YEAR3210

風に転がる迷走日記

酔眼突貫東方見聞録第四回、岩木山君の秘密

2012-01-27 20:35:06 | キリタンポ 岩木山 大館 秋田犬
再び青森の駅に戻る。戻ると言っても歩いて僅か三分の距離。駅前では乗降客や観光客の
ための除雪作業中。北国はなにかとタイヘンだ。皆、年配者。でも貴重な労働の場所なの
だろう。逆に見ればなんの生産性もない。くわえたばこの愛嬌のあるとっつぁんがオレの
顔を三秒見詰めてすぐに転がっているスコップを見た。無言のメッセージである。
駅前の路面に積もった雪は氷になって路面に張り付いている。大変な作業だ。五分ほど手
伝ったら汗ばんできた。時が迫ったので駅のホームへ行き大館に向かう電車に乗った。
車内販売のない電車である。
北東北の大地のど真ん中、雪列車は北西に向かった。
乗っているべき子分1号は別の車両でホタテの燻製を食べつつ日本酒を飲んでいた。ただ
ちにそのホタテを検閲し、赤紙を貼り没収、自分の席に戻った。
あたりは夕闇に包まれている。右手に険しい単独峰が見えてきた。その形から津軽富士
と称される岩木山である。富士山がフンカして上半分が吹き飛んだような感じである。

その昔、岩木山を擬人化した三味線演歌があった気がする。
岩木山は標高1642メートルの活火山であり冬を過ぎたら登山客で賑わう名峰だ。その向
こう側は世界遺産の白神山地なのだ。日本という国の自然の奥深さに感動しつつ持参し
た保険酒のウィスキーをその小さな金属のキャップに注いで一息に流し込む。喉から胸、
イブクロが燃え、そして流れる冬景色。黄昏を超え至福の時間である。非日常の時間は
幸福なのだ。この極めて貴重な時間のお供はファンタオレンジ、コカコーラ、コーヒー
牛乳であってはならない。風景や土地との意志疎通、一体感、だから不可欠は酒である。
弘前を過ぎ、大鰐温泉を過ぎ大館に向かう。到着時間の五分前に携帯のアラームを鳴ら
すそうとするが携帯は無情なことに電池切れだった。朝から殆ど使っていない。高速移
動していると電池の消耗はやたら早く使い物にならない。眠気はあったが寝ないように
した。寝入ってしまったら八郎潟
の人になってしまい人生の方向性、向かう方向を変えなければならない。だから寝ない
ことにした。
同行人が寝過ごすことが楽しみである。
大館に着くと夜だった。夜と言っても時刻はまだ5時過ぎ。夏であればまだまだ太陽
は西の高みにいる時間であるが兎に角、冬の大館は冷たく寒い夜だった。
電車を降りると真っ先にぶつかるのは犬の石像。秋田犬である。秋田犬の読みはあき
たいぬが正。あきたけんは間違い。50年以上生きてきて初めて知った事実。しかも国の
天然記念物。またぎの有能なる助手、わかりやすいところでは忠犬ハチ公だね。旅に出
て旅先でその風を感じる見て触って知識を得る、これは貴重である。別に知らなくても
いい知識でもそれは宝物になる。疑似体験として本から得る知識もこれまた貴重なので
ありますね。知らないことを知らないまま死んで行く、それはそれでつまらない、損だ
と思う今日この頃である。
青森駅から青森港までこんなに近かったとか青函連絡船が係留されていて乗り込めるだ
とか秋田犬のこととか全く知らなくその土地を訪れてなにかを発見する。まさしく酔眼見
聞録である。このような真摯なタイドがなせる技であることは…あり得ない。生まれ育った
千葉県の海岸、港でへらへらしている犬は野良犬という千葉犬である。
かつてあれだけたくさん港にいた千葉犬が全くいなくなってしまった時期がある。犬を
食す文化を持つ国の人々が捌いて食ってしまったというウワサがあったが真偽はどうな
のだろう。
さて、大館は秋田犬の産地でもあるが秋田名物、キリタンポの元祖の街でもある。いつの
間にか青森の人から秋田の人になっていた。迷走している。迷走犯は茨城、東京、埼玉、
栃木、福島、宮城、岩手、青森、秋田という大縦断の逃亡をしている。
大館の駅前にでると八階建てのひときわ高い建物が見えた。泊まるべき温泉宿だ。夕飯
は外食、朝早いので朝飯も不要、いわゆる素泊まりというやつ。料金、4500円。安い。
しかし実質その宿への滞在時間は追跡の目をはぐらかすためもあり5時間程度。まあ、
温泉と暖かい部屋だからそれでも安いのでしょうね。
宿のロビーは閑散としていて若そうな男が備えられているパソコンをいじっている。考え
てみたら日曜日の夜だった。見た感じ宿泊客はオレ達とその男だけだった気がする。同行
人は明日は八甲田山方面に向かうらしい。オレは朝早く次の目的地、宮城県名取に向かう。
フロントの人に朝早いのでと伝えると部屋の鍵はここに置いておけば良いからね、という。
誰もいないのですか?と問いかけると、多分という答えだった。おおらかな土地柄なんだな。
オレ達はタクシーを呼んでもらい予約してあるきりたんぽ鍋発祥の店に向かったのだ。