海神奈川吹奏楽部愛好会ブログ

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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その5

2007年05月31日 10時35分22秒 | 上月佑奈

第5章 古墳vs弥生



 佑奈と茜、舞子の3人は山奥中学校を出て神社の境内を横切って昼食をとるためペンション<パンプキン>に戻ろうとしていた。境内に紺のブレザーとジャンパースカートに白い丸襟ブラウスの制服の少女がいるのが見えた。その子は全身泥まみれだ。舞子がそれに気付き
「あら、弥生ちゃんじゃないの。どこ行ってたのよ。みんな心配して探していたのよ。どうしたの、全身泥まみれじゃないの」
昨日から行方不明だった関口弥生がひょっこり戻ってきたのだ。しかし舞子の問いに弥生は答えない。
「弥生ちゃん、どうしたの?」
「舞子ちゃん、この子知り合い?」
佑奈は弥生から妖気を感じ取っていたので舞子に尋ねる。
「はい、同じクラスの関口弥生ちゃんです」
「そう、でもこの子何か危険よ」
「そんなことないですよ、ねぇ弥生ちゃん」
舞子の問いに弥生は佑奈を指差し
「お前か、相模の国から来た妖術使いは」
「失礼ねぇ、誰が妖術使いよ」
この子はただの女子中学生ではないと確信したから佑奈の目は真剣だ。
「佑奈お姉様『妖術使い』ってなんですか? 前から弥生ちゃんを知っていたのですか?」
舞子は状況が飲み込めず質問してくる。舞子が知るふだんの弥生のしゃべり方ではなかった。茜も
「佑奈お姉様、どうしましたの?」
「茜」
「はい、なんですの?」
「お姉様の言う事を疑問を持たずに聞いてくれる」
「はい」
「舞子ちゃんを連れて先帰って」
「佑奈お姉様はどうされますの?」
「この子といろいろとやり取りすることがあるの」
「???」
「いいから早く帰って!」
佑奈が真剣な表情で声を荒げるので茜はびっくりして舞子に
「舞子ちゃん、佑奈お姉様の言う通りにしましょう」
「でも弥生ちゃんが…」
「いいからとにかくゆきましょう」
いぶかる舞子の手を引いてなんだかわからないまま茜は小走りにその場を去り鳥居をくぐろうとすると二人は透明な壁に突き当たった。
「痛ったぁーい、なんですのこれは。見えない壁があるですの」
「うそっ、いったいこれは…。神社から出られないの?」
二人は見えない壁を手でたたいてみた。鳥居の下だけでなく見えない壁はずっと続いているようだ。茜は
「佑奈お姉様、見えない壁がありますのぉ」
と佑奈に言う。舞子もこれで弥生の異変にようやく気付いたようだ。泡を食っているから佑奈たちは気が付いていないが弥生が結界を張ってから外部の物音が遮断され境内はしーんと静まり返っている。佑奈は弥生に
「あんた結界を張ったわね」
「周りからいらぬ邪魔が入らないようにしたまでよ」
「あの子たちは関係ないでしょ。出してあげて」
「我が倒すべき相手はお前のみ。だから手出しはせぬ」
「ひとつ聞いていい?」
「なんだ」
「昨日お婆さんを殺したのはあなたね」
「あぁ、あの巫女のような老婆のことか」
「やっぱりあなたが…」
「術者としては格が低いのに我を封印しようなどとするからだ」
「ひどい、そのせいであたしが疑われたのよ」
「そのようなことどうでもよいわ」
「どうでもよくない!」
「どうせお前も倒すべき相手だ。黄泉の国で老婆と再会するがよい」
そう言うと弥生はいつの間にか手にしていた銅鐸を振り優雅に舞い踊り始めた。弥生は太古の昔に滅びた旋律を抑揚を付けてカランカランと銅鐸を振り鳴らす。最初「この子一体何を始めたの?」と佑奈はぽかんとそれを見ていたが魔力の高まりを感じ
「二人とも物陰に隠れて!」
と叫ぶ。二人ははじかれように境内のお稲荷さんの社の裏に隠れこわごわ様子を窺う。術者ではない茜と舞子にも感じられる位に強い殺気が弥生の小さな体からほとばしっていた。佑奈が反射的に飛びのくとそれまで佑奈が立っていたところに電撃が飛びガガガッと音を立て地面が大きくえぐれた。佑奈は勾玉の腕輪という魔神具を用い呪文を詠唱し複雑に指を組み結印する事で術を発動させるが、弥生は銅鐸を振り舞い踊ることが結印に銅鐸の振り方で音に抑揚を付けるのが呪文を詠唱するのに相当し術を発動させる。古墳時代と弥生時代では術を発動させる儀式や原理が異なるようだ。相手も術者なら術を使って対抗しないとこの限定空間ではやられてしまうし術を使うとうるさく言う泉崎礼香もこの場にはいないから佑奈は術を使って反撃することに決めた。
「妖術使いはあんたのほうじゃないのよ。こっちも本気出すわよ」
佑奈が呪文を詠唱し複雑に指を組み結印する。弥生も次の術を発動させるべく舞い踊っている。弥生が再び電撃を放つ。佑奈は金棒を出現させ地面に突き立てる。電撃は金棒に引かれねじ曲り地面に流れた。佑奈は避雷針を立てて弥生の電撃をアースしたわけだ。古墳時代の術と現代の科学的知識をミックスして弥生の攻撃を無力化する。
「おのれ妖術使いめ、こしゃくなまねを」
自分の事を棚に上げて弥生は再び舞い踊り火炎を佑奈に放つ。佑奈は氷の壁を出現させそれを受ける。氷の壁は一瞬にして蒸発するが佑奈は無尽蔵に氷を繰り出すことで弥生の攻撃を無力化していた。ついで佑奈は土の壁を出現させ弥生との間に築きこれを防壁とした。弥生は後ろにはえているイチョウの木の小枝を佑奈目掛けて雨あられと放った。しかし防壁に突き刺さるだけで佑奈には当たらない。
「これならどうだ!」
術の応酬では勝負がつかないと見た弥生は銅鐸を銅矛に変形させ防壁を乗り越えて佑奈目掛け突進する。佑奈も呪文を唱え鉄剣を出現させてこれを受ける。ガキーン。二人が斬り結ぶ音が境内に響き渡る。弥生の突進の勢いを込めた突きは女子中学生の佑奈には受け切れない。だから佑奈は突きのベクトルを反らすべく弥生の矛を払った。弥生は第一撃が失敗するや身を翻して間合いを取る。矛は柄が長いぶん間合いを広く取らなくてはならない。だから佑奈と接近して戦うのは不利なのだ。第二撃で佑奈は弥生の攻撃をかいくぐり間合いを詰めようとする。剣は矛に比べると間合いが狭く接近しなくてはならないので不利だが、相手の懐に飛び込めば圧倒的に優位に立てる。ガキーン、ガキーンと斬り合う音が無音の境内に響く。甲乙付けられぬまま二人の激しい斬り合いは続く。双方深手は負っていないが激しい斬り合いで全身に無数の擦り傷切り傷を負っていた。激しい斬り合いで佑奈のパーカー、弥生のブレザーとスカートはずたずたに破れている。とりわけデニムミニスカートをはいてきた佑奈の足の傷が目に付いて茜は
「佑奈お姉様痛そうですの」
と心配している。弥生に一気にとどめを刺せれば簡単なのだが、佑奈はできるだけ弥生の体を傷つけないように攻撃しているからなかなか勝負をつけられない。
 果てしなく続くかのような斬り合いにも終りがきた。佑奈の勾玉の腕輪と弥生の銅鐸の魔力は拮抗していたが、術者にした関口弥生という女子中学生は体力的に虚弱な子であった。それにくらべ佑奈は米軍で軍事訓練を受けているので術を用いず純粋に斬り合いをやっても弥生に勝てる体力がある。また銅鐸は弥生の体を乗っ取ってからずっと休息をとらせずに弥生の体を酷使していた。だから銅鐸の意思は戦闘続行を望んでも乗っ取った体がついてこなかった。体力の疲弊が激しく弥生の膝が笑ってきて腕が重くなりだんだんと突き出す矛が甘くなったのを佑奈は見逃さなかった。佑奈が鉄剣で銅矛を全力で横になぎ払うと弥生の握力が弱っていたので銅矛ははじき飛ばされる。銅矛を手放した弥生は魂が抜けたように白目をむいて地面にくずれ落ちる。地面に落ちた銅矛は本来の銅鐸に姿を変えてカランカランと音を立てて境内を転がり茜と舞子が隠れているお稲荷さんの社の前まで転がった。その白銀に輝く姿を見て茜は魅入られたようにそれが無性に欲しくなってきて
「あれ欲しいですのぉ」
と言いながらふらふらとお稲荷さんの社の裏から出てくると茜は銅鐸を手にしようとする。
「茜だめぇーっ」
佑奈が絶叫する。そばにいた舞子も
「茜ちゃん、それは危険よ。いっちゃだめ」
と茜をはがいじめにして止めようとするが銅鐸に魅入られた茜はものすごい力で舞子を振り払う。茜に突き飛ばされた舞子は「ぎゃっ」と言って地面に転がる。銅鐸に近寄ると嬉しそうな笑みを浮かべて銅鐸を手にする。銅鐸は体力の限界がきた弥生の体を捨てて今度は茜に乗り換えようとしているのだ。銅鐸にとって術者の体は術を発動させる儀式を行わせるための使い捨ての憑代(よりしろ)にすぎないのだ。佑奈は銅鐸に魅入られた茜に対して術を発動させるのをためらった。ここで攻撃呪文を発動させれば茜のみならずそばにいる舞子まで巻き添えをくう。その間に銅鐸を手にした茜は「ぐわっ!」と普段上品な茜が発したとは思えない声を上げて苦しそうにのたうつ。手にした銅鐸から邪悪なものが茜の中に入ってくる。茜は銅鐸を投げ捨てようとしたけれど手に吸い付いたかように離れない。邪悪なものは茜の体のすみずみまでなめ回すように見て回りとても不快だ。だんだんと茜の意識の中に邪悪なものが押し入ってきて茜は自分を見失いそうになる。そして茜は放心したかのようにがっくりと両膝をついてうなだれた。
「茜ーっ」
佑奈が叫んだがもう茜の耳には届かないようだ。
 それから少しして銅鐸を手にした茜がすっくと立ち上がり佑奈に向き合う。佑奈は警戒した面持ちで対峙する。
「あんた茜なの?」
と問うと茜は
「そうですの。佑奈お姉様」
といつもの調子で答える。
「銅鐸に心を奪われているのではないでしょうね」
「佑奈お姉様、銅鐸さんははじめ私の心と体を奪おうとされたんですけれど、わたくしが『そーゆーことしちゃだめですの!』って叱ったらわたくしにその力のすべてを託して眠りにつくことになりましたの」
「それどーゆーこと?」
佑奈と舞子にはまるで理解できなかった。銅鐸は弥生の持つ容姿や学力といったものへのコンプレックス、すなわち心の闇を増幅することでエネルギーとしていたのだが中学1年生にしてはまだまだ子供で純真無垢な茜には付け入る心の闇というものがなく、逆にその清らかな存在に触れ銅鐸は屈服させられてしまったのだ。
「茜ちゃんすごーい」
と舞子はよくわからないけれど感心しているが佑奈は
「そうなの?」
と理解できない様子。
「とにかく銅鐸に体を乗っ取られているんじゃないのね?」
「そうですの」
と答える茜の様子から佑奈は茜は本当に銅鐸を屈服させたのかしらん?と半信半疑であった。そして弥生にかけ寄り
「弥生ちゃん、大丈夫?! しっかりして」
と介抱している舞子の姿を見て佑奈は
「いったいどうやってこの結界から脱出したらいいのかしら」
と頭を悩ませていた。
「今わたくしが解きますわ」
と茜は弥生のように銅鐸に抑揚を付けて振り舞い踊ると結界が解けた。外界はすでに日が暮れて夜になっていたから急にあたりが暗くなって一瞬佑奈たちは何も見えなくなった。そしてそれまで外界と遮断され全く音がしない世界にいたのにまわりの音がわっと耳に入ってきて3人は思わず耳をふさいだ。弥生もそれで気が付いたようで
「あれっ? なんであたしこんなところで寝てんだろ。やだっ泥だらけじゃないの。制服もぼろぼろになってるしぃ…」
「弥生ちゃん大丈夫?」
「舞子ちゃん、なんであたしこんなとこにいるの? 昨日からまるで記憶がないんだけど?」
「あのね、弥生ちゃんはね…」
弥生にこれまでのいきさつを説明してやろうとする舞子を佑奈は止めた。魔物にとりつかれていたなんて聞いても弥生には信じられないだろうし知らないほうがいいと思ったのだ。舞子もそれをくみ取り
「さぁ? 狐にでも化かされたんじゃないの?」
と舞子もごまかした。
「なんかすごく体がだるいんだけど」
「舞子ちゃん立てる? おうちまで送るね」
そう言うと舞子は弥生の肩を抱いて神社を後にした。
 二人の後ろを歩きながら弥生に代わって二代目弥生少女になった茜はニッコリ笑って佑奈に銅鐸を見せながら
「これでわたしくも佑奈お姉様と同じ術者になれましたのぉ」
とうれしそうに言った。なんてったって茜には手芸店で買ってきたプラスチックの勾玉で作ったニセモノの腕輪しかなかったのだから。

エピローグ


 保護された弥生はひどく衰弱していて村の医院にかつぎこまれた。佑奈との激しい斬り合いで全身擦り傷切り傷だらけになっていた。着ている制服もぼろぼろで暴行された疑いもありその点も調べられたが弥生の貞操は無事と判明した。弥生は点滴を打たれ入院したが若さゆえ回復も早く3日目の夕方には退院した。
 佑奈は村中が弥生に気をとられている隙にペンションに戻りシャワーを浴び全身の泥を落としぼろぼろになったパーカーやデニムミニスカートを着替えた。佑奈はこのパーカーがお気に入りだったのにもう着られないことが残念で仕方がなかった。佑奈も全身擦り傷切り傷だらけでシャワーが傷に染みた。佑奈は長袖のシャツと長ズボンに着替えて腕や足の傷を隠したのでさほど傷が目立つことはなかった。
 佑奈と茜、舞子は弥生発見のいきさつを警察に聞かれたが弥生が銅鐸に体を乗っ取られて妖術を使い結界を張りそこで佑奈と激しい斬り合いをしたなんて信じてもらえないだろうし、佑奈が傷害罪に問われかねないから茜・舞子と3人で口裏を合わせ中学校の帰りに3人で遊んでいて偶然神社の境内でぼろくずのようになった弥生が倒れているのを発見したことにした。回復後弥生は警察の事情聴取を受けたが銅鐸を手にして以降の記憶がまったくといってなかった。ナオ殺しについてもまるで覚えていなかったのは弥生にとって幸いであった。体を乗っ取られていたとはいえ自分の手が人を殺したことを覚えていたら弥生には耐えられなかったであろう。
 ナオ殺しについては佑奈犯行説が色濃かったが証拠はなくみだりに未成年の佑奈を勾留して取り調べるわにもゆかずついに捜査は迷宮入りした。
 風の噂によればその後舞子は吹奏楽部に入ったらしい。
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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その4

2007年05月31日 10時33分46秒 | 上月佑奈

第4章 山奥中学校吹奏楽部



 翌日4人の娘たちは約束通り山奥村立山奥中学校吹奏楽部を訪ねる。舞子は同じクラスの佐野仁美と約束していたのだ。舞子は学校に行くときは制服着用という決まりにならい紺のブレザーとジャンパースカートに白い丸襟ブラウスの制服を着ていた。佑奈たちは制服なんて持ってきていないから佑奈は灰色のパーカー、ピンクのロンT、デニムミニスカート。茜は灰色のカーディガン、水色のブラウス、緑のタータンチェックスカートという私立女子中学校の制服風の格好をしている。若葉は吹奏楽部に興味がないから別行動をとった。そして隠れる気もないようなあからさまな様子で刑事が二人佑奈を尾行してきた。もっともこんな人気の少ない山奥では人込みにまぎれるなんてできないからどんなにうまく尾行してもすぐに気付かれる。佑奈は
「何あの刑事、わざとらしくさりげないふりしちゃって」
「ほんとですの。佑奈お姉様が悪いことするはずなんてないのに」
と茜も怒っている。若葉が
「あんなに尾行がへたな刑事しかいないんじゃこの事件は迷宮入りね」
「そんな! 弥生ちゃんが行方不明なんですよ」
と舞子が非難するような目で若葉を見た。
「それにしても通学路にコンビニ1軒ないのねぇ」
と佑奈が妙なところに感心している。道端にさびたバス停が立っていて佑奈が時刻表を見る。
「茜すごいよぉ。バスが1日に6本しか走ってないよ。休日になると4本になっちゃう」
と本数の少なさに感心している。これだけ本数が少ないうえに整理券方式で運賃も海老名市に比べて高いゆえに舞子は浜松のような都会に出ることはめったになく、県都 静岡市に行ったのも小学校の遠足で行っただけだ。それでも舞子はそれが当たり前の生活をずっとしてきたから不便に感じたことはなかった。山奥村には高校がないので高校生たちは朝のバスで登校してゆき、夕方のバスで帰ってくるという規則正しい生活をしている。乗り遅れるようなことがあると遅刻が確定し親に車で送ってもらう事態になるから必然的にバス停に10分前から並んで待つ習慣が身に付いているのだ。

 山奥村立山奥中学校は過疎で各学年1クラスしかなく吹奏楽部は受験で3年生が抜けて1,2年生13人しかいなかった。街までゆくのに時間もお金も掛かるから吹奏楽コンクールに出たことはなく、主に学校行事と村祭りで演奏する程度の活動である。
 舞子が音楽室をノックして入ると吹奏楽部の面々は丁度<エルクンバンチェロ>を練習しているところであった。3人を歓迎するため山奥中学校吹奏楽部は<アルヴァマー序曲>を演奏してくれた。トランペットの元気な出だしにクラリネットの旋律、のびやかな金管の和音が印象に残る演奏であった。ついで<宝島>アゴーゴベルの音で始まり、金管のイントロ、木管のメロディ、アルトサックス女子が立ちソロを吹く。金管パートが間奏でスタンドプレイをした。力強い演奏に佑奈たちは手拍子でこたえる。演奏後に舞子が佑奈と茜の二人を海老名市立大塚中学校吹奏楽部でクラリネットを吹いていると紹介すると部員たちから「おぉーっ!」と声が上がる。二人を交えて海老名市立大塚中学校吹奏楽部のレパートリーでもある<エルクンバンチェロ>を演奏しようということになった。佑奈は予備のクラリネットを借り受けて音出しを始めた。茜はまだ入部したばかりでクラリネットを上手く吹けないからパーカッションの小物に回り、吹奏楽部とは縁もゆかりもないけれど舞子もマラカスで参加する。顧問の指揮で<エルクンバンチェロ>が演奏される。金管のイントロに続き1年生一人だけのフルートパートの繊細なる演奏、木管による主旋律が続く。佑奈も使い慣れないクラリネットではあったが楽しそうに演奏に参加する。最後は金管の音で力強く終わった。
「わぁーっ、楽しいーっ」
そう言うとクラリネットパートの末席に座っていた佑奈はクラリネットパートの二人とがっちり握手し、ひいては吹奏楽部13人全員と握手した。舞子も吹奏楽部で演奏したのはこれが始めてだけれどその楽しさに触れ
「あたし吹奏楽部に入ろうかしら」
と言っていた。それから3人は練習半分、部員とのおしゃべり半分で楽しい時を過ごし正午すぎに山奥中学校を後にした。

その5につづく
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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その3

2007年05月31日 10時31分11秒 | 上月佑奈

第3章 山奥村の惨劇



 夕食が済み食堂で娘たちがお茶を飲みながらおしゃべりに興じている頃ペンション<パンプキン>に静岡県警のパトカーがやってきた。中から本署の中村・三沢・花田3人の刑事が出てきて長谷川母娘と上月佑奈に任意で尋問したいと告げた。長谷川英子は
「いったい娘たちが何をしたというの?!」
と刑事に食ってかかるが中村は
「ちょっとお話しを伺うだけですから」
とひょうひょうとしている。
 この晩、山奥村に殺人事件が発生した。殺されたのは種村ナオ(85)で、代々この村の神社の神主を務めている家系の老婆だ。ナオは林の中で鋭利な刃物で袈裟掛けに斬られているのが村人により発見されていた。一手で惨殺する手際よさはかなりの手だれを連想させた。凶器は犯人が持ち去ったようで現場から発見されなかった。犯行の目撃者はいなかったが、昼間ペンション<パンプキン>に来た客の車を止めナオが口論していたのが別の村人により目撃されており、とりわけ名指しで非難されていた少女に刑事たちは強い関心を寄せていた。ちなみに犯行時ペンション<パンプキン>は夕食時で中尾家・長谷川家・上月佑奈はその頃全員が食堂で夕食を共にしていて相互にアリバイを確認できる状態であり、ペンション<パンプキン>から犯行現場へは車で20分はかかるので普通ならば中学生の娘たちは車を運転できないから容疑者から外されるところであるが上月佑奈にはナオに対して遺恨があるだろうから佑奈が無免許で車を運転したり共犯者に運転させて犯行現場を往復することも視野に入れて捜査している。
 中村と三沢はペンション<パンプキン>の一室を借りて上月佑奈を前にして事情聴取を始めた。
「今日君は被害者から疫病神みたいに言われてかなり腹を立てていたそうだね」
「たしかにあのお婆さんムカつくこと言ったから…」
「それで殺したんだね」
「えっ!」
「君がお婆さんを殺したんだよね」
「違います!」
「そうかなぁ、それが一番説得力あると思うんだけど…」
そこへ花田が入ってきて中村にメモを手渡す。中村は佑奈の尻尾をつかんだとばかりににやりとして目の色変え
「海老名署に君達の身元を照会したらおもしろいことを言ってきたよ」
「えっ?!」
「君は『古墳少女』なんだってねぇ。火を吹いたりできるそうじゃないか。妖術を使ったら離れた場所で殺人だってできるんだろうね」
「そんなことできるわけないじゃないですか!」
「それに君だけ家族でない」
「えっ!」
「なんで長谷川家の家族旅行にクラブの先輩とはいえ君が来ているのかい? 普通他人の家の家族旅行にはついてゆかないだろう」
「それは茜が無理に誘ったから…」
「妖術を使って誘うよう仕向けたのじゃないのか?!」
「そんなことするわけないでしょ! あたし本当は来たくなかったんだから」
「じゃあどうやって殺したんだ!」
「あたし何もやってない!」
「他にこんなことする奴はこの村にはいないんだ。お前しか考えられない」
「ひどい!」
佑奈は涙ぐんだ。
 中村は話題を変え一枚の写真を佑奈に見せた。昨日から行方不明の関口弥生の写真である。
「この子を知っているかね」
「誰、この子?」
「本当に知らないのかね」
「知りません」
刑事たちには本当に佑奈は知らないように見えた。しかし相手は古墳少女なので油断はしない。
「お前が殺してどこかに埋めたんだろ」
「はぁっ?! なんで会ったこともない子を殺して埋めるのよ」
「古墳少女ならそのくらい朝飯前だろ」
「信じらんない。それでも警察?!」
「いまここで二人を殺したことを認めたら自首してきたことにしてやるよ」
「だから殺してません」
「強情な子だな」
佑奈はこの刑事を殴ったろかと思ったけれどそんなことしたら警察署に連行する口実を相手に与えることになるからぐっとこらえた。刑事たちは佑奈を怒らせてボロを出させようとしたけれど佑奈はやってないから全くボロを出さなかった。警察は当初弥生がナオを殺して逃走したというシナリオで捜査していたが車の運転ができない弥生が村を出るにはバスに乗るか誰かの車に便乗するしかない。しかしバスにも乗っていないし誰も弥生を乗せたというものはいなかった。こんな山奥によそ者の車は滅多にこない。だからまだ弥生は村にいると考えるのが妥当だ。生死はともかくとして。
 しかしナオを殺害したのは弥生である。より正しく言えば弥生にとりついている物が弥生の体を使ってナオを殺したのだ。ナオは弥生の異変に気付いてその正体を見抜きそれを封印しようとしたけれど弥生に斬られたのだ。林の中で偶然弥生に出会ったナオは弥生の様子がおかしいことに一目で気付いていた。
「あんた弥生ちゃんじゃないぞよ?」
「フフフ、よく見破ったとほめてやろう。しかしそれがお前の命を縮めることになったな」
「弥生ちゃんにとりつきし妖かしの物よ。今すぐ退散せねば封印するぞよ」
「笑止」
ナオは御幣を構え祝詞を上げる。弥生は手にしていた銅鐸を銅矛に変形させると「やぁーっ!」と間合いを詰めてナオを袈裟掛けに斬る。ナオはよけることもできず一撃で斬り倒されてしまった。
 刑事は未成年ということもあり佑奈を警察署に連行はしなかったが、ペンション<パンプキン>の前にパトカーを止めて佑奈が逃亡を図らないよう刑事を張り込ませた。またこの場での保護者である英子には
「村を出るときは必ず警察に連絡するように」
と言い残した。
 「なんなの、あの刑事。すごくムカつくぅ」
上月佑奈はぶりぶり怒っている。話を聞いた長谷川茜も同様に怒って
「佑奈お姉様を疑うなんてどうかしてますわ。わたくしたちとずっと一緒にいましたのに」
「でも、種村のおばぁさんが殺されて関口弥生ちゃんも行方不明なんですって」
舞子がこわごわ言う。関口弥生は舞子にとってクラスメイトだから心配である。若葉がぽつりと言う。
「でもあの人が言った通りね」
「えっ?」
「若葉お姉様なんですの?」
「確かに殺されたあの人が言っていた通り人死にが出たわ」
「確かにそうですけど…」
佑奈は複雑な表情を見せた。若葉は
「でも自分が死ぬとはさすがにわからなかったみたいね」
と言って佑奈たちをギョッとさせた。さらに
「この村にまだ犯人が潜伏しているみたいだから一人では出歩かないようにしまょうね」
と言った。

その4につづく
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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その2

2007年05月31日 10時29分51秒 | 上月佑奈

第2章 楽しいドライブ



 11月23日の早朝、神奈川県海老名市大塚町の上月家の前に白いミニバンが止まる。長谷川茜の母 英子の車だ。後ろのドアが開き玄関前に出ていた上月佑奈に
「佑奈お姉様ぁーっ、おはようございますぅ!」
と長谷川茜が抱き付く。茜はよほど佑奈と旅行できるのが嬉しいらしい。英子と茜の実の姉 中学3年生の若葉も車から降りてくる。今日の茜はピンクのタートルネックのニットワンピースを着ているが、若葉もおそろいのミントグリーンのタートルネックのニットワンピースを着ている。佑奈はそれを見て中学生にもなって姉妹でおそろいなんて…と軽く引いた。茜の母 英子も白いジャケットに茶色のブラウス、花柄のロングスカートとばっちりおしゃれにファッション決まっていてこれからバカンスにゆきますという感じだ。それに引き換え佑奈は灰色のパーカー、黄色いちびT、デニムのハーフパンツといたって普段着で「うわーっ、失敗したぁーっ」と思ったが今更着替えに戻るわけにもゆかず困惑した。思えば毎朝上月家に茜が佑奈を起こしに来るけれど、茜の「一度お家に遊びにきて下さいの」という誘いを佑奈はずっと断っていて一度も行ったことがないから長谷川家の生活様式というものを全く知らなかったのだ。だから茜の実の姉 若葉とも一回しか話したことがない。その時の印象から佑奈は若葉には苦手意識を持っている。佑奈の母 順子と茜の母 英子は母親同士
「うちの佑奈がお世話を掛けます」
「いえいえうちの茜が佑奈ちゃんを無理言って誘ったそうで」
「とんでもない。いつも茜ちゃんが佑奈を起こしにきてくれるから佑奈が早く学校にゆくようになって本当に助かっているんですよ」
とよくありがちなやりとりの後順子は佑奈に向かい
「いい佑奈、長谷川さん家に迷惑掛けるようなことしないのよ。特に変な術は使わないようにね」
と釘を刺した。佑奈だってすき好んで術を使っているわけではないのだ。そう言われるとカチンとくる。佑奈は
「わかってます」
とふてくされたような返事をする。若葉が佑奈にそっと近付いてきて
「佑奈ちゃん、妹が無理を言ってごめんね。本当はいやいや付き合っているんだよね」
と耳元でささやいた。佑奈は核心をつかれて顔を引きつらせて黙り込むしかなかった。そしてそこまでわかっていたのなら茜に因果を含め言い聞かせ佑奈の参加を取り止めにしてほしかったと思った。若葉は佑奈に「無理して来なくてもいいよ」とは言ってくれず、佑奈は茜にせかされるようにして車に乗せられた。

 長谷川家のミニバンは厚木インターチェンジから東名高速に乗り西へ向かった。途中足柄サービスエリアで休憩し、車窓に富士山が見えてくると3人の娘たちは
「うわー、富士山だぁ」
と盛り上がる。後ろの席に並んですわった茜は車内で佑奈にお茶お菓子を次々出してかいがいしくもてなす。佑奈はいい加減お腹一杯になってきて閉口気味だ。若葉は助手席にすわり何かの本を一心不乱に読んでいて妹が佑奈にしつこくしているのに気付かぬ様子。佑奈は助けを求めるべく
「若葉先輩」
と声を掛ける。振り向いた若葉はにっこりほほ笑んで
「『若葉お姉様』と呼んでいいわよ」
と答えると佑奈は青くなって首を左右にぶんぶん振った。その様子を見て若葉はくすくすと笑った。やっぱりこの姉妹と旅行にゆくこと自体が間違いだったと佑奈は激しく後悔して黙り込んだ。
 富士川サービスエリアでレストランに入りに早めの昼食。佑奈がハンバーグセットにすると茜もそれに倣う。若葉はビーフシチューセット、英子はローストチキンセットを注文した。
「それにして富士山が見えてよかったわねぇ」
と若葉がいうと茜は
「きっと佑奈お姉様の御利益ですの」
と意味不明なことを言う。名前を出された佑奈はギョッとする。
「お母様、佑奈お姉様にもこのワンピースを買って差し上げればよかったですの。そうすれば『3姉妹』でおそろいになったのですの」
「そうね、うっかりしていわた」
と言う茜と英子を見て佑奈は『3姉妹』という言葉に嫌そうな顔をした。佑奈まで色違いのニットワンピースを着ているのを大塚中学校の生徒に見られた日にはどんな風に言われるかわからない。親友には歩く口コミとでもいうべきおしゃべりの高田瑞穂もいるのだ。瑞穂はきっと、佑奈が『長谷川家の養女になった』くらいのことを言いふらすに違いない。それだけは願い下げだ。若葉はそんな佑奈の反応を見てナプキンで口元を押さえながらくすくすと忍び笑いをしている。
 食後3人の娘たちはおみやげコーナーをのぞき
「これかわいーっ」
などと言いながら見て回っているが、これから出かける途中ゆえ何も買わない。ふたたび走り出した車は吉田インターチェンジで東名高速を降りて県道を山のほうに向かう。お腹がいっぱいになり3人の娘たちはぐーすか寝入っている。

 不意に車がキキーっと急ブレーキを掛けて止まる。3人の娘たちは飛び起きて
「お母様、一体何ですの?」
と茜が言う。そこは山奥村の入口で佑奈が前を見ると白髪の老婆が前に立ちふさがっていた。この老婆は種村ナオといい、村の神社の神主のようなことをしている家の老婆だ。そしてナオは佑奈が乗っている右後方の席にくると佑奈を指差し
「この娘は呪われているぞよ。村に入れば厄災を振りまくことになる。とっととこの場を去るぞよ」
「何を言うのですの! 佑奈お姉様は疫病神じゃありませんの!」
茜がムキになって反論する。佑奈はまだ何の術も使っていないうちからこの様な扱いを受け腹が立ったが長谷川家の手前ぐっとこらえていた。
「この娘が村に入れば人死にが出るぞよ。どうしてもゆくというのならそれを覚悟するぞよ」
と言うとぷいと姿を消した。
「いったいあのお婆さんは何ですの。佑奈お姉様に言いがかりをつけるなんて許せませんの!」
茜がぶりぶり怒っているのに母の英子が
「きっと頭がボケちゃっているのよ。かわいそうに」
となだめる。
「でもボケてるようには見えなかったけどなぁ」
と若葉が言うと佑奈は
「あの若葉先輩」
「なーに? 我が妹よ」
佑奈は若葉のボケにかまわず
「まさかこんな遠くにまで古墳少女の名がとどろいていたりしませんよね?」
「神奈川県でも全県にわたって顔が知れ渡っているわけじゃないんだから佑奈ちゃんが古墳少女だとわかる人はこの辺にいないと思うんだけど」
「そーですよね」
「ただ…」
「『ただ』なんですか?」
「ううん、何でもない
「言いかけてやめるなんて気になるじゃないですか。先輩教えて下さいよ」
「なら言うけど、あの人巫女さんみたいな格好していたじゃない」
「はい」
「だから佑奈ちゃんの腕輪が放つ力を感じとったのではないかと思ったの」
「まさかぁ」
「若葉がお姉様すご~い。やっぱり佑奈お姉様は偉大なんですのぉ」
と茜が感心している。若葉は続ける。
「しかし、あのお婆さんはまだ佑奈ちゃんが村に入っていないうちから存在を感知して佑奈ちゃんが術使いの古墳少女だとおそらく見抜いていたのでしょうからただものではないと思うけど」
そう言われると鋭い若葉の推理に佑奈は反論できない。
「ともかくこの村で術を使わない方がいいわ」
「はい、そうします」
佑奈の母みたいなことを若葉にまで言われて佑奈はしゅんとなった。また、えらいところへ連れてこられたとため息をついた。

 車はその後何の妨害にも会わず英子の高校時代の友人夫婦が経営するペンション<パンプキン>に到着した。名前にちなんでカボチャのイラストが看板に描いてある。英子は友人の中尾恵子に再開でき
「恵子、久しぶりぃ~」
と再会を喜んでいた。ペンション<パンプキン>は中尾恵子と夫の貴史が脱サラして始めたものである。夏は大学のテニスサークルなどの合宿で忙しいが秋から冬にかけては比較的暇なのだ。一人娘の舞子(中学1年生)も出てきて
「若葉お姉ちゃん、茜ちゃんお久し振りです。その方は?」
と佑奈を見て言う。茜が
「わたくしの佑奈お姉様ですのぉ~」
と言うので舞子は「???」となった。若葉が舞子にかいつまんで佑奈と茜の関係を説明したので納得したようだ。
「そうゆうことでしたらあたしも佑奈お姉様と呼ばせていただきますわぁ」
と舞子ににっこりとほほ笑まれ佑奈は二人目の妹ができたようでギョッとした。

 部屋割りは英子と若葉が202号室、佑奈と茜が201号室とした。佑奈としては茜と同室は勘弁願いたかったが英子か若葉とよりはましという消去法で従った。ビジネスホテルではないからペンションにシングルルームはない。舞子に案内されて佑奈は201号室を開ける。木のぬくもりあふれるおしゃれな室内に佑奈は
「わー、かわいいーっ」
とはしゃいだ。茜はそれを満足げに見ながら
「佑奈お姉様、気に入っていただけましたか?」
「うん」
「わたくしたちは毎年2~3回はこちらに来ておりますの」
「へぇー」
「これからは佑奈お姉様も毎回ご一緒くださいの」
「えーっ、それはちょっと…」
佑奈は引き気味だ。
「そうですの、来年の吹奏楽部の合宿はこちらでしましょう。それがいいですの」
茜は勝手にそう決めたがこのペンションには海老名市立大塚中学校吹奏楽部が全員泊まれるだけの部屋がないし、第一練習場がない。
「それはちょっと無理でしょう。お部屋の数が少ないし、練習場がないわよ」
昨夏佑奈も参加した(今年の夏はアメリカに行っていたので佑奈は合宿に不参加)海老名市立大塚中学校吹奏楽部の合宿は宿泊棟のほかに体育館兼用の練習場がありそこに大型打楽器を設営して朝から晩まで練習に励んだのだ。
「それは残念ですの」
茜は自説をとりさげた。
「でも佑奈お姉様とお二人でクラリネットパート有志の合宿ということなら…」
佑奈は頭が痛くなってきた。

 それから舞子も含めた4人の娘たちは部屋で七ならべやババ抜きといったトランプをして楽しんだ。普段は舞子もペンション<パンプキン>の手伝いをしている。しかし、なんとも商売っ気がないことだが今日からの三連休は長谷川家の貸し切りということで茜たちと遊んでもよいのだ。
「佑奈お姉様と茜ちゃんは吹奏楽部なんですかぁ。あたしのクラスにも吹奏楽部の子がいるんです。会ってやってくれませんか?」
「それは素晴らしいですの」
と茜は乗り気だが佑奈は知らない子と交流するのは面倒な感じがしてあまりそそられなかった。しかし舞子は
「じゃあ、ちょっと電話で約束してきます」
と部屋を出ていった。それからしばらくして舞子は明日の午前中に吹奏楽部の練習を見学することで話をつけてきたのでなりゆきで佑奈も行く事になった。

その3につづく
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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その1

2007年05月31日 10時27分06秒 | 上月佑奈

プロローグ



 静岡県山奥村。そこは40年ほど前までは林業が盛んで遠州鉄道の支線も木材輸送のために乗り入れていた程であったのだが今はすたれ、とうの昔に鉄道も廃線になり日に数本遠州鉄道のバスが走るさびれた村だ。そんな山奥村唯一の村立山奥中学校2年生の関口弥生は中学校の帰りに林の中にキラッと光るものを見つけた。普段ならそんなものはまるで気にしないのだがどうゆうわけかものすごく弥生は気になってそれを見たくなった。弥生は茂みをかき分けてそれに近付いていった。茂みの奥には白銀に輝く銅鐸が半分土に埋まった状態であった。
「これって歴史の時間に習った銅鐸よね。なんでこんなところにあるのかしら?」
弥生はそう思った。弥生には考古学の趣味はなかったが、無性にそれを手にしたくなった。制服が汚れるのもかまわずに地面に両膝をつき犬のように手で周りの土を掘る。夢中で土を掘ったため紺のブレザー・ジャンパースカートに白い丸襟ブラウスの制服はもう泥だらけだ。そして弥生は高さおよそ20cmの銅鐸を手にした。その瞬間
「ギャーッ」
と弥生は絶叫する。手にした銅鐸から邪悪なものが腕を伝って弥生の中に入り込んでくる。弥生は銅鐸を投げ捨てようと思ったが手に吸い付いたみたいに放すことができない。邪悪なものは弥生の全身をなめ回すようにかけめぐると徐々に肉体と精神を乗っ取っていった。もう弥生は全身の自由を失い膝立ちになっていることもできず意識を失いバッタリと地面に倒れた。
 それから少ししてむくりと起き上がり顔が泥だらけなのにもかまわず
「ついに復活の時が来たり」
と別人の口調で言う弥生の顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。

 そもそも銅鐸なるものは魏誌倭人伝の記すところの邪馬台国の女王 卑弥呼が行っていたとされる鬼道の系譜を引く魔神具であり、古代においては雨を降らせ豊穣をもたらせたり、敵を滅ぼすための武器となったものだ。
 弥生時代が終り古墳時代に入り遠江の地を平定した大和朝廷が派遣した役人によりこの銅鐸は村外れに厳重に埋葬し封印された。古事記や日本書記に銅鐸の記事が一切出てこないのも蛮族と見ていた弥生人の魔神具であり、被征服民の抵抗と制御し難いそれを使うことを恐れ封印したからだ。それゆえ全国的に見ても銅鐸の出土数はたかがしれており、多くは集落から離れた寂しい山中などで発見されている。その後この銅鐸のことはこの地の住人たちにすっかり忘れ去られていたのだが、先日の大雨で土砂が流出し封印施設も破壊されたため銅鐸はおよそ2000年ぶりに日の目を見て銅鐸に宿る邪悪なる意思も目覚めたのだ。銅鐸それ自体は力を行使することができない。憑代(よりしろ)となる肉体を必要としそれらの人がシャーマンとしてムラやクニを治め銅鐸の魔力を行使する媒体として活動していたのだ。本来なら神主や巫女の血筋の者が最適なのだが、とりあえずの憑代として銅鐸は通りすがりの女子中学生を選んだ。

【注】銅鐸が弥生人の魔神具で大和朝廷が厳重に埋葬・封印したというのは筆者の学説である。

第1章 茜のお誘い



 11月中旬の海老名市立大塚中学校2年2組の教室に1年3組の長谷川茜は姉の佑奈を訪ねてきていた。
「佑奈お姉様、今度の連休は何かご予定ありますの?」
「えっ、何もないけど」
姉の上月佑奈は物憂げに答えた。女子中学生の姉妹で名字が違うのは本当の姉妹ではなく茜が佑奈の押しかけ妹になっているからだ。男でいえば兄弟分というところだろうか。二人は大塚中学校吹奏楽部でクラリネットを吹いており、茜には若葉という本当の姉もいるのだが佑奈を姉と慕っている。茜はそれを聞いて満足そうに笑みを浮かべた。この年は勤労感謝の日が金曜日に当たり三連休になっていた。吹奏楽部の顧問は家族サービスのため九州に旅行へ行くとかで三連休には吹奏楽部の練習が一切なく部員一同大喜びしていた。
「それはよかったですの」
「何が『よかった』のよ?」
「わたくしこの連休に家族で旅行に参りますの」
「そう、それはよかったわねぇ」
佑奈は素っ気なく答える。
「佑奈お姉様も来て下さいの」
「えーっ。なんであたしまであんたん家の家族旅行にゆくのわけぇ?」
「いいじゃありませんの。わたくしたち姉妹なんですから何の不思議もないですわ」
「いやよ、あたし行かないから」
「そんなぁ、ご一緒できると楽しみにしておりましたのにぃ…」
みるみる茜の目に涙がたまってゆきひっくひっくとしゃくり上げている。これ以上佑奈が何か言い返したら茜はびーびー大泣きするに違いない。こんな子妹にするんじゃなかったと佑奈は激しく後悔した。
「茜ちゃんかわいそうに」
「予定がないんなら付き合ってあげればいいのに」
「『佑奈お姉様』って薄情よねぇ」
「上月さんってあんな後輩に冷たい子だとは思わなかったわぁ」
「ほんと見損なったわね」
「予定がないんならあたしだったら行くなぁ」
2年2組の女子たちがヒソヒソ話しているのが佑奈の耳にも入ってくる。男子たちも
「上月ってやな女だな」
「あぁ、いつも朝あの子に起こしにきてもらっているってのに旅行を断るなんて」
「ひでーなー」
「普通かわいい妹に頼まれたら多少無理してもつきあうよなぁ」
「あぁ、俺だったら迷わず行くな」
「茜ちゃんかわいいもんなぁ」
「なんだお前そうゆうことだったのか」
「『佑奈お姉様』に代わって俺が旅行に行こうかなぁ」
「うわーっ、茜ちゃん最大のピンチじゃん」
「『先輩がいいことしてあげるよぉーっ』って」
「そんなことしたら上月に殺されるぞ」
「ひぇーっ、こぇーっ」
と下世話な話をしている。困り果てた佑奈が親友の泉崎礼香に目をやると礼香はくすくすと忍び笑いをしている。そして目で佑奈に「行ってあげなさいよ」と語っている。礼香ならこの窮地を脱するいい知恵があるはずと信じたのに礼香まで茜の味方をするなんて…と佑奈は思った。佑奈は旅行の誘いを断っているだけなのになんだかものすごく茜に対して極悪非道な真似をしているような気になってきた。
「わかったから、旅行にゆくから、泣かないの」
と佑奈がヤケになって叫ぶと茜はパッと顔を輝かせ
「佑奈お姉様、本当ですの?」
「うん」
「わーい、わーい、嬉しいですのぉ~」
と普段おしとやかな茜がピョンピョン跳びはねて喜んでいるから相当嬉しいのだろう。それを見て佑奈はハメられたと思った。

 その翌日、佑奈は吹奏楽部の練習のあと茜に
「あのさ、旅行のことだけど…」
「早くその日が来ないかとわたくしカレンダーに印を付けて楽しみにしておりますのぉ」
と茜はにこにこしながら答える。そんな茜の様子を前にして「やっぱ不参加」とは佑奈は言えなくなってしまった。佑奈は内心焦った。早く茜に断りを入れないと本当に長谷川家の家族旅行にゆくことになってしまう。佑奈としてはそれだけはなんとしても避けたい。今日こそは断るぞ!と佑奈はそれから毎日思っているのだけれど茜の楽しみな様子を前にすると何も言えなくなってしまう。そうして佑奈がぐずぐずしている間に旅行当日を迎えた。

その2につづく
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長谷川茜を描く

2007年05月20日 16時35分53秒 | 上月佑奈
今日は拙著 古墳少女シリーズに登場する長谷川茜ちゃんが銅矛を構える姿の絵を描きました。
本人が見たらきっと
「うれしいですのぉ~」
と言って喜ぶであろう出来映えです。

銅矛というのはまだ未発表の古墳少女 佑奈5に登場する弥生時代の魔神具です。
その銅矛が長谷川茜ちゃんにどうかかわるのかはまだ内緒です。
古墳少女 佑奈5は近日公開の予定です。
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古墳少女佑奈4を読む際は

2006年10月14日 23時59分06秒 | 上月佑奈
古墳少女佑奈4 その1は下記にありますのでそちらから読み始めて下さいね。

古墳少女佑奈4 その1を読む。
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古墳少女佑奈4  その13

2006年09月27日 16時30分17秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その13

第13章 亀山の奇跡

 古墳少女である上月佑奈を本国に拉致しようと命知らずなことを考えた国がある。それが Φ国だ。総統の命令をうけた情報員9人が大塚町に潜入していた。 Φ国と日本ではあまり人種的に違わないのでかすかに Φ国なまりの見られる日本語を気にしなければ彼等は十分に日本人で通っただろう。大塚町の住人も彼等をまったく不審に思っていなかった。9人は入国に先駆けて佑奈の身辺を調査していた調査班から古墳少女 上月佑奈についての詳細なレポートを受け取りそのすべてを頭に入れていた。
「おい、古墳ガールの帰宅ルートに間違いはないんだろうな」
「調査班の報告によればこの道で大丈夫であります」
実行部隊は佑奈が下校次第作戦実行の手筈を整えていた。前方後円墳である大塚亀山古墳の墳裾(古墳の丘のふもとのこと)部の道で古墳ガールを挟み撃ちにして捕獲する作戦だ。そこに無線が入る。
「247から714へ」
「714だ」
「古墳ガールがスクールから出てきました。少し写真と違う印象ですがどうしましょう?」
「714了解。写真の印象なんて撮り方によって違うものだ。ましてや相手は外国人だ。勾玉の腕輪をしているかを確認しろ」
「247了解」
少し間を置いて247から返事がくる。
「こちら247。この女子生徒は左手首に勾玉の腕輪をしています。よって古墳ガールと特定」
「714了解。そのまま監視を続けろ」
「247了解」
「こちら714、各員へ。古墳ガールが動いた。手筈通り行動されたし」
「811了解」
「935了解」…
と各情報員から返事がきて上月佑奈と、勾玉の腕輪をして髪形もそっくりで同じセーラー服を着た長谷川茜を取り違えたまま古墳ガール捕獲作戦がスタートした。調査班の報告書に長谷川茜についての記事と写真ももちろん載っていたが茜の写真は髪をバッサリと切る前の物でまるで印象が異なり勾玉の腕輪をしていることもあって Φ国の情報員247号は茜を完全に佑奈と誤認してしまったのだ。

 長谷川茜はそんな謀略が巡らされていることになど気付かぬまま校門を出て大塚亀山古墳に向かった。茜は後円部の墳裾を回り込んで大塚町の自宅に帰るのだ。それを935と325が後を付けてゆく。後円部を半分くらい回り込んだところで714以下4人の目付きの悪い男達が道をふさいだ。
「おい、古墳ガール。我々と一緒に本国まで来い」
最初は変質者かと思ったが古墳ガールと言われてすっかり佑奈になりきっている茜は佑奈に間違われたとはまったく思っておらず、この男達は古墳少女の長谷川茜を拉致しにきたものだと思った。
「いっ、いやですの」
と言いもと来た道を学校へ戻ろうとすると325たち別の男5人が茜の退路を断っていた。茜は絶体絶命のピンチになったとわかった。
「もうお前は袋の鼠だ。おとなしくついてこい」
「いやぁーっ」
上品な長谷川茜とは思えないようなはしたない声を出し茜は大塚亀山古墳の墳丘(古墳の丘のこと)をかけ上がり始めた。走るのに邪魔なので茜は大塚中学校のスポーツバッグを投げ捨てる。校則通り膝下5cmのスカートが走りにくい。大塚亀山古墳の墳丘は割合と急斜面でこの1500年の間に生えた雑木林の木々の根が張り出していて最初優勢だった茜はけつまづいて転んでしまった。その間に情報員9人が茜を包囲するかのごとく短刀を抜いて油断なく墳裾側から近寄っていく。情報員たちは
「さぁ追い詰めたぞ。古墳ガール、おとなしくしろ。抵抗するなら薬で眠らせるぞ」
「捕獲のため少しくらい傷つけてもいいと命令されている。ケガをしたくなかったらいい子にしな」
「おじさんたちと楽しい海外旅行に行こうね」
とすごむ。茜は怖くて腰が抜けもはや立ち上がる気力もない。
「ひっ、ひっ…」
と恐怖に声も出ない様子で茜にはもう為すすべもなく、最後の力をふりしぼって
「佑奈お姉様、たすけてぇーっ!」
と絶叫した。

 その時上月佑奈は海老名市立大塚中学校の音楽室で吹奏楽部の練習に出て<プスタ>の合奏をしていた。クラリネットが主旋律を奏でている最中に呪文を詠唱し結印したわけでもないのに千里眼の術が発動して大塚亀山古墳の墳丘で短刀を手にした外国の情報員たちが長谷川茜を追いかけ転んだ茜を包囲して追い詰めている様子が見えた。これがCIAの連絡係の女子高生が言っていた Φ国の情報員か。情報員たちが古墳ガールと言っているのでどうやら髪形を同じにして勾玉の腕輪をした茜を佑奈と取り違えたようだ。 Φ国の情報員は長谷川って子じゃなかったんだ! 合奏中にもかかわらず佑奈はがばっと立ち上がると
「先生、あたし亀山へ行ってきます」
と言う。演奏がストップする。いきさつを知らない他の部員たちが呆然と佑奈を見ている。佑奈はイスの上にクラリネットを置き一目散に駆け出した。
「ちょっと上月さん、待ちなさい合奏中よ…」
という部長の声も耳に入らなかった。佑奈は
「あたしと似たような格好するからよ。まったくもぉ」
と言いながら昇降口で佑奈は上履きを白スニーカーに履き替えて校門を出て大塚亀山古墳へ全力で走った。

 佑奈が大塚亀山古墳の後円部の墳丘に着くとすでに戦いは済んでいた。墳丘の木々が十数本バチバチと燃えていたので佑奈は呪文を詠唱し結印して水流(すいる)の術を発動してウルトラマンのウルトラ水流のように手から水を放ち燃える木々を鎮火させた。状況が沈静化すると大塚亀山古墳が佑奈にそれまであったことを映像にして伝えてきた。

  Φ国情報員たちに挟み撃ちにあい、墳丘をかけ上がってきた茜は木の根にけつまづいて転んでしまう。その間に情報員たちに包囲され絶体絶命のピンチにいたり茜は
「佑奈お姉様、たすけてぇーっ!」
と絶叫した。すると茜の佑奈への強い思いに大塚亀山古墳がこたえて茜に力を与え、茜が知るはずもない古代日本語の呪文を無意識に詠唱し始め正しく結印を行う。佑奈はこれって真火の術じゃないのと思っていると茜のニセモノの腕輪を媒介し真火の術が発動する。炎が噴き出し一瞬にして Φ国情報員たちは焼失してしまい、墳丘の木々にも火の手が上がった。術の発動で膨大なエネルギーが流れたため茜のニセモノの腕輪は砕け散り、茜の体も反動で2mふっ飛んで木の幹にぶつかり気絶した。
 我に返った佑奈は茜の体を抱きかかえ
「ごめんね。あたしに間違われたばっかりに…」
と涙を流した。

エピローグ

 この事件をきっかけに佑奈は茜を妹と認めてやった。茜が Φ国情報員たちに襲われ古代日本語の呪文を詠唱し結印して真火の術を発動する様子を1年生の女子生徒3人組が墳裾を通る道から遠巻きにおそるおそる見ていたのだ。だから1年3組の長谷川茜が本物の古墳少女2号であった!という情報が瞬く間に海老名市立大塚中学校の全生徒に知れ渡った。その伝達に1年3組の石田莉奈と2年1組のおしゃべり好きな高田瑞穂がおおいに貢献したのは言うまでもない。
 長谷川茜は毎朝佑奈を堂々と家まで迎えに行けるようになり楽しげに佑奈と登校している。茜はふたたび手芸店でプラスチックの勾玉を買ってきて新たに作った佑奈のとそっくりな腕輪を手首に着けている。佑奈の妹として認められた茜も吹奏楽部に入り佑奈からクラリネットの奏法の特訓を毎日受けている。今朝も茜の
佑奈お姉様、早く起きて下さい。朝練に遅れますわ
という声が大塚町に響いた。

あとがきという名の言い訳

 古墳少女 佑奈4がついに完成しました。上月佑奈、泉崎礼香、高田瑞穂+古谷の主人公4人組はすべて同学年(本作では中学2年生)で上下関係がないので後輩を登場させたかったのです。古墳少女 佑奈1と2の間に入るエピソードを書いてばかりいたのでようやく4を書くことができました。古墳少女 佑奈5の構想もすでに練っています。
 長谷川茜という少女は泉崎礼香以上に上品な少女に設定しました。上月佑奈、泉崎礼香、高田瑞穂は自分を『あたし』と言うのに対して長谷川茜は『わたくし』で語尾も『~ですの』『~ですわ』となっています。海老名市立中学校よりも私立女子中学校に似合いそうな少女です。茜の過去は明らかではありませんがもしかしたら何らかの事情で私立女子中学校から大塚中学校に転入してきたのかもしれませんね。

 さて、小説を書いていると太宰治がなぜに玉川上水に身を投げたのかがよくわかります。イメージをエピソードで語るというのは簡単そうに見えてなかなか難しいのです。古墳少女 佑奈4は筆者の頭の中ではもっとおもしろい冒険活劇だったのですが、筆者にイメージをエピソードで語る文才がないためにこの程度の作品になってしまいました。
長谷川茜ちん ゴメンね。
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古墳少女佑奈4  その12

2006年09月27日 16時00分37秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その12

第12章 忍び寄る影

 Φ国の情報員が海老名市大塚町に潜入し古墳少女拉致のために大塚中学校の上月佑奈の周辺を人知れず嗅ぎ回っていた。佑奈の行動パターンや交遊関係、行動範囲などを尾行や張り込みをして調べ写真に撮っていた。また神奈川県海老名市大塚町周辺の地理や風土、風習、交通機関などについて綿密な調査がなされていた。留守中に上月家に侵入して佑奈の部屋を中心に家探しして本人に気付かれぬようきちんと元通りにもどして去っていた。もっとも女子中学生の部屋を捜索したところで大したものは出ないのだが。佑奈はCIAのエージェントであるが最近長谷川茜がしつこくつきまとうのに辟易し注意が散漫になっていたため Φ国の情報員の存在にまったく気付いていなかった。勘の鋭い泉崎礼香でさえもプロの情報員の仕事には無力だった。

 ある日の下校途中、佑奈が泉崎礼香と高田瑞穂と別れ一人で自宅に向かっている途中で白いブラウスの上に灰色のセーターを着て真っ赤なリボンをゆるくつけ膝上10cmに短く切った紺のプリーツスカート、紺ハイソックス、黒ローファーのどこにでもいそうな茶髪の女子高生に声を掛けられた。
「あのう、上月さん」
「はい?」
「カンパニーからの伝言です」
カンパニーと言われて佑奈ははっとした。カンパニーといっても女子中学生の佑奈がどこかの会社でOLをしている訳ではない。CIAをさす暗号である。カンパニーということはこの女子高生もCIAのエージェントということか。
「『 Φ国の同業者が大塚町に出店予定です。気をつけられよ』とのことです」
「えっ? えっ?」
佑奈が飲み込めないのにかまわずその女子高生は
「それじゃあ佑奈ちゃん、またねぇ」
とお友達のように親しげな口調で去っていった。これなら Φ国の情報員が見張っていてもお友達の女子高生と佑奈がおしゃべりしていたようにしか見えない。どこにでもいそうな茶髪の女子高生だから Φ国の情報員がこの子を見つけ出そうとしても同じような格好の女子高生は神奈川県だけでも何千人といるので不可能だろう。一人その場に残された佑奈は考える。もしかして Φ国の同業者って1年生の長谷川茜ではないだろうか? ただの中学生と思っていたけどもしかして…と考えると茜の行動のすべてが怪しく見えてくる。やたらとなれなれしく佑奈につきまとってくるし、偽の勾玉の腕輪を自作するなど茜は佑奈の腕輪への関心が強い。茜の目的は佑奈の腕輪の奪取か?! そういや先日も何者かに殺気むき出しで後をつけられたっけ。これもあの長谷川って1年生の仕業に違いない(佑奈の勘は間違ってはいないが動機は全然違う)。長谷川茜は2学期から海老名市立大塚中学校に転入してきたという。佑奈がアメリカ留学から帰るのを待って行動を起こすため大塚中学校に前もって潜入していたのか?!とも考えられる。一体茜は Φ国とどうゆう関係なのか? まさか Φ国人ではあるまい。長谷川茜という名前も本名なのだろうか?  Φ国の情報員なら戸籍や住民票くらい簡単に偽造できるだろう。もしかしたら大塚中学校に偽の長谷川茜を潜入させるためにどこかの中学校に通っていた本物の長谷川茜が消されたのかもしれない。家族もろとも消してしまえばすぐには発覚しまい。いま大塚中学校にいる長谷川茜という少女の中学1年生とは思えない上品すぎる物腰も不自然だ。自分を佑奈に印象づけるためのものとしか思えない。無邪気に「佑奈お姉様」とつきまとってくる茜が Φ国の情報員だったなんて、佑奈は愕然とした。今度茜が現れたらその辺締め上げて白状させようと佑奈は思った。

第13章 亀山の奇跡
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古墳少女佑奈4  その11

2006年09月21日 14時17分58秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その11

第11章 茜の変身

 それから茜は佑奈に寄り付かなくなった。佑奈は安心して吹奏楽部の練習に打ち込んでいた。しかし茜は決してあきらめたわけではなかった。
 まず茜は美容室に行き背中まで届く長い黒髪をばっさりと切ってもらい佑奈と同じ肩に届く程度にした。そして手芸店にゆきプラスチックでできた勾玉を買ってきて佑奈の腕輪とそっくりなものを約1時間でこしらえた。茜は佑奈が自分を妹と認めてくれないのは茜が古墳少女ではないからだ。なので形だけでもそっくりまねれば術は使えなくとも認めてくれるのではないだろうか?と考えた。茜と佑奈の身長や体格はほぼ同じなので大塚中学校のセーラー服を着たら後ろ姿を見ただけでは泉崎礼香や高田瑞穂でも上月佑奈と長谷川茜の見分けがつかないだろう。茜は古墳少女になった自分の姿を見て
「佑奈お姉様とそっくり」
と一人悦に入った。

 次の日茜が一人で学校に行くと親友の石田莉奈が目を丸くした。
「どうしたの茜ちん。何かあったの?!」
「いいえ、佑奈お姉様と同じにしてみましたの」
とセーラー服の袖口をまくり手製の勾玉の腕輪を見せた。
「えっ! それって術を使えるの?」
「プラスチックでできたニセモノだからそれは無理なの」
「なんだ、茜ちんまで古墳少女になったのかと思ってびっくりしたわ」
話を聞きつけた1年3組のお友達も茜と莉奈の周りに寄ってきて
「えっ! 長谷川さんも古墳少女だったの!」
「うそぉ、術使えるの?!」
「火を吹くんでしょ」
「違うの。これはニセモノなの」
「なんだびっくりしたぁ」
「ほんと」
「古墳少女が二人もいたら困るよね」
「うんうん」
「でもなんで? 長谷川さんが古墳少女のマネするの」
「だって、佑奈お姉様カッコいいじゃないですか」
「『佑奈お姉様』ぁ!」
1年3組一同絶句した。

 放課後、茜が昇降口に向かっていると生活指導の佐藤先生に呼び止められた。
「おい、長谷川」
「先生何ですの?」
「なんだ、その腕輪は。まるで古墳少女じゃないか」
「そうです。わたくしも古墳少女なんですの」
「うそつくな。お前に上月のような術が使えるわけないだろ」
「じゃあこの学校を一瞬で火の海にしてみましょうか?」
自信を持って茜が結印に入ろうとする。もちろんこれは茜のはったりである。もしも茜にそんなことができたら耐火障壁を張ることのできる古墳少女の上月佑奈しか焼け残らない。
「まっ、待て。やめろ。それはまずい」
あわてて佐藤先生が茜を止める。まさかとは思ったが茜があまりにも堂々としているのですっかり佐藤は信じてしまった。それに満足げな笑みを見せると
「それでは先生ごきげんよう」
と悠然と茜は去ってゆく。腕輪を没収して反省文50枚を言い渡そうと考えていた佐藤はすっかり毒気を抜かれ呆然と立ち尽くしていた。

*** 茜の日記 *************

今日学校でみなさんからわたくしも古墳少女みたいだと
言っていただいたの。
佐藤先生にも術が使えるものと信じていただいたわ。
これなら佑奈お姉様もきっと妹と認めて下さるはず。

**********************

 その翌日1年3組の教室に噂を聞きつけた上月佑奈がやってきた。まなじりをつり上げかなり怒っているようだ。茜は立上がり佑奈に一礼すると
「これは佑奈お姉様。わざわざお越しいただけるなん…」
「ちょっと、あんた。どーゆーつもりよ!」
「はっ?」
「『はっ?』じゃないでしょ!」
「佑奈お姉様、何を怒ってらっしゃるの?」
「その腕輪よ。腕輪」
「あぁ、これですの。佑奈お姉様とおそろいにしようと思いまして手芸店でプラスチックの勾玉を買ってきて作りましたの。よくできてますでしょ?」
「やめてよぉ~。ただでさえ『今日は妹さんと一緒じゃないの?』ってみんなにからかわれてるんだから。髪形まであたしとおんなじにしてぇ」
「佑奈お姉様と同じにすることてわたしくも佑奈お姉様に一歩でも近付いてゆきたいと思ってますの」
「近付いてこなくていいから。腕輪はやめて!」
「えぇーっ。1時間も掛けて作りましたのに」
「何時間掛かろうとあたしの知ったこっちゃないわ。恥ずかしいからマネしないでよね」
「まぁまぁ、上月姉妹でケンカはよしなさいよ」
「礼香!」
そこへ泉崎礼香が現れた。礼香は佑奈が剣呑な様子で2年2組の教室を飛び出して行ったから様子を見にきたのだ。
「礼香、『上月姉妹』なんて言わないでよ。あたしこの子の姉じゃないんだから」
「1年生相手にムキになるのは大人気ないわよ。『佑奈お姉様』」
礼香が茜の口調をマネして佑奈を諭す。
「礼香までやめてよぉ」
「ひとまずここは2年2組に帰りましょ」
そう言われて佑奈も来たときの勢いを失い帰らざるを得なかった。
 そのとき礼香が揶揄の意味を込めて言った『上月姉妹』が佑奈と茜の総称となり全校生徒に広まった。2年生の男子に
「あっ、『上月姉妹のお姉様』だ」
とからかわれたので機嫌の悪かった佑奈はグーでパンチしてやった。(もちろん手加減してであるが…)なので2年生には面と向かって佑奈に『上月姉妹のお姉様』と呼ぶ者はいなくなった。茜は莉奈から
『上月姉妹の妹さん』
とか
『上月茜ちん』」
と呼ばれご機嫌であった。お友達にまわす手紙など非公式の文書には『上月茜』と署名すらしていたから1年生の間では広く『上月茜』の名が通っていた。

*** 茜の日記 *************

今日学校で佑奈お姉様からまねをしないよう怒られたの。
でもクラスのみんなは古墳少女みたいだと言ってくれたわ。
泉崎先輩に『上月姉妹』と呼んでいただいて
とてもうれしかったわ。これからも
佑奈お姉様に妹と認めてもらえるようがんばろうと思うの。

**********************

 いよいよ感動のクライマックス 第12章 忍び寄る影
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古墳少女佑奈4  その10

2006年09月21日 14時16分12秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その10

第10章 茜の訪問

 「あら茜ちゃん」
大塚商店街に買い物に来ていた上月佑奈の母 順子は一人で下校する長谷川茜に気付いて声を掛けた。
「あっ、佑奈お姉様のお母様こんにちは」
と上品に深々と頭を下げあいさつする。
「今帰りなの」
「はい、そうです」
「よかったらうちへ寄っていかない?」
「わーっ、いいんですかぁ」
茜は目を輝かせて喜んだ。
「ぜひいらっしゃいな」
「はい、お供します」
と順子と茜は連れ立って上月家に向かう。
 上月家の玄関で茜はきちんと爪先をそろえて通学用の白スニーカーを脱ぎ
「失礼いたします」
と上がる。順子は初めて茜をゆっくり観察し泉崎礼香のようにじつに上品でしつけがしっかりとなされていると感じた。そしてなんでこんな子が佑奈みたいなドジで落ち着きのない娘を慕うのかが理解できなかった。
「茜ちゃんはオレンジジュースでいいのかな?」
「あっ、はい」
という短いやりとりの後順子はオレンジジュースのコップとクッキーの入った菓子器を茜の前に出した。
「いただきます」
と言った後茜はストローを使って上品にジュースを飲む。順子はきっとこの子はラッパ飲みなんて絶対にしないんだろうなと思った。また実の娘ながら佑奈とつきあうことで悪くならなければいいがと心配した。
「茜ちゃん家はここから近いの?」
「はい、うちも大塚町なんで歩いて3~4分です」
「そうなんだあ。毎朝佑奈を迎えにきてくれてありがとね」
「いえ、佑奈お姉様はご迷惑に思ってらっしゃるみたいなんですが…」
「そんなことないのよ。茜ちゃんのお陰で佑奈は毎朝走らなくても遅刻しない時間に学校にゆくようになったんだから。ほんと茜ちゃんには感謝しているわ」
「そんな、お母様…」
茜は感無量という表情で順子を見た。
 そこへ吹奏楽部の練習を終えた佑奈が帰ってきた。自分の物ではない白スニーカーが玄関にあるので高田瑞穂でも来てんのかな?と思いつつ居間にゆくと長谷川茜がいたので佑奈はギョッとした。
「なんであんたがあたしの家にいるのよ! 今日は姿が見えないから安心してたのにぃ」
佑奈はまなじりを吊り上げて茜をなじる。順子が
「大塚商店街で見掛けたからあたしが連れてきたのよ」
「なんでお母さんまでその子の味方するわけ? 信じらんない」
「いいじゃないの。佑奈を慕って来てくれてるんだから」
「あたしあなたのことを妹と認めてないから」
「そんな言い方することないでしょ」
佑奈は冷たく茜に言い放つと二階にある自分の部屋に上がっていった。
「佑奈お姉様ごめんなさい」
とだけ言うと茜は泣きながら上月家を飛び出していった。

*** 茜の日記 *************

今日佑奈お姉様のお母様に大塚商店街でお声を掛けていただいたの。
そしてお家にお招きいただいたの。
後から帰ってきた佑奈お姉様はなぜかとても
ご機嫌悪くておこられちゃったわ。

**********************


第11章 茜の変身
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古墳少女佑奈4  その9

2006年09月21日 14時10分11秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その9

第9章 茜のお迎え

 その翌日長谷川茜は思い詰めた表情で学校に向かった。母親の美幸は家が方向違うけど石田莉奈に迎えにきてもらえばよかったかなと思った。思い詰めた茜が自殺などしなければよいがと心配でならなかった。

  「ピンポ~ン」
海老名市大塚町の上月家のチャイムが鳴る。佑奈の母親の順子がドアを開けると大塚中学校のセーラー服を着た初めて見る少女が立っていた。
「あっ、あのっ、わたくし大塚中学校1年3組の長谷川茜と言います。佑奈お姉様、いえっ、上月先輩と一緒に登校したくて参りました」
とだけ言うと茜は真っ赤になってうつむいた。順子は
「ちょっと待っててね」
と言うと佑奈を二階の部屋まで呼びにいった。順子が部屋にゆくと佑奈はまだグースカピーと寝息を立てて寝ていた。
「ほら、佑奈起きなさい。長谷川って子が迎えにきてるわよ」
「長谷川ぁ?! そんな約束してないわよ」
「いいから早く学校行きなさい」
と無理やり寝床から追い出され学校へと追い立てられて佑奈はひどく不機嫌だった。茜は何も言わずに佑奈の後ろを黙ってついてゆく。
「なんで家までくるの?!」
「あんたストーカー?!」
「あんたを妹にする気などないからね!」
「もう家まで来ないで!」
と頭にきた佑奈は一方的に言いたい放題だ。
「今度来たら術を使うからね!」
と佑奈はセーラー服の袖口をまくって勾玉の腕輪を茜に見せた。茜は佑奈が術を使うところをまだ見たことがなかったのでその恐ろしさを実感できず、佑奈が自分にだけこっそり宝物の腕輪を見せてくれたものと勘違いして
「うわぁーっ、これが佑奈お姉様ご自慢の腕輪なんですねぇ」
と目を輝かせる。
「だからあたしはあんたの『お姉様』じゃないんだからその呼び方やめてよ」
「いいじゃありませんの、お姉様。佑奈お姉様のほうが年上でらっしゃるし、わたくし佑奈お姉様を始めてお見掛けしたときからずっと『佑奈お姉様』ってお呼びしていましたのよ」
自分の知らない間も茜がずっと自分のことを『佑奈お姉様』と呼んでいたことを聞かされて佑奈はゾッとした。
 二人は黙ったまま大塚中学校に着いた。佑奈のクラスメイトの小山牧子がやってきて
「佑奈おはよーっ。今朝は妹さんも一緒なのね」
と茜を見ていう。
「だから、妹じゃないの!」
と佑奈がムキになって反論すると
「あら愛人だったの?」
「マキ!」
と佑奈が怒ると
「じゃあ先行ってるねぇ」
と牧子は逃げていった。他のクラスメイトも同様に佑奈と茜のアベック登校を冷やかす。茜は佑奈お姉様の妹としてみんなが認めてくれて嬉しかったが、佑奈は茜と姉妹扱いされて頭に来ていた。男子たちも
「見ろよ、上月姉妹が二人一緒に登校してるぞ」
「上月って古谷という彼氏がいるのに1年生女子に手を出すとはあいつは両刀使いか?」
「いや、1年生のほうから言い寄ったらしいぞ」
「あの二人の関係ってレズか?」
「上月の方は嫌がっているから1年生が一方的につきまとっているそうだ」
「あの1年生はストーカーだったのか。あんなにかわいいのに」
「まったく」
「妖術使いの古墳少女のどこがいいのやら」
「きっとあの1年生は魔法使いにでもあこがれているんじゃないのか」
「なるほどねぇー」
 茜は2年生の昇降口のそばまで佑奈についてきて
「佑奈お姉様、いってらっしゃいませ」
と上品に頭を下げ佑奈を見送ったけれど佑奈はそれに何も答えなかった。

 2年2組の教室に入るなり先に来ていた泉崎礼香に佑奈は
「もーいや。あの長谷川って子、朝からあたしの家にまで迎えに来るんだよ」
「よかったじゃないの。いつも遅刻ぎりぎりの佑奈がこんなに早く来られたんだから。あたしから毎朝佑奈を迎えにゆくよう頼んでおこうかしら」
「ちょっと、礼香やめてよね。学校のみんなして『かわいい妹さんですね』って冷やかすんだから」
「下級生の面倒を見るのも上級生の務めよ。もっともこの場合佑奈が面倒見られているわけだけど」
「あたし明日はうんと早起きしてあの子が来る前に家を出るんだから」

*** 茜の日記 *************

 今日は佑奈お姉様をお家までお迎えにいったの。
寝起きだからか佑奈お姉様はとても不機嫌だったわ。
でも佑奈お姉様ご自慢の腕輪をわたしくにだけ
こっそりと見せて下さりとても嬉しかったわ。

**********************

 翌朝佑奈はがんばってうんと早起きして身支度を整え茜が来ないうちにと大急ぎで家を出るべく玄関のドアを開けるとびっくりした顔で茜が立っていた。
「佑奈お姉様おはようございます。今朝はお早いんですね」
「なんでこんな早くからいるのよぉ」
と佑奈はその場にへたりこみたい気分であった。
「昨日もこの位の時間に参りましたけど」
単に昨日は茜が来てから佑奈が起きて身支度していたので出るのが遅かったというだけのことだ。しかし佑奈にしてみればせっかくの早起き大作戦の裏をかかれたような気がして気分悪かった。佑奈は昨日茜に悪態の限りを尽くしたのでもう何も言う事が思い付かなかったので無言で学校に向かう。茜は黙ってその後をついてゆく。
 しかし、不意に佑奈が全力で走り始めた。茜は
「あ~ん、佑奈お姉様待ってぇー」
と追いかけるが完全に出遅れたのでアッという間に大きく差を付けられた。茜は必死で佑奈を追ったけれど佑奈を見失ってしまった。佑奈は近くの駐車場に飛び込んで止めてあるワンボックスカーの後ろにしゃがんで隠れていたのだ。茜が
「佑奈お姉様どこですのぉ~」
と大きな声で叫びながら町内を捜し回るのを佑奈はみっともないから大声で『佑奈お姉様』と言わないでくれぇと思った。付近から茜の気配が消えたので佑奈は安心して大塚中学校に向かった。
 しかし大塚中学校の門前でニコニコしながら茜が佑奈のことを待っていたのである。
「佑奈お姉様遅かったですわね」
「なんであんたがここにいるのよ」
「わたくしも大塚中学校の生徒ですわ」
そう言い返されて佑奈は何も反論できなかった。佑奈は重大な思い違いをしていた。佑奈も茜も目的地は大塚中学校なのだからまんまと途中で茜をまいたとしても大塚中学校で待っていられれば何の意味もないのである。佑奈は天を仰ぎがっくりと膝をついた。

 その日早朝に話は戻る。家を出る長谷川茜に少し遅れて大塚中学校のセーラー服を着た女子生徒が一人歩いていく。長谷川茜の姉で中学3年生になる長谷川若葉である。若葉が中学3年生になって塾通いであまり茜にかまってやれなっているうちに最近茜の様子がおかしいことに気付いた。お姉ちゃん子でいつも若葉にべったりだった茜がきちんと登校しているもののクラブ活動をしているわけでもないのに朝早くから出かけるようになり、帰ってくるのも遅くなった。何か茜が姉に隠れてこそこそしている。だから若葉はそれを確かめるべく茜の後をつけたのだ。茜は大塚中学校には直行せず大塚町の上月佑奈の家に寄るではないか。クラブ活動をしていない茜と2年生の佑奈の接点はないはず。しかも明らかに嫌がっている佑奈に茜がストーカーのようにまとわりついている。少なからず若葉はショックを受けた。自分が受験でかまってやれなくなってせいで妹がストーカーまがいのことをしているなんて。若葉が呆然と立ち尽くしているうちに二人の姿は消えていた。

 昼休み、2年2組の教室に一人の3年生女子生徒が入ってくる。そして泉崎礼香とおしゃべりをしている上月佑奈の前に来て
「あの、上月さん」
「はいっ」
吹奏楽部の先輩てもない3年生が尋ねてきて佑奈は驚いていた。
「わたくし3年1組の長谷川若葉と申します」
「えぇーっ! 長谷川ぁ!」
佑奈は茜のこと思い出して思わず腰を浮かせて逃げようとした。
「そう、茜の姉です」
「お姉さん!」
佑奈は妹の茜に邪険にしたから姉の若葉が佑奈にねじ込みにきたんだと思って身構えた。若葉はそんな佑奈の様子に無頓着に話を進める。礼香も興味ありげな顔で聞いている。
「いつも妹の茜がご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません」
「はぁ」
こんな時に上級生に向かって「オタクの妹には本当に迷惑なことされています」だなんて言えない佑奈であった。
「茜は昔からお姉ちゃん子でいつもわたくしに『お姉様、お姉様』ってくっついていたんですけども、今年の夏休みに大塚中学校に転向してまいりまして仲のよかったお友達とも離れ離れになり、わたくしも3年生ですので受験で茜にかまってやれなくなりまして茜も寂しかったんだ思いますわ」
「はぁ」
「だからカッコいい上級生の上月さんにあこがれちゃったんだと思いますの」
「……」
カッコいい上級生の上月さんというのはいい響きだが、長谷川姉妹には言われたくない。ましてや妹のほうにストーカーのようにまとわりつかれるのは迷惑だ。
「茜にはわたくしのほうから上月さんにご迷惑を掛けないようよく言って聞かせますが、そういう事情なので時折茜とも遊んでやって下さいね。それではごきげんよう」
若葉は一方的に長谷川家の事情を告げると静かに去っていった。佑奈は若葉が教室から消えた後も一人ぽかんとしていた。チャイムが鳴り始めたので我に返った佑奈は
「これってあたしに妹の面倒見ろっていうこと!」
と単に若葉は茜が迷惑をかけている佑奈にあいさつに来ただけなのだが佑奈には茜を押しつけられたようにしか感じられなかった。

*** 茜の日記 *************

 今朝も佑奈お姉様をお家までお迎えにいったの。
佑奈お姉様はわたくしが来るのを玄関で待っていてくださり
とてもうれしかった。
また登校途中で佑奈お姉様と鬼ごっこをしたの。

 でも、家に帰ってきたら若葉お姉様が
佑奈お姉様がご迷惑しているから
家にまで押しかけないようにと言われたの。

**********************


第10章 茜の訪問
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古墳少女佑奈4  その8

2006年09月21日 14時05分49秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その8

第8章 失恋の痛手

 その翌日茜は失恋のショック?で学校を休んだ。悪ふざけが過ぎたと反省した莉奈が放課後茜の家に謝りにいったけど茜は「気分がすぐれない」と会ってはくれなかった。茜の母親の美幸に
「莉奈ちゃん、学校で何かショックなことがあったみたいなんだけど茜は話してくれないのよ。何か知らない?」
「じつは茜ちんにはあこがれの先輩がいまして、その人の妹になりたいとずっと一人で悩んでいたのであたしが見兼ねて無理やりその人のところに茜ちんをつれていってコクらせたんです。そしたら大勢の人が見ている前で見るも無残に振られちゃって茜ちんは立ち直れなくなっちゃったんです…」
「まぁ、そんなことがあったの…」
「だからあたしのせいなんです」
「莉奈ちゃんが責任感じることはないのよ。茜が自分から告白したとしてもダメだったんでしょうから。むしろ告白する機会を作ってくれて莉奈ちゃんに感謝するわ」
「でもあたしがおもしろ半分にコクらせたから茜ちんだいぶショック受けたみたいだしぃ…」
「大丈夫よ。ずくに回復しなくともいずれ立ち直るから」
「でもぉ」
「莉奈ちゃん安心して。明日はきっと学校行けるから」
「はい」
「明日学校で茜をやさしく見守って上げてね」
「はい」
複雑な思いで莉奈は帰っていった。

第9章 茜のお迎え
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古墳少女佑奈4  その7

2006年09月21日 14時00分40秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その7

第7章 莉奈のおせっかい

 翌日、まじめな茜は学校を休む理由を見つけられずに足取り重く大塚中学校に向かった。どうしても茜に学校をサボるという決断はできなかった。今朝は佑奈の家には寄らずに直行するのだが、ゴルゴタの丘に十字架背負って上ってゆくキリストのような気分であった。学校で泉崎礼香や上月佑奈に出会ったら何て言われるか考えただけでも茜はこのまま消えてしまいたいと思うし、永遠に大塚中学校に着かなければいいと思った。
 しかしいつもの道を歩いていくのだからやがて大塚中学校に着く。泉崎礼香や上月佑奈の姿がないことを確認しつつ小走りに校庭を横切り茜は1年生の昇降口に取り付くと上履きに履き替えて一目散に1年3組に向かった。また階段で泉崎礼香につかまったら大変だ。幸いにして無事1年3組にたどり着けた。
「おはようございます」
消え入りそうな声で茜はあいさつをして教室に入ってきた。親友の石田莉奈が茜の異変にすぐ気付いた。
「どうしたの? 茜ちんなんだか変だよ」
「そう? なんでもないけど」
「うそ、茜ちん何か隠してる」
図星なだけに茜の目から涙があふれた。

 昼休み、莉奈は朝から一人になりたがる茜を廊下に連れ出した。今日の茜は教室を移動するときも佑奈や礼香に見つからないよう教科書で顔を隠すようにしてこそこそしており、まるで警察から逃げ回る指名手配犯のように廊下に出ることをひどく恐れていたので
「莉奈ちゃんやめてよ。いやですってばぁ」
と普段上品な茜とは思えないくらい泣きわめき激しく莉奈に抵抗した。莉奈は女子生徒が体育の着替えに使う学習室という名の空き教室に茜を連れ込むとドアを閉めた。
「りっ、莉奈ちゃん。こんなところに連れ込んでわたくしをどうするつもりですの」
「茜ちん、どうしたの? 昨日から変だよ。最近すぐ泣くし」
「莉奈ちゃん何でもないわ」
と莉奈の視線から逃れるように茜は目を泳がせる。
「あたしたち親友でしょ。誰にも言わないから話してよ。力になるから」
茜はいやいやをする子供のように無言でかぶりを振った。
「前に言ったカレシに振られたとか?」
茜はギクッと身をこわ張らせた。
「そうなんだ。茜ちん元気出しなよ。男なんて星の数ほどいるんだから」
「違うの」
「えっ?!」
「男の子じゃないの」
「???」
「わたくし2年生の上月先輩にあこがれていて妹になりたいって思っていたの」
「そうだったんだ」
「だから毎日2年2組の教室に上月先輩のお姿を見にいっていたの」
「それで時折休み時間に茜ちんの姿が見えなかったんだね」
「きのう階段のところで2年生の泉崎先輩に呼び止められて『毎日上月先輩のこと見にきてるよね』って言われたの。きっと上月先輩の耳にも変な1年生が毎日来ているって入っているわ」
と茜は涙ぐむ。
「泉崎先輩ってやさしい人だって聞いているからそんな告げ口みたいなことはしないって」
「でも二人はご親友なのよ」
「茜ちん大丈夫だよ。泣くのは上月先輩から直接断られたわけじゃないし」
「そうだけど…」
「どうせあきらめるのなら上月先輩に直接アタックしてからにしましょうよ」
「えぇっ?!」
「『当たってくだけろ』っていうでしょ」
「もしだめだったらわたくし明日から学校来られないわ」
「そんときはあたしも一緒に不登校してあげるから」
莉奈は茜の手首をつかんで学習室を出る。
「ちょっと莉奈ちゃん。どこへ行くの?!」
「2年2組」
「いやっ、だめよ。放して」
「思いついた勢いでやらないとこうゆうのはだめなの」
「だって心の準備が…」
「思い立ったが吉日よ」
莉奈は階段を下って強引に茜を2年生の廊下に連れてゆく。嫌がる茜を莉奈が引き連れてゆく姿に2年生たちも何ごとかと注目していた。莉奈は2年2組の前のドアにゆくと茜を中に突き飛ばした。教室では佑奈が礼香と瑞穂と楽しげにおしゃべりしていた。そこへ茜がよろよろと現れたので佑奈と瑞穂は目を丸くしていたが礼香だけは優しい姉のようなまなざしで茜を見ていた。あこがれの佑奈お姉様のすぐそばに心の準備もないままに立たされて茜の頭の中は真っ白になった。佑奈がこの1年生何しに来たのかしら?という目で茜を見ている。礼香は佑奈に茜が毎日佑奈の様子をうかがいに来ていることは話していなかったのだ。茜は気まずい状況に何か言わなくてはと焦りまくり、するに事欠いて
「佑奈お姉様、わたしくを妹にして下さい」
と大きな声で告白してしまった。言ってから茜は自分がとんでもないことを口走ったことに気付いて真っ赤になってうつむいた。佑奈は
「はぁっ?」
とぽかんとしている。礼香が
「よかったじゃない。かわいい妹ができて」
と言い、瑞穂も
「へぇ~っ、佑奈ってそーゆー趣味だったんだぁ」
とニヤニヤしている。佑奈も我に返り
「あたしそーゆー趣味ないから。教室から出てって」
とけんもほろろに茜を突き放す。茜は見る見るうちに目に涙をためると
「佑奈お姉様ごめんなさい」
とだけ言うと「うわーん」と声を上げて2年2組の教室からかけ出していった。その場に居合わせた2年生たちも呆然と事の成り行きを見ている。おもしろ半分に茜を佑奈にけしかけた莉奈は予想外の剣呑な展開におろおろして
「茜ちん…」
と声を掛けるが莉奈のことなど目に入らないようだ。

 1年3組の教室に莉奈が戻ると茜は机に突っ伏してびーびー泣いていた。
「茜ちんごめんね。まさかこんなことになるなんて思わなかったの」
茜は泣くばかりで何も答えない。茜が泣きやまないので茜は保健委員に抱きかかえられるようにして保健室に連れてゆかれ、その日は終鈴まで保健室で泣いていた。終鈴が終り莉奈が保健室に茜を迎えに行くとカバンも持たずに茜はそのまま下校していた。

第8章 失恋の痛手
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古墳少女佑奈4  その6

2006年09月21日 13時57分02秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その6

第6章 礼香の尋問

 その日も長谷川茜は用もないのに2年2組の教室の前にきて佑奈の様子をうかがっていた。たまたまそこへトイレから帰ってきた泉崎礼香がやってきた。2年2組の教室の前を通り過ぎ一安心して階段を上って1年3組の教室に逃げ帰ろうとしていた茜の腕に手を掛けて
「ねぇ、あなた」
と声を掛ける者がいた。茜が振り返るとそこには上月佑奈の親友 泉崎礼香がいた。
「いっ、泉崎先輩!」
茜は飛び上がらんばかりに驚いた。長谷川茜は言葉遣いや振る舞いが優雅なのでどちらかと言えば上月佑奈というよりか泉崎礼香の妹タイプである。その二人が階段で話をしているのはじつに絵になる取り合わせだ。
「いつも2年2組の前にきて佑奈のこと見てるよね。佑奈に何か用があるの?」
礼香は優しく茜に問い掛ける。茜にすれば佑奈お姉様を心配する泉崎先輩が怪しい1年生をつかまえて尋問しているようにしか感じられなかった。
「いっ、いえっ、そのっ、あのっ」
茜は何て答えてよいかわからずへどもどした。
「佑奈に用があるのならあたしから伝えてあげるけど?」
そう言われてもパニくっている茜にはどうやってこの苦境を乗り切ればよいかわからず
「しっ、失礼しましたぁーっ」
と叫ぶと階段をかけ上がって逃げた。

 「はぁ はぁ はぁ…」
茜は1年3組の教室に駆け込んで自分の席についた。全力で走ってきたので息が荒い。どうやら礼香は茜を追いかけてこなかったようだ。それでも廊下のほうで物音がすると茜はギクッとして顔を上げる。そこにいたのは親友の石田莉奈だった。
「茜ちんどうしたの? お化けでも見たような顔して」
茜はそれに何も答えることができず「わっ」と泣き出した。
「あたしなんかまずいこと言った?」
事情のわからない莉奈はおろおろしている。茜はかぶりを振るだけで何も答えなかった。
*** 茜の日記 *************

 今日2年生の廊下へ佑奈お姉様を見にいったら
階段のところで泉崎先輩につかまって
「佑奈お姉様に何か用!」
と怖い顔でにらまれたの。
泉崎先輩はわたくしが毎日教室に
佑奈お姉様のことを見にいっていることを
知ってらしたわ。
佑奈お姉様の耳にも毎日様子を窺いにくる
変な1年生がいると入っていることでしょう。
あぁ、もう終りだわ。
学校に行きたくない

**********************

第7章 莉奈のおせっかい
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