栗山求/望田潤監修「パーフェクト種牡馬辞典2024-2025」

第84回日本ダービー回顧~歴史的なスロー、俊敏自在なTom Fool

2017-05-31 10:07:31 | 血統予想

東京10R 日本ダービー
◎1.ダンビュライト
○18.アドミラブル
▲2.アメリカズカップ
△4.スワーヴリチャード
△11.ペルシアンナイト
△12.レイデオロ
スワーヴリチャードが東京で巻き返すシナリオは私も考えたが、いかにも古馬になって本格化しそうなハーツクライで、ジャスタウェイだってダービーに出ても勝てなかった。
ペルシアンナイトはハービンジャーとヌレイエフのナタの斬れが武器で東京でも面白いが、ダービーはテン乗りで勝てるレースではない。
アメリカズカップはサトノアーサーとダンビュライトに完勝したきさらぎ賞が評価できるが、渋った馬場がプラスだった部分もあったか。
音無先生はアドミラブルについて「未勝利を勝ったときからダービーをめざしてローテを組んできた。こんな馬は今までいない。青葉賞馬は勝てないというジンクスを覆したい」と意気軒高だが、たしかにスタミナもパワーも斬れ味もハイレベルで、瞬発力勝負でも持続力勝負でも満点の結果を出してきて弱点らしい弱点が見当たらない。しかし飛び抜けた一芸に特化してないので、どこでも好走するが大一番では常に2着…という伯父のリンカーンに近いイメージも描ける馬だ。
同じ音無厩舎で同じノーザンファーム産のダンビュライトは2歳7月のデビューで、これは翌日にセレクトセールを控えて新種牡馬ルーラーシップ推しの采配でもあっただろうが、その期待に見事に応え新馬勝ち。
マリアライトらが出るスタミナとパワーに富む牝系で、そこにルーラーシップだから明らかに大箱向きの中距離馬なのに、2歳時は朝日杯を目標にマイル路線を歩み、今年は京都外1800mのきさらぎ賞と中山内2000mの弥生賞と皐月賞で3着を重ね、すっかりモノサシ馬のような存在になってしまった。
しかし血統や体つきや走りからすると東京2400mでベストパフォーマンスを出せる可能性はあるだろうし、皐月賞もファンディーナを意識したかのような捲りで長く脚を使っていて、あれで勝負付けが済んだとみるのは早計ではないか。
2戦目からずっと重賞を走りつづけて様々なレースを経験してきて、前走からコンビを組む鞍上はダービー5勝の名手。まれに見る混戦で難解なダービーだからこそ、今年は人馬の経験値を最重視してみた。

--------

大方の人は皐月賞で先行できず大敗を喫したマイスタイルが行くだろうと予想したでしょうが、クリンチャー陣営はバテないのが取り柄だからスローになったら逃げてもいい、瞬発力勝負にはしたくないとコメントしていて、だから皐月賞のように途中から先頭に並びかけていくような競馬をするだろうと予想した人も多かったようで、私もだいたいそんなイメージで考えてました

ただし皐月賞を見直してみると、スタート後の200mではクリンチャーはまだ7番手ぐらいで、そこから一番外を押し上げていって3番手にポジションを上げ、この馬は母系にAureole系Connaughtが入るのでたぶん馬群がダメで、外々を気分よく走れたからこそ4角でトラストに並びかけるぐらいの行きっぷりで先行できたのだろうと

皐月賞は8枠16番でしたがダービーは3枠5番、スタートしてから200m地点ではやっぱり7番手ぐらい、しかしそこから皐月賞と違ったのは前と外に馬がいたことで、ああいうふうに囲まれると視界に入っている馬を抜こうとしないというAureole魂逆噴射になってしまう

となると弥生賞を63秒で逃げて2着に残したノリは同じようにペースダウンをはかり、終わってみれば青嵐賞より3秒も勝ち時計が遅いという歴史的なスローのダービーとなったわけで、その最大の戦犯とされる藤岡祐介ですが、彼にしてみれば皐月賞と同じように出していったけれど、途中からポジションを上げていけるシーンがなかったし馬も上がっていこうとしなかった

そしてレースを動かすキーマンと思われたアルアインとダンビュライトの鞍上が、「内々で動くに動けなかった」と悔やんでいたのも印象的で、ルメールに呼応して戸崎が動いたことでこの2頭は直線まで動きを封じられてしまった

13-14-2-2とレイデオロが向正面で一気にポジションを上げたのが900m地点ぐらいからかな、レースラップでいうと13.3の最も遅い地点やったと思いますが、Mahmoudさんのレイデオロの個別ラップを拝借すると
13.3-12.2-12.6-13.1-12.5-12.1-12.0-12.7-12.6-11.6-10.9-11.3

2番手に上がったところから12.0-12.7-12.6とまたペースダウンして一息入れているのが見事で、月曜のエントリでも書きましたがこういう緩急がきく器用さ、操縦性の高さこそがTom Foolの本領で、Tom Fool的なレイデオロだから出来た芸当であり、デビュー戦からコンビを組みつづけてTom Foolらしさを理解していたルメールだからこそ出来た芸当だった

土曜はGCが見れなかったのでBSイレブンで競馬観ていたら、岡田総帥が登場してダービー出走馬の馬体診断、そこでもうみなさんご存じやと思いますが、「レイデオロは体型に欠点があって2400mはもたないだろう」と仰ってました(ちなみに当日の予想はスワーヴリチャードとアドミラブルだったらしい)

熱弁を拝聴しながら「総帥、仰るとおりやと思いますが、過去のダービーを振り返ってみてください。だいたいいつも2000mベストの馬が、2400mベストの馬を負かしてダービーを勝ってます」「大きく蹴れないのもそのとおりですが、Tom Fool的小脚で走る馬なのでこれはこれでいいんです」とテレビに向かってブツブツ突っ込んでました(^ ^;)

月曜のナスキロ会で金沢くんに「レイデオロはTom Foolだとして、他にTom Fool的走法で走る馬って何がいますか?」みたいな質問をされて、そうやなあ~キンカメやったらアパパネとラブリーデイかなあという話をしてたんですが、キンカメ産駒のG1馬でTom Foolのクロスを持つ馬(☆)は以下のとおり

アパパネ☆
タイセイレジェンド
ドゥラメンテ
ハタノヴァンクール
ベルシャザール
ホッコータルマエ☆
ラブリーデイ☆
リオンディーズ☆
ルーラーシップ
レイデオロ☆
レッツゴードンキ☆
ローズキングダム
ロードカナロア☆(Tom Fool≒First Roseの7/8同血クロス)

☆馬が全てTom Fool的とは言いませんが、☆群のほうがピッチ寄りで俊敏で操縦性自在性に優れているという傾向は実感できるかと

そんなわけで、レイデオロはラブリーデイが少し枝葉が長くなったようなイメージで、そこを“ラブリーデイのSeattle Slew炒め”と表現してみたんですが、レイデオロは本来は小回りでもスイスイ捲れる馬やと思うし、大箱だとスローの上がりだけの競馬のほうが小脚が際立つという、そこはやっぱりラブリーデイと似たタイプやと私は思ってます

レイデオロの配合については「レイデオロとレディブロンドとTom Foolの話」も参照していただきたいですが、母父シンボリクリスエスが非Northern Dancerなので、「3/4Northern Dancerクロス」というキングカメハメハ産駒としては最もオーソドックスな成功形



サンデーサイレンスの血を引かない馬がダービーとオークスを勝ったというのは、ウオッカとローブデコルテの07年以来のことで、レイデオロはキングカメハメハ(Northern Dancer4×4・6)、ソウルスターリングはFrankel(Northern Dancer3×4)とともに父はNorthern Dancerの強いクロスを持つのですが、一方で母父に非Northern Dancer種牡馬(シンボリクリスエス、Monsun)を持ってきて「3/4Northern Dancerクロス」にしているのも同じ

直線では「うおおおおおスワーヴリチャードが勝つんかあああっ!」と叫んでたんですが、ここまで上がり特化だとストライドがピッチに屈するという惜敗、初めて実馬を見たんですが少なくとも輸送でゲッソリ落ちたという体つきには見えなかったし、ステイヤーとして研ぎ澄まされた体という解釈もできるようなつくりだったかと

母がNorthern Dancerクロスを持たないハーツクライ産駒が2歳~3歳春のG1で連対したのは初めてのことで、これからジャスタウェイやカレンミロティックのような成長曲線を描いていくとするならば、来年の今頃はハイパートーホウジャッカルになってるかもしれず末恐ろしいですが(^ ^;)、しかしハーツクライだけに菊花賞は決まりとはまだ言いきれない

アドミラブルは一番強い3着だったと思いますが、“リンカーンのRobertoがけ”と評したように、大一番では「一番強い2着3着」が多くなりそうな予感はこれからもあります

ダンビュライトとペルシアンナイトはこの上がりで際立った脚を使うのは無理で、ルーラーシップとハービンジャーのナスペリオン斬れが最も映えるのは上がり11.8ぐらいでしょうね

アルアインは2400mを走るには少し肉が多いのですが馬っぷりは抜群で、昨年のPOGシーズンに馬体派が絶賛していたのがダービー当日のパドックで納得できました

コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする