいなくなれば輸入しないから」
「それは正しいの?」
「正しいかどうかでは測れないんだ」
政治は正義ではない。それをあの大司馬はまだこの少女に教えていないのか。
「当時の皇帝は道光帝だ。多くの官僚はアヘンをまともに取り締まる気はなかった。もう遅いと思っていた」
天子は頷いた。
「それでも正義を唱えるものはいた。
湖広総督林則徐が代表だ。皇帝は地方役人に過ぎなかった林則徐に高い位を与え、紫禁城賜騎、つまりナイトメアで城に降りる権利みたいなものまで与えた。まぁ、星刻みたいなやつだ」
星刻みたいなと言う一言で、天子には林則徐がどういう存在なのかわかった。
「林則徐は現地入りしてアヘンを取り締まった。大量のアヘンが没収され処分された」
「良かった」
「うん、ところが良くない。ブリテンが怒った。そして軍隊が広州を囲んだ。林則徐はそれも予測していて交戦した」
天子のイメージで林則徐はますます星刻に見えてくる。
「広州では清が有利だった。そこでブリテンは洛陽に軍を送り官僚達を脅した。また同時に大量の賄賂を贈った。飴と鞭の典型だな」
「林則徐の抜擢を気に入らなかった官僚達は戦争の責任を林則徐に押し付けて彼を処刑しろと皇帝に迫った」
「皇帝はどうしたの」
「林則徐を大臣の職から下ろし地方に戻した」
「そんなのだめ」
「それなら姫天子ちゃんはどうする」
「信じるか、信じた責任を取るか、どちらかでないとだめなの」
続けてと無言でジノは即した。
「えっと皇帝が言いなりになると思ったら政治はもっと悪くなるの。だから信じたら信じないと。それが間違いなら、間違いなら自分で決めるの。処分を」
ジノの視線がまた即した。
「林則徐が間違いなら、彼を、こ、殺すの」
声が震える。
天子の指先が真っ白になっている。
ことんと小さい音がして、天子の額がテーブルに付いた。
失神したのだ。

プロポーズ小作戦16

2009-04-01 05:02:53 | Weblog
プロポーズ小作戦16
ジノ君の家庭教師編 歴史の講座
ジノは天子の部屋が100パーセント監視されている事を知っている。
庭にさえも監視カメラを設置するあのストーカーいや、心配性の大司馬が部屋の警護を怠るはずはない。
巧妙に隠されているがラウンズのスリーであったジノの目で見れば、カメラも集音機も一目瞭然である。
それゆえにジノは歴史を教えるのに気を使った。
(最近の分は避けて)
それでも自分に君主としての判断力がないことを嘆く姫天子ちゃんには、何か参考になる事を教えたい。
いろいろ考えてジノが選んだ題材はアヘン戦争であった。
これなら朱王朝ができるずいぶん前の話で、直接のこだわりは無い。また、清王朝の皇帝がいた頃だから何かと参考にしやすいだろう。
後になってこの時教えた内容が原因で、天子が星刻に初めて怒りをぶつけるとはジノには想像もできなかった。

アヘン戦争

「当時の中華は清朝の嘉慶帝の時代だ。先代の在位が長かった間に官僚の腐敗が進んでいた。」
ジノの言葉に天子はつい先日までの自国を思った。星刻が大宦官を排除してくれた。きっと中華は良くなると思った。だが、現実は天子の思いとは乖離していた。腐敗官僚はまだまだいる。そして下々の人民から見れば、大宦官と星刻の違いなどわからない。ただ、権力者の名が変わっただけなのだ。
「1796年には大規模な反乱が起こった。嘉慶白蓮教徒の乱だ。1804年まで続いた。清朝がもうぐらついていた事もあるが、ここまで長い反乱になったのは信仰が絡んでいたのが大きい」
天子は知らないが、星刻が教えないため知らないのだが、同じような事が今もある。光明信仰と呼ばれる団体が地方反乱軍と結び、厄介な抵抗を続けている。
武器すら持たない貧民達がナイトメアに乗る軍に抵抗する。殲滅するのはたやすいが、うかつに手を出すと人権問題でまた欧州がうるさい。反乱軍の指導者達はそれを知っているから、欧州のマスメディアを密入国させ国際中継下で女子供を軍に向かわす。餓死寸前の子供達が石でナイトメアを叩く。
星刻の胃を捻じ切らす報告は、天子の知らないところで今朝も届いている。貧民達に基地を囲まれ、石を投げ続けられ、逆上した兵士が暴発した。現地が混乱しているようでそれ以上の報告がない。北を押さえてきた洪古が洛陽に戻ったら、交代で自分が現地に飛ぶ予定を星刻は立てていた。判断をひとつ誤れば中華全土に飛び火しかねない。あの地区には蒼天講の同士がいる。無事を確認する事もできないが、同士を信じるしかない。

「当時の清朝は貿易港を広州に絞っていた。さらにブリテンの商人が取引できるのは清朝の許可を受けた13商人だけ。ブリテンの商人はもっと自由に貿易がしたいと思っていた。特に茶、絹、陶磁器を輸入したかった。
昨日の午後ブリタニアティーを飲んだね」
「いい香りだったわ」
「清朝の頃のブリテン人もお茶が好きだった。でもブリテンではお茶は取れない。清から輸入するしかなかった」
「インドの産地は?」
昨日飲んだお茶もインドの産だった。
「お、いいところに気が付くね。でも残念ながら当時のインドではお茶は栽培されてないんだ。インドで茶を栽培するようになるのは、19世紀の後半になってからだから」
ジノは用意していたお茶の缶を出した。スマートな帆船の絵が描いてある。
「カティサーク号、こういう船でお茶を運んだ」
「お舟で?」
「その頃は航空機はないんだよ」
まともな教育を受けていない天子の常識はあちこちがいびつに抜けている。
「この船で海を越えたの。気持ちよかったかしら。神楽耶様は蓬莱島に来るとき氷の船で来たって言ったわ。潮風が気持ちよかったって」
『ゼロ様と一緒に船旅ができて、まるで新婚旅行のようでしたわ』
神楽耶はそんな風に言ったが、事実はゼロとは数分間形式的に会っただけだ。
(あぁ、スザクが後始末に徹夜で報告書を書いたあれか)
あの時はジノも報告書作成を手伝った。公式な報告書は古語で書かれる。文法のやっかいさにスザクが半泣きになった。(あのときのスザクは、うん食べたくなるほどかわいかった)
そんな事実とは関係なく天子の心は遊離する。(船で新婚旅行・・・星刻と)
きゃっと思わず小さく声に出る。
自分の想像で桜色に染まった天子、それをかわいいなぁと見つめるジノ。
天子は知らないが、そんなひとコマを、書類を裁きながら星刻は見ていた。もちろん隠しカメラのモニターで。

1時間後のことだが、ブリタニア人の医師は気を荒げすぎて内出血をおこした大司馬に輸血している。度重なる輸液や輸血のため細くなった血管は扱いにくく、医師のストレスを増加させた。

どうやら自分の想像から戻った天子にジノは講義を続ける。
「当時国際貿易の決済は銀でおこなわれていたからブリテンは赤字を出した。ブリテンから清には売るものがなかったから。何かを売って、貿易赤字増大を防ぎたい。ブリテンが始めたのが麻薬、アヘンの密貿易だ」
意識したわけではないが、この状況は今と似ている。麻薬のアヘンがリフレインに変わっただけで。
「当時のブリテンにも多少の良心があったものもいた。彼らは自国でも他国でも禁じられている麻薬を輸出するなど許されないと運動したが、たちまちつぶされた」
「アヘン貿易で中華はどうなったの」
「中毒者が爆発的に増えた。当時は銀で取引されていたから、国内の銀が減少した。その結果、物価は上がり国はますます乱れた」
「皇帝は何もしなかったの」
自らが天子の地位にある少女は当時の皇帝の行動が気になるらしい